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折角ですから

 今日は王国の祝日で、学園はお休みだ。


 今週はメルタに告白されたりアリステアに記憶の世界に飛ばされたり……色々と大変だったが、今日はスレイに誘われて2人で街に買い物に行くことになったのだ。久しぶりに街に出られることになったので、とてもワクワクしている。


 だがもちろん、屋敷の外に出る時も俺はレジーナ公爵令嬢様にならなければならない。


「ハンカチよし、鞄よし」


 俺は鏡の前で自分の姿を眺める。


 緩く巻かれた長い黒髪に赤い目。黒いワンピースに柔らかい白いレースのカーディガンを羽織っている。うん、我ながら素晴らしい美少女だと思う。磨き上げてくれた使用人達には頭が上がらない。


「お嬢様!準備できましたー?」


 俺の部屋の扉を開けて、明るい茶髪を二つ結びにしたメイドが入ってきた。


 彼女はキャル。この屋敷に住み込みで働いているメイドの一人であり、なんとスレイの親友でもある。元気な笑顔とそばかすが可愛らしい良い子で、屋敷では良く話し相手になってくれる。


「あら、もう大丈夫よ。ありがとう」


「いえいえ〜。お嬢様とお出掛けなんてアイツが羨ましいですよぅ。私は仕事があるのでついていけませんし」


「ごめんなさいね。屋敷の皆さんにはお土産を買ってくるわ」


「え!ほんとですか!やったぁ!楽しみにしてまーす!」


 きゃっきゃと嬉しそうに笑うキャルに見送られて、俺は玄関に向かった。スレイは既に外で待っているようだ。


「お待たせしました。遅くなりましたわ、ね…」


「いえ、まだ時間まで15分ありますから。それじゃ行きましょうか」


 そう言って微笑んだスレイの格好を見て思わず固まる。


 執事服じゃなくて私服だ。何時も見ている執事服や制服とは違ってラフな格好なのだが、俺の……いや、お嬢様の執事がカッコいい。エスコートもすごく手慣れているし、この気持ちはなんだろう。すごくムカつくということは分かる。


「え、痛っ、何ですか?どうしました?」


「いや…なんかすげぇムカつくと思って」


 俺は、正直な気持ちを伝える事は良い事だと思っている。馬車の中で、それでもニコニコしている腹黒執事を小突いた。



 ***



 大通りに着いた俺達は、まずは雑貨屋に向かう事にした。


 スレイがここで買いたい物があるらしく、可愛い小物や食器類などを見て回る。他にも女の子向けの化粧品から男心をくすぐるようなロマン溢れる道具まで揃っていて、見ているだけでも楽しめる。うお、このデカいうさぎのぬいぐるみ、リリアに似合いそう。


 スレイが熱心に何かを見ていたので話しかけてみると、どうやらティーカップの柄を選んでいたようだった。赤薔薇やレース柄…小動物に果物…なるほど、さては女へのプレゼントだな?


「あらぁ〜?可愛らしいティーカップですわねぇ?さては誰かへのプレゼントですの〜?」


 ニヤニヤしながら隣にしゃがむと、こちらに気づいたスレイは少し顔を赤くしていた。


「え?えぇ、まあ、そうですね…。その方にはいつもお世話になっているので、贈り物を探していたんですよ」


 ほほう。否定しないということは、スレイには良い人がいるのか。学園の女子生徒、いや、屋敷のキャル辺りかもしれない。珍しくどきまぎしていて、実に面白いじゃないか。


「へぇ〜?その方とはうまくいっていますの〜?」


「……それがあまり上手くいっていないんです。危なっかしくて、何をしでかすか分からないですし、いつも振り回されてばかりで」


「あら、そうなんですの?スレイは恋愛事もそつなくこなしそうな印象でしたわ」


 頭も良いしムカつくけど、学園に蔓延る王子達に負けないくらいに顔は整っている。公爵令嬢付き(俺のお守り)で忙しいとは言え、こんな優良物件を女の子達が放っておかない気がするのに。なんとも意外だ。


「それは買い被りすぎですよ、僕は恋愛なんてさっぱりです。今だって贈り物一つでこんなに迷っているくらいですから」


 ははっと苦笑するスレイは、困ったように眉を下げた。確かにこれは重症だな。よし、ここは人肌脱いでやろう。


「私にお任せなさい!こう見えて毎年、愛する女性にプレゼントをしてきた実績がありますわ。女心は心得ています」


 まぁ、渡す相手は妹だし恋愛なんて俺もやったことは無いんだけど。俺が胸を張って言うと、少しだけ間を開けた後に「助かります」とスレイは微笑んだ。


 ……さて、片想いの女子へのプレゼントだとすれば、普段使いしやすいデザインの物を贈るのがいいんじゃないかと俺は思う。


「相手の好みは分からないのかしら」


「……食べるのが好きだということは分かるんですが」


 だからスレイは食器を中心に見ているらしい。下手にハートなんかが付いた可愛い過ぎるもの、自分の趣味を全面に押し出したものだと、相手の好みに合わない場合があるし、シンプルな物が良いかもしれない。


「ふむ……。ん?」


 ふと目に入った白いカップを手に取る。縁には波模様が入っていて、光の加減でオパール色に輝いている。シンプルながら品のある美しさだ。


「なるほど、逆にそのような物がいいんですね」


「んー、日常的に使うものなら、あっさりしたデザインの方が気兼ねなく使いやすいと思いますわ」


 まぁこのカップは俺の趣味なんだけど。小さい頃に両親と遊びにいった湖畔の水面に似ていて、つい手に取ってしまった。しみじみと眺めていると、持っていたカップをひょいとスレイに取られた。


「ではこちらにします。お嬢様、ありがとうございました」


「えっ、そ、そう?なら良かった」


 会計へ向かうスレイは満足しているようだった。だけど俺が決めたような感じになってしまって、少しだけモヤモヤとした気持ちになった。


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