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昼食のひと時

「あ〜!スレイくん見つけたぁ!」


 昼食を食べる為に廊下を歩いていると、間延びするような甘い声が響き渡った。俺の隣を歩いていたスレイは後ろから腕を掴まれて、ぐいっとその声の主に引っ張られる。


「げっ……」


 振り向いて思わず変な声が出た。相変わらず目が笑っていない。


「んふふ、今日は一緒にご飯食べよぉ?ねぇねぇ、レジーナちゃん、スレイくん借りてもいいでしょ〜?ダメぇ?」


 語尾にハートマークでもつきそうな甘ったるい喋り方で話しかけてきたのは、実践授業以来の変態2号。ギルバートだ。保健室に運んで以来スレイを気に入っているらしく、こうして絡んでくる頻度が上がっていた。スレイを生贄にすれば、しばらく変態はそっちに気を取られて自由な時間が過ごせる。


 けど…


「ギルバート様。スレイは私と2人で食べるのでだめですわ」


 ぐいっとスレイの逆の腕を引いて、自然にスレイを変態との間に挟むように移動する。


 スレイがいないとネルス王子が寄ってくる。

 一緒にご飯を食べるなんてことをしたら、マリちゃんが突撃してくるのは間違いない。


 不幸の連鎖、いや、変態の連鎖が起こる。それが起こると俺たちが満足に昼食が取れなくなってしまうのだ。それは避けたいところだった。


「……お嬢様、あの、従者といえどそのように肌をよせるのは…」


「ギルバート様、申し訳ありませんがっ!私たちはこれで失礼しますわっ!」


「えー!?待ってよレジーナちゃあん!」


 俺たちはギルバートの叫び声を無視して中庭へと急いだ。


「ル…レジーナお嬢様、そろそろ手を離してください。僕は逃げませんので。」


「あらごめんなさい」


 スレイの言葉に慌てて手を引っ込める。いくら性別を隠しているとはいえ、人目のある所での淑女の行動としてこれはまずかったかもしれない。


 コホン、と咳払いをして空いている芝生の上に腰掛ける。


 周りの芝生やベンチでは、平民の女子生徒達がわいわいとお弁当を広げておしゃべりをしていた。食堂よりも活気があって楽しそうだ。


 何故わざわざ中庭に来たかと言うと、これだ。


「今日は私が特製のランチを用意しましたの。ご覧なさいスレイ!」


「…………お嬢様、これはちょっと」


 鞄からお弁当箱を取り出すと、スレイは困惑した表情を浮かべた。チーズサンドイッチに、チーズオムレツ。そしてお父様太鼓判の踊りキノコのミルクスープに、デザートには2種類のクリームをふんだんに使ったミルクレープだ。


 乳製品だらけとはいえ中には野菜や肉などが入っていて栄養バランスもよく、美味しく仕上がった自信作であるというのに、この執事ときたら。好き嫌いが激しい奴だ。特にスレイはキノコが苦手らしく、視界に入れないようにしている。


「まあ!あなた、なんというお顔をしているのですか。さてはこの私の完璧なお料理に不満でもおありですの?」


 ふんぞり返りながら睨みつけるとスレイが困ったような顔になる。


「不満なんて滅相もない。ですがそのお食事量といいカロリーのとりすぎではと心配しております」


 そういわれて、ふむと思い出す。屋敷を出てここに来るまでに、ミルクティー5杯とミルクプリン2個を食べてきたのだ。お昼ごはんの量としては少し多いかもしれないけれど、最近はやけに腹が減りやすくなっているので、これでも少し足りないくらいだ。


「ふぅ、スレイは頭が固くていけないわ。それに私はちゃんと学園のルールに従っていますもの。そうでしょう?」


「……ええ、まあ。そうですね……」


「なら何の問題も無いのです。そもそもあなたはいつも私の言うことに異を唱え過ぎですわ」


 ここにはメイド長(叱る人)は居ないし、この学園は『身分に関係なく尊く学びを得るべき』と言って、貴族でも平民でも自由に過ごすことができる場所だ。だからいつもの仕返しとばかりに、キノコをスプーンで掬ってスレイの口に突っ込む。こいつがキノコに苦手意識があることは料理長からのタレコミで知っている。だからこのお弁当を作ったとも言えるのだが。


「むぐ!?」


「ほらほらお味はいかがかしら?」


 ニヤリと笑うとスレイがムッとした顔でスープを一気飲みした。


「…不本意ですけど美味しいです」


「ぶふっ、あははは!素直でよろしい!」


 なんだか悔しそうな顔がおかしくなって吹き出してしまった。だってまさか普段は悪魔みたいなスレイがそんな風に言うとは。ちょっとからかいすぎたかもしれない。


 俺が笑っていると、スレイはすねた顔でつぶやいた。


「僕を籠絡したって意味ないんですけど…」


「あら?お気に召しませんでしたの?」


「そういう問題ではなくてですね……。僕はもうレジーナお嬢様以外の方に心を寄せることはないと思いますよ」


「ほぉー…さすがはお嬢様(わたくし)専属の執事」


 スレイをからかいつつ、おしゃべりをしながら食事をするのは、リリアと2人でご飯を食べていた時間を思い出して楽しかった。テーブルマナーを気にしなくていいので、週に一度はこうして食堂以外で食べるのもいいかもしれないな。


 デザートのミルクレープをもぐもぐと食べていると、何処からか視線を感じた。


「んむ…?」


 辺りを見回すと、柱の陰からこちらの様子を伺っている人物と目があった。橙色の髪をした少年が睨むようにこっちを見ている。


 誰だろう。この学園ではまだ見たことのない顔だ。中庭に居るということは平民の生徒?小さいし下級生だろうか。…でもなんだろう。なんとなくだけど既視感がある。


「どうかしましたか?」


「いえ、あちらに…あら?」


 もう一度振り返るが、そこには誰もいなかった。


「んー…?何でもないですわ」


 睨むように見つめられていたし、恐らく「平民の中になんで貴族が混ざってるんだ」と思われたんだろう。後で風紀委員会辺りにでも言っておこう思って、俺たちはそのまま昼食を食べ終えた。



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