3.境界線を越える理由
界孔が、脈打っていた。
丘の上から見たそれは、ただの歪みにしか見えなかった。
だが、今は違う。
村の外れ。
黒い渦がゆっくりと呼吸している。
「……」
足が止まらなかった。
理由は分からない。
ただ、視線が外せない。
胸の奥がざわつく。
怖い。
それは分かる。
けれど。
それ以上に――
“知りたい”
その感情が強かった。
「ジン」
後ろから声がした。
「行くの?」
振り返らない。
「……分からない」
正直に答える。
「でも」
一歩、前に出る。
「行かないと、何も分からない気がする」
沈黙。
足音が近づく。
隣にリシェルが立った。
「バカ」
小さく呟く。
「死ぬよ」
「……かもな」
否定しなかった。
界孔を見つめる。
その奥に何かがある。
確信に近い感覚。
それはジンのものか。
それとも俺のものか。
もう分からない。
「ねえ」
リシェルの声が、少しだけ揺れる。
「戻ってきて」
その言葉で初めて振り返った。
彼女は笑っていなかった。
ただ、まっすぐこちらを見ている。
胸の奥が少しだけ痛んだ。
でも。
その感覚よりも。
界孔の引力の方が強かった。
「……ああ帰ってくるよ」
短く答える。
そして。
一歩、踏み出した。
空気が変わる。
温度が落ちる。
音が遠くなる。
境界を越えた。
その瞬間。
世界が反転した。
光が消える。
足場が消える。
落ちる。
闇の中へ。
そして――
何かが、こちらを見ていた。
心臓が跳ねる。
理解した。
ここは。
“生きて帰る場所じゃない”
なのに。
胸の奥が熱い。
恐怖と。
ほんの僅かな高揚。
それが混ざり合い――
“刻み”が、深くなる。




