情熱
2話
俺、5歳のラディ=バイオレットは転生者だ。
俺には前世の記憶がある。
俺が何をして、どのように過ごして、なぜ死んだのか。
高校を卒業して、春休みに遊んでいる時に居眠り運転の車に轢かれて死んじまったんだよなぁ確か。
だが、後悔はしていない。
なんたって転生できたんだから!
前世の俺は至って平凡な学生だった。
勉強もスポーツも容姿も全てが平均。
特に目立つこともなく淡々と時間を浪費するだけの毎日。
俺はそんな人生に嫌気がさしていた。
何か刺激が欲しい。心の中ではずっとそう思っていたんだ。
誰でも思ったことがあるだろ?
もう一度子供の頃からやり直せたら、せめて数年前に戻れたら、もっと頑張るのにと。
それと同じようなものだ。
俺は異世界に憧れていた。
剣と魔法のファンタジー世界。
あの世界に行ければ必死に頑張るのにと。
そして、そんな俺は転生した。
何故転生できたのか。
どうして俺だったのか。
それは全くわからない。
ただわかることは俺が転生したこと。
それだけわかれば十分だ。
「強くなって、強い魔物も倒して、お金持ちになる。目指せ世界最強の冒険者!そして可愛いエルフのお嫁さんを手に入れる!」
俺はこの世界での目標を再確認し、拳を高く突き上げた。モチベーションはやはり大事だよな。
しかしどうしても1つだけ気になることがある。
俺はこの世界に来て3歳からの記憶しかないのだ。
いや、正確には3歳から自我が芽生えたとでもいうのか。
3歳の誕生日の日に突然眠りから覚めたような感覚だ。
そこからは自分が何をしたのか全部覚えている。しかしそれまでの記憶が1つもないのだ。
そこで俺の中で1つの推測をたてた。
俺はもともとこの体に宿っていた魂と入れ替わったのではないかと。
そうであるならば、あの突然眠りから覚めたような感覚にも納得がいく。
なぜかわからないが3歳の誕生日のあの日に俺の魂がこの体に宿ってしまった。
そうしたならば、もともとこの体に宿っていた魂はどうなるのだ。
わからない。もしこの推論が正しいのだとすれば罪悪感を抱かずにはいられない。
生きるはずだった魂を俺が強制的に追い出してしまったのだから。
(それは少し違うなぁ)
???
(ちょっとだけ教えてあげるよ)
なんなんだこれは。
脳に直接語りかけられている感覚だ。
(ピンポーン!脳に直接語りかけてるんだよ!君が変な推論をたててるからそのことだけはきちんと説明してあげようと思ってね)
誰だお前は?
(僕は君をこの世界に転生させてシフォンというなの創造主さ)
シフォン?創造主?
(そう、創造主。君の世界の創造主であるマビィとは古い付き合いでね。魂を1つ回収し損ねちゃったからこっちの世界で預かってくれないかって頼まれたんだよ)
マビィ、魂、回収.....
その回収ってのはなんなんだ?
(僕たち創造主は死んだ肉体に宿っていた魂を
一度自分の元へ集めまた新たな肉体を作りそこに順番に宿して行っているんだ。
その僕たちの元へ一旦集めることを回収って言ってるんだけど、これを、マビィがし損ねちゃってね。こんなこと今までにはなかったんだけどなぁ)
回収の意味はわかった。
しかしそれがどうしてこの世界に転生させることに繋がるんだ?
こちらの世界で転生させれるなら元の世界でも可能なんじゃないか?
(それができたらそうしてるよ。ただそれができないんだ。そしてその理由を説明してあげることもできないんだ)
どうしてだ。何か説明できない理由があるのか?
(説明してあげたいけど君たちには存在してない概念なんだよ。概念が無いものはどのように説明しても絶対に認識することはできないからね。君は今3次元に生きているけど4次元、5次元はたまた6次元のことなんて認識できるかな?
アディの世界の人たちは理論だのなんだので色々言っているけど、そんなものは的外れもいいとこさ。自分より上の次元を認識すること、まして理解することなんて絶対に不可能なんだよ。それもこれも概念がないからなんだ。
ただ言えることは君は他の魂と入れ替わったんじゃ無いってこと)
なんだかよくわからないがつまりは考えても仕方ないってことは理解した。
それよりも本当に違うのか?他の魂を追い出したわけじゃないんだな?だがそれならなぜ3歳からの記憶しかないんだ。ただ覚えていないだけではないだろ?
(その肉体は正真正銘最初から君のものだよ。
3歳からの記憶しかないのは君が転生者だから。これも君たちには概念がないから伝えられないんだけど、僕の作った世界の肉体では3歳からじゃないとアディの作った世界の魂を宿すことができないんだ。いやこの言い方だと語弊があるね。魂は宿していたんだけど3歳まで機能しなかったんだ。)
3歳まで機能しなかった?なら俺は3歳までどうやって動いてたんだ?魂が機能してなくても動くものなのか?
(魂が機能していないということは自覚がないということなんだよ。つまり無意識で動いているんだ。自覚もなく無意識で動いてることに記憶なんてあると思うかい?否、あるわけがないんだよ)
なるほど。いや全くわかってないんだが。
なら俺に前世の記憶があるのはなぜなんだ?
元の世界だとそんなことはないだろ?普通は。
(あぁ、それはアビィが君の魂を回収してないからだよ。回収した時に誰もが記憶を消されるんだ。けど君は回収されてない。そしてその世界の人の記憶はその世界の創造主にしか消せないんだよ)
なるほど。これはなんとなく理解できたよ。
とりあえずこの肉体が俺のものであることが知れただけでもよかった。
(それならよかったよ。僕たちの都合のせいで君をこっちの世界に連れて来ちゃったのは悪いと思ってるんだよ、僕たちも。でももうお別れの時間だね。)
そうなのか。それは残念だな。
(あれ、思ったよりそっけないんだね。
チートな能力くれよぉ~とか言うのかと思ってたよ)
そんなこと言わねーよ。
自分の力で努力して強くなるからこそ面白いんだぜ。
冒険者職業ってのはよ。
チートで最初からドラゴン倒せました!
強くなりたくはあるが、それじゃあ何も面白くなんてねーよ。
(.................)
どうしたんだよ黙り込んで。
(い、いや!別に!ただ意外だなってだけ、だよ......)
おい、お前、その反応まさか......
(だ、大丈夫だよ!君の魔力の期待値、つまり成長速度をちょっと高めに設定しただけ、だよ......)
ちょっと高めってどれくらいだ?
(そ、それは........人間の中では最強ぐらい?)
く、クソ創造主ぅぅぅぅぅぅ!
(だ、だってまさかそんなことを言うなんて思わないじゃないか!普通は期待値の設定なんてしないんだけど君は特別だったし、そ、それに期待値を設定しただけで他は何もしてないよ!つまりは君の努力次第ってことじゃないか、努力したら強くなれる、サボれば平均的な人間だよ!)
そ、そうなのか?
(も、もちろんだよ!)
そうか、それならまぁいいのか。
一気に最強の冒険者ってのが現実味を帯びてきちまったけどな。
(じゃあそうゆうことでよろくしね、最強の冒険者頑張ってね。)
.........................
ほんとうに居なくなったようだな。
さてと.......
「魔法の練習にいきますか!」