愛情の絆
3話 両親
「お父さん、剣術を教えてください。」
「おぉ!ラディ!やっと剣術を覚えてくれる気になったか!」
このやけに息子に剣術の教えを請われて嬉しそうな茶色い髪でいい筋肉をしている男は俺の父レイド=バイオレットである。24歳。
レイドは冒険者をしていて今はBランクパーティーで活動している。
Bランクパーティーともなるとだいぶ顔が知れてるようで結構顔が広いらしい。
剣士なので前衛をしているようだ。
「ほんとうにいいのラディ?無理にしなくていいのよ?」
この綺麗なブロンドヘアの青い瞳をしたかわいい女性は俺の母ソフィ=バイオレット。22歳。
ソフィも昔は冒険者としてレイドと同じパーティーで活動していたそうで、腕の立つ魔術師だったのだとか、主に回復魔法で。この世界では回復魔法や身体強化魔法などの人体に直接関係する魔法を使えるものは少ないらしく、これらの魔法は魔力の大きさよりも『魔力を認識する能力』の方が関係するらしい。
ソフィは回復魔法はかなりの腕だが魔力が小さく(主に魔力伝導力の方)攻撃魔法はほとんど使えない、パーティーではかなり有望視される、今の俺の習うことはあまりないのだが。
「ソフィ....そんなこと言ってもしラディの気が変わったら.........」
「レイド!レイドはラディが危険な目に会ってもいいって言うの?」
「そ、そういうわけではないが.......」
「ラディは魔法の練習を頑張ってるじゃない!わざわざ剣術を教えて前衛に出したいの!?前衛がどれほど危険かわかってるでしょ!」
ソフィは俺に剣術を習って欲しくないようだ。
そらそうだ。俺が4歳の時にいきなり冒険者学校に行きたいと行った時もかなり反対された。
何でも自分が冒険者をやっていただけにその危険を知っているので息子にはさせたくないようだ。
おかげで説得するにはかなりの時間を必要としたわけなんだが。
一人息子が可愛くて仕方ないんだな。
うんうん。いいお母さんだ。
しかしここはきちんと俺の口から言っておいたほうがいいだろう。
「お母さん.....僕は前衛で戦うためじゃなくて自分を守るための術として習っておきたいんです。....それに学校に行っていきなり剣を持つのも不安ですし.....」
少し申し訳なさそうに言ってみる。
「ラディがそう言うなら......あなた!絶対に怪我をさせちゃダメだからね!」
「あ、あぁ!そうと決まれば行くぞラディ!」
ソフィから許可が出てレイドはとても嬉しそうだ。俺よりもはしゃいでる。
レイドはずっと俺に剣術を教えてがっていたが
俺が魔法に専念したがったこととソフィの強い反対があったから教えられなかった。
そんな息子が自分から剣術を習いたいと言ってきてくれてソフィの許しも得たのだ、さぞかし嬉しいのだろうな。
こうして俺はレイドに連れられていつも魔法の練習をしている森へと行くことになった。
はっきり言おう。
父レイドはかなり強い剣士だと言うことがわかった。
家ではソフィより弱いレイドであるが剣を持つとまるで別人のようだった。
オーラというかなんというかこれが威圧されるというものなのかと初めて実感した。
森に着くなり直ぐに剣を渡してきて、好きなように打ってこいと言った。
剣と言ってももちろん木剣であるが一方的に打たせて全て捌き切ることが本当に可能なのかと思った。
俺はアニメや漫画を見ていつも思っていた。
剣と剣であんなに攻防一体の死闘をずっと続けられるものなのか。現実であり得るのか。
そしてこうも思った。突きを捌くことなんて不可能ではないのかと。
頭や脇腹に斬りかかってきたのを剣で止めるのはまだわかる。実際不可能ではないだろう。ただ突きを剣で捌くのは本当に可能なのか。下手をしたら避けることすらできないのではないかと。
もしレイドが俺の突きを捌けなかったら。
そうも思ったが好きなように打ってこいと言ったのだ。
ならば好きに打たせてもらおう。そう思ったのだ。
なので遠慮なしの全力の突きを顔に向かって放ったのだ。
するとどうだ。レイドは木剣の面を向け右手で柄、左手で剣先を抑え俺の突きを木剣の中心で受け止めたのだ。
正直これにはかなり驚いた。
俺が突きをするとわかってから何秒あった?
恐るべき反応速度。そして確実に木剣の中心で受け止める技術。
レイド恐るべし。
それからは1時間以上ひたすらに打ち込みまくった。
そして流石に5歳の俺にはこれ以上はきつく、休憩をとることにした。
休憩を終えるとそこからは構え方など基礎的なことを教わった。
レイドが言うにやはり初心者だから動きが読みやすいんだとか。
初心者の方が突拍子もない動きをするから読みにくいんじゃないかと聞いたら、
攻撃のパターンではなく体の動きで次の行動をある程度読んでいるから関係ないんだそうだ。
そして日が沈む前に家に帰宅し、今日の練習は終わりとなった。
そして家に帰ると夕食ができていたので
みんなで夕食にした。
「お父さん凄かったよ!ソフィはあの強いお父さんに惚れたんだね」
「ふふ、そうね。冒険者のレイドはとてもかっこよかったもの。」
「ハッハッハ。そうだろそうだろ!冒険者の俺はかっこ.......冒険者以外の俺は!?」
「ふふ、さぁ、どうかしらね。」
嬉しそうに答えるソフィ。
夫婦円満みたいで何よりだ。
これは俺に弟か妹ができるのも時間の問題かもな。
ーーーーーーーーーー
そしてあれから3ヶ月がたった。
レイドは冒険者を続けているので毎日練習というわけにもいかない。依頼によっては何日も帰ってこないこともあるしな。
それでもかなりレイドには剣術を教わることができた。
俺も最初の頃に比べればかなり上達した気がする。それでもまだレイドには一本も当てれていないが。
そして今日も練習メニューの一環となった打ち込みを終え休憩していると、
「なぁラディ。今から魔物を狩りに行かないか。」
唐突にレイドがこんなことを言い出した。
「大丈夫なんですか?危なくないですか?
怪我したらお父さんが怒られますよ?」
「俺を誰だと思ってるんだ。これでもBランク剣士だぞ?それにこの森にはジャイアントラッドぐらいしかいないしな。」
ジャイアントラッドとは高さ1メートルぐらいの四足歩行のウサギみたいな魔物である。
敵を見つけると猪のように突進してくるやつだ。いや、それ以外しないので猪といっても過言ではないのか。
そしてジャイアントラッドを探すことになった。
歩き始めて10分ほどで1匹のジャイアントラッドが歩いてるのを見つけた。
「ラディ、俺の後ろにいろよ」
そういうとレイドはパンッと思いっきり手を鳴らした。
そしてジャイアントラッドもこちらに気づいた。
レイドは剣に手をかけた。今回は正真正銘の剣である。
ジャイアントラッドの猛突進が始まった。
時速60キロ以上のスピードで300キログラムぐらいはあるであろう巨体に突進されては今の俺ではひとたまりもない。
レイドもまともに食らえば骨折は間逃れないだろう。
しかしレイドは臆することなく剣に手をかけたままじっと待った。
ジャイアントラッドが近づいてくる。
レイドはまだ動かない。
さらにジャイアントラッドが近づいてくる。
レイドはまだじっとしている。
もう15メートルほどの距離まで差が縮まっている。
レイドはまだ微動だにしない。
あと5メートルでジャイアントラッドの突進がレイドに直撃する。
大丈夫なのか。そう思った束の間
気がつけばレイドの剣はすでにふり抜かれていた。
そしてジャイアントラッドを見た俺は声を失った。
ジャイアントラッドが斜めに一刀両断されていたのだ。
「よし。見てたかラディ。簡単だろ?」
いやいやいやいや
このおっさんは何を言ってるんだ。簡単?
剣が振り抜かれた瞬間が見えなかったんだぞ。
こんなの誰が真似できるかよ。
「これぐらいならできないと男じゃねぇな!」
こんなことを言って大きく笑うレイド。
いつにもなく上機嫌だ。
そしてレイドはジャイアントラッドを解体して売れる部分だけ持ってきた皮袋に詰めていた。
とりあえず今日は見るだけで帰ろうということになった。
すると帰り道を歩いている時にまた一体のジャイアントラッドを見つけた。
「いい経験だ。俺がいつでもやれるように見といてやるからできる限り1人で狩ってみるんだ。怪我なら絶対させないから心配するなよ。俺もソフィには勝てないからな!」
そういうとまた大きな声で笑い出しジャイアントラッドがこちらに気づき突進してきてしまった。
おいおい。俺は承諾してねぇぞ。
あんなんできるかよ。どうしろってゆうんだよ。
とりあえず見よう見まねでやって見るか。
柄に手をかけてじっと待つ...........
待つ.......待........待つ.........
「アイスジャベリン!!!」
そして俺の前方に現れた50センチほどの氷の槍が3本ジャイアントラッドめがけて飛んでいった。
グサっ、グサっ、グサっ。
3本とも見事に命中しジャイアントラッドは突進の勢いが無くなりそのまま地面に倒れた。
いやいやいやいやいやいやいや。
あんなすごい勢いで突進してくる動物を斬撃の一撃で仕留めるなんて無理だろう。
すごい威圧感を感じた。あれが殺気というやつなのだろうか。
まだジャイアントラッドとは15メートル以上離れていたが思わず『アイスジャベリン』を発動してしまった。
よくレイドはあんなもの倒したな。
父は偉大なり。
俺はレイドに関心の目を向けた。
するとレイドがなにやら口を開けて呆けている。
「ラ、ラ、ラディ!お前いつのまにそんな魔法覚えたんだ!!!」
やけにレイドが興奮している。
「いつって......僕がいつもここに魔法の練習しに来ているのお父さんも知ってますよね?」
「もちろん聞いてはいた!だが一体誰が『アイスジャベリン』を。それも無詠唱で発動できるようになってると思うんだ!!!」
「えっ........」
「5歳で『アイスジャベリン』を使えるなんて聞いたことないぞ!まさか俺の息子が5歳でこんな魔法を.......」
なにやら大きな声を出したりブツブツ言ったりしているレイド。
この世界では5歳が魔物を一撃で倒せる魔法を使うのはそんなにすごいことなのか。
いくら俺の期待値が人間の中でも一番高いと言ってもこれぐらいは誰でも使えるのではないか、そう思ってしまっていた。
だが確かによく考えてみると俺はまだ5歳だ。
5歳の息子が詠唱を省略化した魔法で魔物を簡単に倒したんだ、いや俺はかなり焦っていんだが。
確かにすごいことなのかもしれない。
気をつけないと.......
この後、帰宅するやすぐにレイドはこの出来事をソフィに話した。
するとソフィはラディすごいわ!魔法の才能があるんじゃない!
ととても嬉しそうに興奮していた。
両親は俺がどんな魔法をどれぐらい使えるか知らないのだ。
ほぼ毎日森に入って魔法の練習をしている俺であるが失敗してるのを見られるのは恥ずかしいからと言ってレイドとソフィに見せないようにしていた。
実際は自分の魔法の威力を見せたくなかったからなんだが。最強の冒険者を目指してはいるのだからいずれバレることなんだが、まだ知られたくはなかった。
それにしてもこんなにもすごい反応をするとは......
人がここまで興奮することなんて人生にそう何度もあるものではないとおもうのだが。
『アイスジャベリン』以上のものを見せなくて本当によかった。
そしてそれから数ヶ月が過ぎた。
レイドが早く家に帰って来て疲れていない時は一緒に森に行き剣術を学び、その日以外は1人で魔法の練習を続けていた。
そのおかげもあり剣術も魔法もさらに上達した。
今までは一方的にレイドに打ち込んでいた練習も今では打ち合いになっている。
もちろんレイドは俺が防げるような攻撃をたまにしてくる程度だがそれでも最初の頃に比べればかなりの進歩だと言えるだろう。
魔法もさらに使える種類が増えた。
なんと無詠唱で上級魔法まで使えるようになったのだ。
そしてとうとうこの日が来た。
ようやくきたのだ。
ついに3日後に控えた冒険者学校の入学式。
冒険者学校はメリハリナという街にあり、ここから北に1時間少し歩いたところにある街、エルエスへ行きそこから馬車で丸一日かかる。
そのため今日の朝家を出て、明日の昼に到着。
1日は冒険者学校の寮に泊まり、部屋の整理をする。
そのためもうすぐ家を出なければならい。
「ラディ......本当に行っちゃうの?」
ソフィがとても寂しげな顔で尋ねてきた。
「はい。お母さん。きちんと月に2回は家に帰ってきますし、帰ってこない週はきちんと手紙を送ります。危険が伴うことは極力避けるようにします。」
俺はあらかじめ冒険者学校に行く条件としてソフィと約束していたことを改めて口にした。
「ソフィ.....ラディなら大丈夫さ。魔法の才能もあるし、俺が稽古をつけてやったんだからな!少なくとも虐められるなんてことはない!そんな奴は叩きのめしちまえばいいしな!それになんてったって俺とソフィの息子なんだからな!」
レイドは俺を過信しすぎている気がしないでもない。
「そ、そうよね。ラディなら大丈夫よね!
けどラディ、嫌になったらいつでもやめてお家に帰ってきていいからね。あと危険なことは絶対にしないでね、あとご飯もきちんと食べるのよ、ラディは好き嫌いがないから大丈夫だと思うけど出されたものは残さず食べるのよ、それと夜更かしもしすぎたらダメだからね、それとそれと.........」
「お母さん!」
俺は思いっきりお母さんに抱きついた。
こうゆう時は話すよりこうした方がいいってもんだ。
「ラディ.....グスッ.....」
ソフィが泣いてしまっているようだ。
今生の別れってわけじゃないんだから少し大げさな気がするが。月に2回は帰ってくるんだしな。
まぁだが今まで毎日側にいた息子が月に2回しか会えなくなると考えると無理もないか。
そう考えるとソフィには少し悪い気がする。
よし出来る限り毎週帰ってきてあげよう。
そう決意する俺であった。
「それでは行ってきます。」
「ラディ頑張ってね!」
「女の子には優しくするんだぞ!」
あれからしばらくして泣き止んだソフィは
何か吹っ切れたようであった。
こうして俺は馬車乗り場のあるエルエスに向けて歩き始めた。
一方レイドたちはというと。
「ほんとにいっちゃったわね。」
「あぁ、行っちまったな。」
まさか本当に行くとは思わなかったな。
ラディが4歳の時に急に冒険者学校に行きたいと言った時は驚いた、だがその時の俺は俺の職業に憧れてくれていると少し嬉しくもあったし、ただの子供の好奇心だろうとも考えていた。
だから俺もその意見には賛成した、可愛い子供には旅をさせろって言うしな。ソフィはかなり反対していたが。
だが、ラディのやつはそれ以来ほぼ毎日森に魔法の練習をしに行っていると言うじゃないか。
もしかしてこれはただの好奇心ではなく、本気で冒険者を目指してるんじゃないか、俺はそう思い始めた。
もし本当にそうであるなら剣術を教えなければ、いくら魔術師であってもいつ敵に接近されるかわからない。
そんな時に魔法の詠唱なんてしていればすぐにあの世行きだ。
だが、剣術を教えることは叶わなかった。
ソフィの反対はもちろんのこと、ラディにも『今は魔法の練習がしたいです。』と言われちまった。
そのあと何度か誘ってみたが同じ事の繰り返しだった。
だからこそ、ラディから剣術を習いたいと言ってきてくれた時は飛び跳ねそうなぐらい嬉しかった。
俺はその日の練習が終わると直ぐにエルエスにある『ディオールの武器屋』へと向かった。
ラディが本気で目指しているなら俺も本気で応援してやろう、そう思ったのだ。
ディオールに一番いい短剣を用意してくれと言った、だが俺の納得のいくものではなかった。
だがとりあえずそれを買っておいた、
次に来た時にこれすら無くなっていては困るからな。
いつ渡すべきかと迷ったが冒険者学校に行く時にしようと決めた。
もし早くに渡して、やっぱり冒険者を目指すのをやめたいと思った時にラディの重りになってしまうと行けないからな。
そしてそのまま時が流れ俺は魔物を狩りに行こうとラディに言ってみた。
この森の魔物なら何があってもラディを守りきれる自信があるし、ラディに魔物と対峙する危険というものをわかって欲しかった。
冒険者になってくれることは嬉しいが危険性をわかっていなければ危険だ。
もちろんその辺は冒険者学校で教えてくれるだろうが、もし今回で怖気付いてしまったら冒険者を目指さない方がいいだろう、
これ以上の危険なんて冒険者になれば嫌というほどあるのだからな。
まずは俺が魔物を瞬殺し、ラディにもやってみろという、だがもちろんラディに出来るわけがないので俺が倒す。
そうすることで冒険者という職業の危険性をわかってもらおうとした。
予定通り俺が魔物を瞬殺し、ラディにやってみろと言った。しかしラディに断わられてしまった。
無理に今日する必要もないのでまた日を改めるか、と思い来た道を戻っていると
そこに俺が先ほど倒したのと同じ魔物がいた。
それならばと思い俺はわざと魔物に気づかせラディを襲わせた。
もちろん俺が守れる範囲にラディはいる。
魔物がラディに突進してくる、ラディは構えてはいるが絶対に倒すことはできないだろう。
そう思い俺はそっと柄に手をかけた。
「アイスジャベリン!」
いきなりラディが叫んだ。
すると次の瞬間魔物が倒れた。
一瞬何が起きたのかわからなかった。
やっと理解できると次は驚愕のあまり呆然としている自分がいた。
そらそうだ。5歳の息子が『アイスジャベリン』を、それもほぼ無詠唱で発動し魔物を倒したのだ。
その日の夜ソフィにラディの魔法を見たことあるかと聞いてみると、俺と同じで簡単な生活魔法などは家でも使っているのでよく見るがそれ以上は見たことがないと言っていた。
たしかにラディは俺たちに魔法を見せないようにしていたように思う。
俺と訓練に行く時も今までに魔法を見せたことはなかったしな。
これはただの推測に過ぎないがおそらくラディは本当の実力を隠していたんではないのか、それが何のためかはわからないが。
だがどちらにしろラディが俺たちに魔法を見せたくないならそれでも構わない。
ラディも賢いやつだ、何か考えがあるのだろう。