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ずっと心配してたんだ

 雑貨屋にカフェときて、最後の目的地はブティックだ。ランチを終えた後に洋服をいくつか買うつもりだったのだが……ギルバートはスレイに用事があるとかで俺が止めるのも聞かずに掻っ攫っていった。


 俺もついていくと言ったのだが、ギルバートは珍しく真剣な顔で「スレイくんと大事な話があるから」と言うし、スレイも「お嬢様は先にブティックで待っていてください。絶対に変な人について行かないでください」と念押ししてきた。子供じゃあるまいしそんな事はしない。


 大事な話とは言っても、変態(ギルバート)の事だ。本当は大した事じゃないのだとは思ったのだが、何やら耳打ちされたスレイは真剣な顔でギルバートについて行ったのだ。


 そうして仲間はずれにされた俺は一人でブティックに行くことになった。ガラスの扉を開くと、店の奥から店員らしき人が出てきて声をかけて来る。


「いらっしゃいませっ!何かお探しですか〜?」


「いえ、大丈夫ですわ。ありがとう」


 そのまま商品を勧められそうだったので、適当に誤魔化して店内を見回す。ブティックに用事があるのはスレイであり、俺は服に興味は無い。だがとりあえずは、スレイ達の話が終わるまでは時間を潰さないといけないのだ。


 貴族に仕える平民や商人向けの服は、子供服から大人向けの服まで品揃え豊富だ。貴族のオーダーメイドの服よりも安価だが、その分庶民向けなので装飾は少なく質素である。


(これなんて、リリアに似合いそうだな。はー…今どうしてんのかなぁ…)


 女の子用の可愛らしい服を見て回っていると、橙色の髪が視界に入った。咄嗟に泣き虫で鼻垂れの少年の顔が浮かぶ。


(…はぁ。さっきといい、この流れだと今度はメルタが居るのか?なんでこんな所に)


 ため息を吐いてそちらを見ると、そこに居たのは予想だにしなかった二人だった。


 相変わらず趣味の悪い装飾品が付いた服装の男と、清楚で愛らしいワンピースに身を包んだ少女は、兄と妹と言っても違和感は無いのかもしれない。


「わぁー!すっごく可愛い!オルゴさん、リリアに似合うかなぁ?」


「ああ、とても似合ってるよ、その服にするのか?」


「んーー…リリア、もう少し見てから考える!」




 息が、止まるかと思った。


 そこには笑顔で服を選ぶ、俺の妹…リリアが居た。




「オルゴさん、学校ってどんなところ?楽しい?」


「えっと……そうだな。勉強が難しいけど友達もいるし楽しいぞ」


「うーん。べんきょーかぁ……」


 リリアが服を選んでいる間、オルゴは話しかけてくるリリアの相手をしていた。2人は俺のことに気づいていない。そう、今の俺はレジーナお嬢様なんだ。気づくはずが無い。バクバクと早鐘を打つ心臓を抑えながら、静かに耐える。


「アイツの仕事のお陰で行けるようになるんだからな、沢山勉強して立派になれば、兄ちゃんが喜ぶかもしれないぞ」


「本当!?リリア、べんきょーがんばる!立派になる!」


「よし、それじゃ学校に行くための服探しから頑張ろうな」


「うん!よぉーし…あっ、お姉さんごめんなさい、ぶつかっちゃった」


「…!」


 ポスンと柔らかい衝撃がした。

 リリアがこちらを見上げて鼻を擦っている。


 ダメだ。今は公爵令嬢のレジーナだろ。堪えろ。


「い、いえ…大丈夫ですわ。…お嬢さんは服を探しているのかしら…?」


「うん、そうなの!ほわぁ…おねえさんすっごく美人さんだねぇ…!あ!そうだ!ねぇねぇ、どんな服が似合うかみてもらえないかな!」


 キラキラとした目でリリアがこちらを見ていた。長いまつ毛に縁取られた赤い目には、公爵令嬢であるレジーナが写っている。突然の提案に戸惑うが、俺が愛するリリアの頼み事を断れるはずがない。


「そうね…これなんてどうかしら…」


 先程、リリアに似合いそうだと思ったワンピースを差し出す。白地に薄桃色の刺繍が入っていて、袖や裾についたフリルが甘くて柔らかいデザインだ。


「わ!かわいー!リリア、この色好きなの!おねえさんありがと!」


「そう、良かった。その服を着たらきっと素敵な女の子になれると思うわ。…学校、頑張ってね」


「うんっ!リリア、いっぱいべんきょーするの!それでお兄ちゃんに沢山褒めてもらうの!お姉さんありがとー!」


 リリアが元気よくお礼を言うと、オルゴが一礼して、2人は試着室へと向かって行った。



 ……そこで、俺はとうとう耐えきれなくなって服屋の外へ出て行く。もう、これ以上は無理。限界だ。



「……っうぅ……っ!」


 こんな姿、誰にも見せられない。涙が止まらない。


 リリアの笑顔が、俺のために頑張っているという言葉が、心に刺さって抜けなかった。


 健気で頑張り屋の、俺の唯一の家族。


「…リリアぁぁ…!っ元気そうで、良かったあぁ…!」


 レジーナお嬢様であることも忘れて、俺は路地裏で涙を流し続けた。


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