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踊りキノコは出汁が美味い

「よーし、この辺がちょうど良いな」


 屋敷に帰り着くと早速王子に貰った踊りキノコの足を干すことにした。


 前にリリアと暮らしていた時にはよく食卓にあげていたのだが、王国では一般的には食材として使わないらしく、スレイからは信じられない物を見るような目で見られた。出汁として使うと美味しいと力説したのだが、あの時の料理長はルシアを可哀そうな目で見ていたのを覚えている。わが家相伝の味だというのに、失礼極まりない。


「おや?ルシア君。何をしているのかな?」


「あ、お父様、お帰りなさいませ。実は今日の授業でこれを頂いて……。どうせなら明日の夕食に美味しくいただきたいと思ったんです。一晩乾燥させると出汁が出やすくなって良いんですよ」


「ほう、踊りキノコの足かぁ、懐かしいな。僕も学生の頃に良く倒したよ」


 ちょうどそこに通りかかったレジーナの父親であるジルヴァ=サリ=ケイプ公爵に声をかけられて答えた。公爵は緩く巻いた黒髪に優しげな夕暮れ色の目が印象的な男性だ。いつもニコニコしていて、厳しい使用人達とは違ってとても優しい方だ。公爵きっての頼みで俺は彼を「お父様」と呼んでいる。


 干して食べるというルシアの言葉を聞くと「なるほど」と言って何やら考える素振りを見せた後、吊るしていたキノコの足に手をかざした。


「風よ。清涼なる乾きを与えん」


 そして手のひらを下に向けて腕を振るう。その動きに合わせるように空気が流れて、吊るされたキノコが風に揺れてカサコソという音を立てた。


「これで今夜中にでも食べられるだろう」


「おおー!?すげー!」


 まさか公爵様直々に乾燥させてもらえるとは思ってもみなかった俺が感嘆の声をあげると、お父様が苦笑する。


「君は本当に面白いなぁ…」


「え?そ、そうでしょうか?」


「うん。普通貴族の前でそんな声を出したりしないんだよ。少なくとも私の記憶にはないね」


 その言葉を聞いて、氷の刃で脅してきたメイド長が頭に浮かぶ。ぞぞぞと背中から冷たい物が上がってきた。もしかしなくても、今の発言は無礼極まりなかったのではないか。最悪、公爵家の力で……


「も、申し訳ございません!礼儀作法がなっていませんでした…!どうかご勘弁を!!?」


 真っ青に青ざめたルシアが頭を下げると、お父様はハハハと笑って頭を撫でた。


「違う違う、レジーナもそうだったら、もっと楽に暮らせていたのかなぁって思ったんだ。ルシアくんはそのままでいて欲しいな」


「で、でも…」


「ハハハ。いいから、いいから」


 そう言ってお父様は少し寂しそうに笑って俺の頭を撫でていた。


 その時の俺には何も言えなかったけれど。ジルヴァ様の大きな手は、ほんの少しだけ両親の事を思い出させるものだった。



 ***



 さて、厨房だ。踊りキノコの干物を面白がったお父様に了承を得たので、さっそく調理を始めることにした。髪を纏めてエプロンを着ていると、料理長が死んだ目でこちらを見ていた。


「ほ、本当やるんですかぁ…?」


「おう!お父様も食べてみたいって言ってたからな。腕によりをかけて作るよ」


「ご主人様がぁ!?マジですか…うぅ…」


「嫌だろうけど、ほかの人に見てもらいながらじゃないと危ないから駄目って言われたからな。料理長もちゃんと見ててくれ」


 料理長が頭を抱えているが、気にせず出汁を取っていく。


 鍋の中に水を入れ火にかけて、沸騰したところに干したキノコの足を入れると、数分経たずにキノコが水を吸って膨らむ。


「大丈夫なんですかぁコレ…倍以上に膨らんでそうなんですけど…」


「大丈夫大丈夫。この膨らんだキノコは食感が面白いから、別の料理に使っても美味いぞ」


「本当ですかぁ…?」


 すると周りに出汁が滲み出てくるので、薄い黄色が茶色に変わるまで煮出していく。

 キノコを取り出して少し煮込めば、出汁の完成だ。


「うん!美味い。料理長も味見してみてくれ」


 出来上がったキノコの出汁を皿にすくって差し出す。「お口に合うかどうかわかりませんが」なんて言っているが、本当は自信作なのだ。おずおずとそれを口にした料理長が目を瞬かせた。


「こ、これは!?こんなに簡単に、こんなに上品な香りが漂う繊細な味が出せたのですか?それに、舌触りといいコクと言い……信じられない……」


「ふふーん!そうだろそうだろ!」


 そう呟いたままぐびぐびと飲む料理長の反応を見て俺は鼻を高くする。


 そのあとは料理長が目を輝かせて踊りキノコの出汁を使った料理の案を色々と挙げ始めた。どうやら気に入ってくれたらしく、俺はさらに胸を張るのだった。


 夕食では、料理長の手によって出汁はそのまま香草と少し味を足したスープに、膨らんだキノコは刻んで炒めてカルボナーラ風の料理に変わった。モチモチとした食感はマカロニに近い。


「うまっ…!さすが料理長、初めての食材のはずなのに踊りキノコの調理が上手い…!」


「これが踊りキノコなのかい?へぇ、魔力が回復しているようだ…魔物食とは興味深いね」


「………」


 どれも美味しい踊りキノコの料理を次々に食べていると、控えているスレイがとても苦々しい顔をしていたが、お父様はとても美味しそうに出汁を使ったスープを飲んでくれた。


 夕食の後に料理長から、もっと知っている食材について教えて欲しいと頼まれたので、他だとツマビキガエルの肉が柔らかくて鶏肉の数倍美味しいという話をしたら、流石にそれは無理!と速攻で拒否された。けど、食べたらまたおいしい!って思うんだろうな。


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