31.土の都
ランデル。五大都市の一つであり、土の都と呼ばれる都市だ。
オルテニシア王国内における採掘資源の九割を担っており、鉱山都市として広く認知されている。様々な加工品に使われる鉄鉱石。雨風に強い建築用の石材。金、銀、銅と言った希少金属。どれもこれもがランデル産だ。
また、採掘される資源の品質が高いことでも知られていて、高値で隣国への輸出を行っている。そのため、財政面が非常に潤っていることでも有名だ。
国の発表では、貴族を除く高額所得者の過半数がランデル在住らしい。彼らを揶揄するため、資源王国という蔑称が付けられるくらいだ。
そんな、一見華やかに思える都市だが、裏の顔もある。都市部として人が集まる地域以外のほとんどが荒野か砂漠、もしくは鉱山なのだ。つまり、都市部以外は住めたものではないということである。
その荒野を通る道に、今、一台の馬車が走っていた。中には人影が二つ。一つはショウで、もう一つはリンネだ。
「そういえば、オークとゴブリン達がエルフを襲った理由は何だったんだ」
「大きい理由は二つじゃ。魔王がいなくなったことで、オークが次の魔王として名乗りを上げたかったこと。もう一つは、主に食料を目的とした資源が欲しかったことじゃな」
「ふーん」
自分から聞いたにもかかわらず、ショウは興味なさげに相槌を打つ。あまりに普通過ぎる内容で、興味を失ってしまったからだ。
「それよりも、いつになったらランデルとやらに着くのじゃ。かれこれ十日は馬車を乗り継いだであろう」
「もうすぐだ。外に街が見えるだろう」
リンネが馬車から顔を出し、目を細める。すぐに明るい表情となり、楽しそうに口の端を上げた。さらに、アイリスからの旅立ちのプレゼント――首から下げている小型の時計を確認する。もう一段表情が明るくなった。
「ショウよ、今は十一時じゃ。街に着いたら何か食べるとしようぞ」
「お前本当に食い意地張ってるよな」
「な、なんじゃその言い方。まるで妾が食いしん坊みたいではないか」
「違うのか」
「違うわ! これは……そう、調査じゃ。国をつくる上で、食糧問題は欠かせない問題じゃからの」
「へー」
ショウは生暖かい視線をリンネに注ぐ。恥ずかしいのか、はたまた怒っているのか、リンネが顔を赤くした。
「その目をやめるのじゃ!」
「はいはい」
「なんなんじゃその態度は!」
「ええい、うっとおしい。静かにしろ」
なんともない、いや、微笑ましい口論が続く。その様子がおかしいのか、馬車の運転手が「仲の良い人たちだ」と漏らすのだった。
それから一時間程経過する――。
ショウの目の前には、ランデルの大通りが広がっていた。石造りの床は、所々色違いの石が混ざっていておしゃれである。街並みも洒落ていて、レンガ造りの建物が多く見受けられた。
「ここがランデル……。山ほど建物があるのう。それに人も多い。妾の時代とは大違いじゃ」
リンネが目を輝かせながら辺りを見渡す。発言からわかる通り、物珍しいのだろう。時折、小さく口を開けて「おおっ!」と歓声を上げた。
「さて、お前曰く調査とやらに行くとするか」
「その話題を引っ張るな!」
「わかったわかった」
「むぅぅぅぅ」
リンネが頬を膨らませる。その様子が、あまりにも妹にそっくりだったため、つい指で頬を押してしまった。
「何をするか!」
「ははっ。からかいがいのあるヤツだ」
「うぐぅぅ……。今に見ておれよ、ショウ」
「やれるもんならな。それより、この店に入るぞ」
手近にあった喫茶店を指さす。その瞬間、リンネの興味が移ったようだ。すんすんと鼻を鳴らし始める。
「何を馳走してくれるのじゃ」
「中に入ってから決める。とりあえずついてこい」
ドアを開けた。看板娘らしき女性がやってきて、席に案内してくれる。そして席に座った後、リンネにメニューを渡した。
「ショウよ。何じゃこれは?」
「この店で食べられる料理の一覧だ」
リンネの顔が燦然と輝く。さらに、もの凄い勢いで目を通し始めた。が、すぐに悲しそうな表情を向けてくる。
「文字が読めぬ……」
「……数字は読めても文字は無理だったか。後で対策を練ろう。とりあえず、今は俺と同じものを食べるとするか」
「うむ……」
目に見えて落胆していた。おそらく、『選んでいる内が一番楽しい』というやつだろう。妹にメニューを早く決めるように言うと、決め台詞のようにして返ってきたものだ。
――しょうがないヤツめ。
軽くメニューに目を通し、間違いなく機嫌を取れるであろうものを見つける。幾度となく妹に奢った実績のあるものだ。
「店員さん」
「はい。お伺いします」
「チーズグラタン二つと、食後にパフェを一つ。あとコーヒーも一つお願いします」
「かしこまりました」
店員が一礼し、去っていく。
「ショウよ。チーズグラタンなるものの後に頼んだものは何じゃ。食後と言っておるからには、食べた後に食べるものなのであろう」
「楽しみにとっておけ」
小さく笑い、リンネがどのようにしてパフェを食べるかを予想するのだった。
その後、程なくしてチーズグラタンが運ばれてくる。この店は、鶏肉と野菜をふんだんに使ったレシピのようだ。とろけるチーズの下に、それらが非常に美味しそうに隠れて見える。
「では、いただきます」
スプーンですくう。湯気が上がり、伸びるチーズが途中で切れた。それを口に運ぶ。
「……チーズの味が若干濃いめだな。けど、間違いなくうまい」
二口目を運ぼうとする。そのタイミングで、リンネが真似をするようにして一口目を口に入れた。
「何じゃこれは。この伸びるヤツの味なのか」
「うまいだろ。それがチーズだ。この料理自体はグラタンと言う。チーズが入っているからチーズグラタンというわけだ」
「なるほど。とにかくこのチーズなるものは美味なのじゃ。今度、アイリスにこれを使った料理を作ってもらわねば」
リンネが言えば、アイリスなら喜んで作ってくれるだろう。そう思いながら、グラタンを食していく。大した時間もかからず、無くなってしまうのだった。
そして、無くなるタイミングを見計らったかのように、コーヒーとパフェが運ばれてくる。店員が察してくれたため、パフェはリンネの前に置かれ、コーヒーは目の前に置かれた。
「ショウよ。その黒い液体は何じゃ」
「コーヒーだ。お前には飲めんと思うぞ。お子様っぽい舌をしてそうだしな」
「むっ、ちょっと飲ませい」
「まったく仕方ないヤツだ。ほれ」
リンネが受け取ったコーヒーに口をつける。思った通り、すぐに表情を歪ませた。
「なんじゃこのただただ苦い飲み物は……」
「だから言っただろう。お子様舌には無理だと」
リンネからカップを受け取り、香りを嗅いでから口をつける。やや渋みのある味わいがいいものを引き出していた。
「それより、さっさとパフェを食べてみろ。ちなみに二個目はダメだからな」
「チーズグラタンで腹が膨れておるのじゃ。二個目など無理に決まっておろう」
そう言って、リンネがパフェを口に運ぶ。
ほんの少し後の事――。
「ショウよ。このパフェなるものをもう一つ――」
「ダメだ」
「た、頼む」
リンネが物欲しそうな瞳で見つめてくる。しかし、この視線の受け流し方はよく知っているので、通用することはない。
「それじゃあ行くか」
立ち上がり、カウンターへと歩いていく。後ろからこのケチが、と言わんばかりの視線が飛んできたが、もちろん気にしてなどいない。
「すみません。現金でお願いします」
「かしこまりました」
普段のやり取りをし、いくらか銅貨を支払う。それからリンネと共に喫茶店を出た。
ちょうどそのタイミングで――。
「ふああぁぁ!」
目の前を走る少女が盛大に転んだ。手に持っていた袋から、いくらかの果物が転がっていく。
「大丈夫ですか」
声をかけて駆け寄りつつ、リンネに目配せする。転がっていった果物を魔法で拾い集めてくれた。
「いててっ……。あっ、ありがとうなのだわ」
「いいえ」
少女を引き上げ、リンネが集めてくれた果物を返す。すると、笑顔を見せ、栗色のショートヘアーを揺らしながら走り去っていった。
「……あの娘」
「ん? どうした、リンネ」
「……いや、気のせいじゃろう。なんでもない」
「そうか。なら、今から宿屋を探すぞ」
宣言し、街中を歩いていくのだった。
次回は12/3(木)です。




