陣営の不安 異変
先のレースを終えて、的場騎手の心に波紋が広がっていました。それは言いしれぬ不安からくる気持ちのざわつきです。
それは結果についてではありません。
ライスシャワーの走りに対してです。
それまでのライスシャワーといえば、前を走る馬に噛りついてでも前に出てやるという闘争本能をもって走る馬だったといいます。
それに賢いライスシャワーは騎手の手綱捌きに従順で、ゴーサインを出せば鋭く反応していました。
しかしオールカマーでは、的場騎手が「このままの差ではまずいぞ」と早めの追い出しに掛かったのですが、ライスシャワーは以前のように反応しませんでした。
上がり3ハロンのタイムこそ全馬中2番目の数字でありましたが、的場騎手は今までのライスシャワーとは何か違うと感じました。
因みに上がり3ハロンとはゴールまでラスト600メートルのことです。
見た目はどこも悪くないし、調教でもよく走っている。だけどもレースにおける闘争本能が欠けている。そんな状態だったといいます。
休養明けですし、人間でも休みボケはしますからそういうことなんじゃないか。と、陣営は一抹の不安を抱えながらも次走の走りに期待しました。
ライスシャワーと苦楽を共にしてきた川島厩務員は、優しく撫でながら語り掛けます。
「大丈夫だよライス。また次頑張ろう」
ライスシャワーはひどく穏やかな顔つきで、嘶きました。




