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恐らく俺はやってない

 ……


 ドンドンドン!


「…?こんな朝から誰だ?」


 乱暴なノックにベッドから起き上がる。


 窓の方を見ると外では雨が降り出していた。明日くらいに降ってくればよかったものの……下水道掃除の仕事は中止だろうか、こんな日に限ってついてない。


「ルシア、居るか?」


「…チッ、オルゴかよ」


 ドアの外からは、男の声が聞こえた。どうせまた借金を取りに来たんだろう。俺は返事の代わりに舌打ちをする。


 金がないから取り立てられてばかりだというのもあるが、何よりもこいつは俺のことを舐め腐っていやがるのだ。ノックもせずにいきなりドアを開けるのがその証拠だ。


 案の定、そこには橙髪の男、オルゴが無愛想な顔で立っていた。相変わらず趣味の悪い服装で俺を見下ろすように睨んでいる。俺はこいつが嫌いだ。俺は今着ているぼろ切れみたいな服をつまみ上げて、見せつけるように鼻で笑う。


「なんですかオルゴ様。俺なんかの家にわざわざ来ていただけて嬉しいですねぇ。今月の分はもう渡しているはずですが」


「……はぁ、お前も飽きずによく続けるよな。いい加減、その薄気味悪い敬語をやめろ。気持ちが悪い」


 あぁ?と怒声をあげようとする俺を制しながら、懐から金貨を取り出すと、机の上にバンッと叩きつけた。金属が擦れる音がして思わず身をすくめる。それを気にせずオルゴは続けた。


「……この金で今すぐ国を出ろ。どうやらお前、貴族に追われてるらしいぞ?」


「はぁ?どういうことだ? 」


 オルゴの話では朝から役人が頻繁に来るらしく、それもこれも貴族の命令によるものということらしかった。そしてその理由というのが「裏町からこの人相書の人物を探せ」との懇願だったそうだ。


 …服装は女っぽい見た目だけど、どう見ても俺だ。


「なんだよこれ…」


 俺は、あまりの情報量の多さに眩む頭をなんとか起こそうと必死になる。そもそもなぜ追われてる。犯罪はギリギリ犯してないはず。まさか前にボコったアイツらが恨みで?俺はそんなことをぐるぐると考える。だが一つ思い当たることがあった。


(絶対、昨日の金髪貴族のせいだよなぁ…!)


 クソッと悪態をつく。だがしかし、考えるだけで事態が変わるわけではない。結局俺は追っ手が来る前に急いで荷造りをして、逃げる他なかった。


「オルゴさん?お兄ちゃん、おしごとに行くんじゃないの?」


「ああ、アイツは仕事で少し遠い所に行くんだ。しばらく帰れないと思うけど……」


「とおく……」


 リリアは目に涙を浮かべて俺の腕を掴む。正直心が痛い。それでもこうしなくては。一緒に居て、リリアを危ない目には合わせられない。


「…絶対帰ってきてね?」


 リリアは幼いが、何も理解していないわけじゃない。泣きじゃくりながら言うリリアの頭を撫でてから、もう一度強く抱き締める。


「当たり前だ。お兄ちゃんは必ずリリアのところに帰ってくる。だから、いい子で待っていてくれよ?」


「うん…」



 ***



 オルゴから貰った金を持って、国境までの馬車に乗り込む。隣国の港町まで逃げて暫く漁船の仕事でもすれば、陸に上がる事は少ない。それに人に紛れやすいから見つかりにくいはずだ。危険だが金払いの良い仕事だし、借金も返せる。


 雨は勢いを増して降り続けているため視界が悪く、窓を打つ雫に恐怖を感じた。ガタンガタンと揺れる車内では、乗客たちの話し声で溢れ返っている。


(……落ち着かない)


 周りをキョロキョロと見渡すが、皆それぞれ自分のことに夢中になっていて俺に注意を向ける奴はいない。それを確認すると、大きく深呼吸をした。最低限の荷物は持ったものの、着の身着のまま飛び出したようなものだ。


(朝ご飯も食べ忘れたし、やばいな…貧血になりそうだ)


 普段から節制していた生活が祟ったのだろう。


 俺は意識を保つのが難しくなり、乗り合い馬車の中でゆっくりと目を閉じた。



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