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顔の良さと内面の良さが反比例する帝国の王子

左右にほぼ裸の美女をはべらかし、偉そうに王座に足を組んでふんぞり返る王子に私は跪いていた。

室内はろうそくの明かりのみ。彼の意地悪そうな顔が、薄光のせいで余計に意地悪そうだ。


 王子は国屈指の美少年でもあった。名はタンテと言う。透き通るような銀髪と、青い瞳に、雪のような肌。それに、女の私が見間違えるほど女の子っぽい顔つきをしており、中性的だ。国の民にも愛想がよく、貴族の間でもファンが多い。

しかし、それは表の顔だ。


 本当の彼は女癖が悪く、ついでに異常性癖者だ。噂では貴族の少女と3股をかけているらしく、前には王子の命令で田舎の村に騎兵隊が送られ、帝国の命令だと権力で村人を黙らせ、少女たちをここまでさらって来たそうだ。そして、集められた少女たちは王子の好きなようにされ、快楽の限り遊ばれたという。その後少女たちの行方はわかっていない。中性的な見た目の中の裏には、洞窟のオークも顔負けの欲深さと残酷さがあるというギャップが私には衝撃であった。


 このいわゆるクズ男は、女でありながら剣士をつとめる私を珍しがり、えらく気に入っている。一応私は、この男の身辺警護をしている。帝国には何人か王がおり、それぞれが異なる場所に城を構えている。この男に何回も上から目線で口説かれ、断るたびに私は暴力と無茶な命令を浴びせられてきた。

 


「ねえエリン、お前はこれから俺の女になるわけ。空が青いのと同じで、これは変わらない。

もし次断るんなら~、騎兵隊に君をリンチするよう命令したあと、”暗黒大陸”の入り口に置き去りにするかも」

 王子は私にニッコリと笑いながら、およそその顔からは想像もつかない言葉を言った。

私は腰の剣に手が行きそうになるのをこらえる。私は怒りを顔に出さないよう必死だった。



 暗黒大陸とは、我々人間に敵対する魔物が住まう地域だ。ある日、空から巨大な黒き城が降りてきた。

あまりの大きさに、人々は天界の山脈が地上に落ちてきたのだと錯覚したという。魔物たちは4つの大陸の内の

一つを完全に支配し、そこを拠点に人間界に攻撃を仕掛けてくる。


 エルフやフェアリーといった魔物も同時にやってきたが、なぜか人間界に上手く溶け込んでいるので、街でよく見る。実際私もエルフの仲良しの子がいる。人間が率いる帝国と、魔物たちとの戦いは200年に及んでいた。


 近年は魔物の進化が目まぐるしく、帝国は劣勢を強いられている。このまま世界が支配されてしまったら、どうなるのか怖かった。魔物の拳は基本的に岩を砕く。生身の人間ではまず勝てない。世界がこんなにもひっ迫しているというのに、このクズ男は何故快楽に溺れられるのか、私にはわからない。


 私は王子の言葉に、無言を貫いた。否定とも肯定ともつかない態度を保つ。しびれを切らしたタンテ王子は、まるで害虫でも見るような冷たい目で私を見ると、腰の剣を握った。左右の女が慌てふためく。その時だった。



「――王子!! 何者かが、この城に一直線で向かってきています! あれは...馬でしょうか?」

「規模は?」

「一人です」



「僕が剣の錆にしてあげる。不届きな輩は首をとって晒し者にしないとね」

 どうせさっきから居たのだろう。柱と柱の間の暗闇から突然騎士が今急いでやってきたみたいに

飛び出てくると、そう王子に伝えた。


 私は逆上しなくてよかったと思った。おそらく、私達のやり取りをずっと見ていたのだ。このクズ男、

私がキレて、自分に逆らう現場をつくりたかったのだろう。それを口実に、私に良からぬことをしたに違いない。

護衛を隠して配置しておくのは、王子の常套手段だった。

 剣を抜いた王子は、目を歪め不気味に笑った。


 城の外に出ると、不届きな輩とやらを、私は草原の向こうに確認した。馬にしては妙に速さがある、白と銀色の四角い塊だった。少し滑稽ななりだった。タンテ王子や、他の騎兵隊もそれを見て下品に笑っている。


「ふん、この僕に一人で挑もうなんて愚かだ。帝国屈指の腕前だって言うのに、あいつ死んだね」

 銀色の塊が、25mくらいに迫ってきた。なんだか変だ。私はそれに目をみはった。

タンテ王子が、それに剣先を向けて叫ぶ。鎧の男たちが、剣や槍を構えながら突進する。



「ゆけ、ゆけ! あの不届きな輩をひっとらえろ!!」



「うあああ!」

「うぐっ!」

「王子!!」



 私は驚いて剣を落としそうになった。武装した男たちを、なんとその銀色の塊は軽々と蹴散らした。

蹴散らしても止まる気配はなく、まるで闘牛のように向かってくる。



「全く役に立たないやつらだ! エリン見てろ、これが帝国軍出身であるタンテ様の秘技だっ!!」

 そういうと王子はターッ!と闘声を上げながら突っ込んでいく。



 嫌な予感がする。おそらく王子じゃ勝てない。なぜなら王子は戦場に出たことがないからだ。

戦場に出るより、人に迷惑をかけてまでも自分の欲を満たすほうが得意なのだ。

一応私は援軍を呼ぶべく、馬にまたがった。そして、王子を助けに行こうとしたときだった。



「い、いやだ! 死にたくないっっっ!! エリン、助けろおお!!!」



 私が振り向いたときには遅かった。王子は無様に宙を舞っていた。そして地面にボロ雑巾のように落下した。

近づくと、地面で昆虫みたいにひっくり返っていた。後転している最中で止めたような姿で。

王子がジタバタする。鎧が邪魔で起き上がれないようだった。何故か私の馬が、驚いたのかたたらを踏んだ。



「うっうぅ...いってええ」


「...」


「な、何を見ているっ...」


「いや...その、はい笑」



 王子は苦しそうだ。私は吹き出しそうになるのをこらえる。

しかし、王子の悲劇はこれだけにとどまらなかった。


 銀色の塊は、王子をはね飛ばしても止まらず、その車線は城に向いていた。

タンテ王子の顔が青ざめる。真っ白な肌で冷酷な表情をしてみたり、真っ赤になって怒ってみたり、

よく顔の色が変わる男だ。



「や、やめろおお!!! 僕の城だ! やめろおォ!!!!」



 銀色の塊は、王子の城に激突した。まるで巨大な落石のような轟音が草原を駆け抜けた。

信じられないことに、城は半壊した。もはや住めるようなものではなくなった。

それを見届けた王子は動かなくなってしまった。そうとうショックだったのがうかがえる。


 きっと、あの銀の塊はタンテ王子の今までの行いに見かねた神の送った天使かなにかだろう。

ついに天罰が下ったんだ。


「...王子、このあとはどうしましょう」


「今は...一人にしてくれないか」


「わかりました、それではまた後ほど」

 私は無愛想に返事をし、そのまま振り向いて馬の止まるところまで歩く。



「いや、まて! エリン! まずは俺を起こしてからにしてくれ、待ってくれえ!!」

 王子が何か喚いている。でも私は聞こえないふりをする。

だって、一人にしてくれと言ったのは王子だ。

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