生徒会書記は変人
「はい終わりです。ご馳走様でした」
気がつくと、隣にいるアリステアがにっこりとした表情をしていた。満足したような微笑みが先程の無表情と結びつかなくてギョッとする。慌てて周りを見渡すと、そこは生徒会室ではなく禁書庫の中らしく、怪しげな本が一面に詰まっていた。
「これは……一体どういうことですの……?」
「夢渡りですよ。貴方が見ていたのは私の魔法で作り出した継ぎはぎの記憶の世界です」
手法じゃなくて、なんでそんな事をしたのかを聞きたかったのだけれども。
「…そんな魔法、聞いたことがありませんわ。禁術の部類ではありませんの?」
確かにこの世界にはあらゆる未知の魔法がある。だけど、そのような人の夢を操るという形で精神に作用する魔法は、吸血鬼の闇の眷属化と同じように禁術とされているのではなかっただろうか。
「いえいえ、確かに一般的ではありませんが、禁術ではありません。夢の世界で見た光景はあくまで記憶の予想風景です。実際に人間を操ったりするような大それたものではございませんし、無害ですから」
そういうとアリステアはにっこりと微笑んだ。
「では、私も久々に面白い夢を見られて満足しましたので、これにてお開きにしましょう」
「え?ちょ、ちょっと」
アリステアに押し出されるようにして禁書庫から出る。彼が扉の鍵を閉めると、さっきまでの喧騒が嘘のように図書館は静寂に包まれていた。
「スレイ君もルシア君も、よかったらまた禁書庫においで下さい。ではまた」
「待ちなさい!貴方は一体何者なんですの…!」
そう言うと、アリステアは闇に溶け込むようにして図書室の本棚の間に消えていった。彼に伸ばした俺の手の中には、三日月の細工が美しい金色の鍵が輝いていた。
***
「お嬢様っ!」
アリステアが何処かに消えた後、図書室のカウンターまで戻るとすぐにスレイがやってきた。事情を聞くとどうやら薬品などで意識を混濁させられていたらしい。
「お守りできず申し訳ございませんでした。まさか生徒会の書記が居るとは…お嬢様を危険な目に遭わせてしまいました」
「いえ、いいのですわ。私が無策でここに来てしまっただけですもの。スレイが無事で何よりです」
先程アリステアに見せられた記憶の世界では、いつもは悪魔みたいに余裕綽々……いや、最近は意外と感情を表に出すことが多い事は分かってきたけど、本物のレジーナお嬢様をシオンに追放されたスレイは壊れたように泣いていた。
……だから俺に生徒会を籠絡して欲しいと、お嬢様を貶めた人たちに復讐したいと思っているのかもしれない。
俺はまだ申し訳なさそうにしているスレイの頬に触れると、じっとその顔を見つめた。
「な、なんですか?突然…お嬢様?」
突然触れられて驚いたのか、スレイは目を丸くする。
「いいえ、なんでもありません。ただ、スレイの顔は今日もカッコいいなぁと思いまして」
「かっ!?はぁ!?なんなんですか!」
スレイの顔が真っ赤に染まる。うん、やっぱりコイツはからかうといい反応をする。面白いやつだ。
「ぶふっ!冗談だよ。さあ、そろそろ帰りましょう。遅くなったらメイド長に叱られてしまいますわよ」
「突然やめてくださいよ…はぁ、全く…。ルシアさん、貴方が無事で良かったです」
「あはは、ありがとさん」
生徒会の書記、アリステア。彼が何をしたかったのかはわからないが、変態共よりも一筋縄ではいかないであろう籠絡対象に、俺は一層気を引き締めた。




