雪意
「わぁー、思ってたより広―い!」
先程のダンススタジオから奥に入り、少し廊下を進んだところにその部屋はあった。
ダンススタジオと同じ、白を基調としたデザインの室内の真ん中に、丸い会議テーブルがある。
椅子も配置されているが、安いパイプ椅子ではなく、皮張りの座り心地の良さそうなものであった。
「確かに。もう一つくらい、机が置けそうではありますね」
沙希に答えて真銀が言った通り、広いと言ってもその程度のものであった。大人数で使える部屋ではない。
「思ってたより、って言ったじゃん~! も~!」
言葉面は反論しているようだが、沙希の顔はニコニコしている。
「ウチらは、ここでゴショゴショするってことね」
なりは、軽く室内を見渡しながら言った。雪枝は、そうですね、ここでゴショゴショすることになります、と鸚鵡返しに答える。
「ネット環境は既に整っているし、PCもある。ノートだけどね。必要ならかなりハイスペックなものでも乃木さんが揃えてくれるそうだ」
ただ、と十子は付け足した。
「基本、自分のノートPCやモバイル機器等を、この部屋に持ち込むのはやめてもらいたい。もちろんデジタルデータを持ち出すのも入れるのも禁止だ。どうしてもそれが必要だと思ったら雪枝に相談してくれ」
「おおー! 本格的っすねー!」
伊予がこちらも満面の笑みで、手をパチパチ叩いている。
「その……みなさまにはどうしても縁の下の力持ちのような役割を果たしてもらうことになってしまいます。必要なこととはいえ、大変申し訳ないと……」
「別に、意思確認されたし、こっちもそこでOK出しちゃってますから、問題ないですよ」
丁の言葉を億劫そうに遮り、なりが言った。
「そーんな深刻になることないっすよー! こういうの私、ちょっとやってみたかったし」
伊予が、ねっ? と同意を求めると、
「ねーっ!」
と、沙希も元気良く応答する。
「わ、私もこの計画に携わるからには、及ばずながら微力を尽くそうと思います!」
息を詰めるように言う真銀に雪枝は〝そんなに硬くなることありませんから〟と、微笑みかけた。
「必要以上に緊張することはありませんが……それなりに締める時は締めてくださいね」
「おまかせください。みなさん優れた資質を持ったかたばかりです。私達は必ず充分な成果を上げます」
少し不安そうな丁に、雪枝が力強く明言した。
「これから一週間くらいの訓練期間をおいて、本格的に活動を始めようと思います。本当なら一ヶ月は訓練したいんですが、それだとスケジュールが間に合わないので」
くんれん? と沙希が不思議そうに語尾を上げて言ったが、答える者はいない。
「ただ、欲を言えばもう一人、是非スタッフに欲しい人がいたんですけど……」
「ああ、その件はこちらも手を尽くしているんだけど、なかなか足取りが掴めなくてね」
十子は雪枝に応じながら、どこでどうしているやら……と嘆息した。