遠方にある人を思う
4話
しばらく歩いてようやくエルエスについた。
ここエルエスは俺の家から一番近い町である。一番近くても北に1時間以上アルカナければならないのだが。
ちなみに俺がこの町に来たのは3度目だ。
1度目は2歳の時に来たらしく記憶にはないが、2度目は4歳の頃に俺が町を見てみたいと行ったので、最初は反対されたがずっとぐずっていたのでレイドが連れて来てくれたのだ。
「うん。やっぱりすごいよここ。」
町に入るために税である銀貨1枚を払って、町に入り俺が初めに発した言葉だった。
やはりというか何というか。
予想していた通りの中世ヨーロッパをモチーフにしたかのような町の作りなのだ。
異世界といえば中世ヨーロッパ。見事にこの設定を裏切らない。
エルエスは町の中でも大きい方らしい。
店も多く人で賑わっている。
冒険者ギルドもあり、レイドがいつも依頼を受けているのもこの町だ。
まだ王都への馬車が出発するまで2時間はあるな。
さて、何をしよう。
少し町を見て回るか。
雑貨屋、鍛冶屋、武器屋、宿屋、薬屋、料理屋、すこし歩くだけでいろんな店が目につく。
そこで『ディオールの武器屋』という看板が目に入ったので、入ってみることにした。
カランカラン。
「いらっしゃい。お、こんな若えのが来るのは珍しいな。どうしたんだ坊主。何か欲しいものでもあるのか?」
武器屋のドアを開けて入ってみると
カウンターに座ってる筋骨隆々の40代ぐらいのナイスガイが俺をみるや否や声をかけて来た。
この人以外は誰もいないとこをみると
この人がディオールって人なのか。
「いえ、すいません。興味があったので見に来ただけで特に何か買いに来たわけではありません。お金もないですし。」
「そうかそうか。その歳で武器に興味があるとはなかなか見所のあるやつだ!好きなだけ見て行ってくれ。」
「ありがとうございます!」
いい人そうでよかった。もし「冷やかしなら帰ってくれ」なんて言われたらどうしようかと思ったもんだ。いやあんなベテランのハンターみたいな男に敵うわけがないからその時は帰るしかないんだが。
俺はそれから30分ぐらい色んな武器や防具を眺めていた。
短剣からロングソード、杖や弓まで幅広く取り揃えていた。
色々見たが俺は1つ気になったものがあった。
「これってもしかして.....」
俺はレイドから出発する直前に、もっといいものを持たせてやりたかったが、だがないよりましだろうからと持たされていた短剣と見比べた。
....................
似ている。
長さはもちろんのこと、模様まで全く同じ.........
いや違う。よく見れば柄の模様がすこしだけ違う。
こんなによく似たものがあるもんなのか。
「お、どうしたんだ坊主。『ミシェルタガー』が気になるのか?」
この剣は『ミシェルタガー』って言うのか。
「は、はい、僕の持っているのと良く似ていたもので少し気になって。」
「もしよかったら少しその剣見せてくれないか?」
そう言うとカウンターからディオールが出て来て俺の短剣を見た。
「お前これ.......そうかお前がレイドの息子か!」
「え?」
話を聞くとどうやらこの剣はレイドが俺のためにこの店で買ったらしい。
しかし倉庫にあったものだと聞いたがなぜそんな嘘をついたのだろう。
「あぁそれは、照れ臭かったんだろうよ。あいつ俺と会うと剣か坊主の話ばっかりだったんだぜ。」
話を聞くとレイドは俺のことを「世界で一番可愛い子供」だの言っていたそうだ。
俺から剣術を教わりに来た時などもうそれはそれは嬉しそうに俺のことを語るレイドの話を1時間以上は聞かされたらしい。
そうだったのかレイド........
レイドにも抱きついてやればよかったな。
「あとお前に心配かけたくなったってのもあるかもな。その剣は『アイントタガー』って言って、そこに置いてある『ミシェルタガー』と同じ人物が作ったもんでな。その人物ってのがタラルって言う腕利きの鍛冶師なんだがしらねぇか?まぁそのタラルが作った剣ってのは切れ味がすごいのはもちろんなんだが、剣身に施されてる模様が術式になってるらしく、魔法を使える奴が持つとより切れ味が増すって代物なんだ。だから魔法を使える奴しか普通は使わないんだが剣身に術式を施している剣なんてそう滅多にあるもんでもないんでな。その短剣はどっちも一本で金貨15枚の価値があるんだよ。」
「.................」
思わず声がでなかった。
この短剣が金貨15枚???
この世界での通貨は
鉄貨=100円、銅貨=1000円、銀貨=10000円、金貨=100000円
だいたい日本円に置き換えるとこんな感じになっている。
金貨15枚ってことは日本円で150万円。
俺を学校に通わせてくれるぐらいの蓄えはあるらしいがそんな簡単に150万円を出せるほど裕福と言うわけでもないはずだ。
レイドは冒険者としてかなり上の方であるらしいがそんなに稼いでいるのか?
いや稼いでいるとかの問題ではない。
あの時レイドは「もっといいものを持たせたかったんだが」確かにそう言っていた。
「レイドのやつ『一番いい短剣を見せてくれ!』って言い出してな。そしてその短剣を見せてやったら『こんなんじゃあラディには似合わないだろ!』って言い出してな。」
そういうと大声で笑うディオール。
そのまま10分ほど話を聞いていたが、どうやらレイドも俺を溺愛していてくれたようだった。すっかり長話をしてしまいそろそろ店を出ようとした時に
あいつにとって坊主は宝物なんだよと最後に付け加えた。
まぁなんだ。俺って幸せ者だな。
今度会ったら抱きついてあげよう。
そう思うラディであった。