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可愛い彼女のために手伝ってよ

 よしっ、何がなんでも見つけてやるっ。


 そう思って今度はマリアの部屋を急襲したけど、こちらは驚くほどあっさり見つかってしまった。

 まず上からと思ってトールサイズのチェストの上を手で探ったら、ノートタイプの日記が無造作に置いてあったという……。


 しかも、別にイヴみたいに鍵もかかってないしな。

 トドメに昨日の日記を見たら、「今日から日記書くぞー。にーちゃんと再会したっ。近々また、キスしてもらうんだっ」と……書いてあったのはそれだけだった。


 イヴはともかく、マリアは決定的に日記に向いてない気がする。

 こいつ絶対、三日坊主に終わりそうだなっ。





 二人の日記を戻した後、俺はうちと同じくリビングに置かれたソファーに座り、休憩のつもりでテレビを点けてみた。

 どうも、生意気にもケーブルテレビと契約しているらしく、うちと違って多チャンネルである。しかも、アイドル専門番組なんてあるじゃないか。





「研究のためにも、ちょっと見てみるか」


 チャンネルを変えた途端、玄関の方で鍵を開ける音がした。


「えっ」


 壁の時計を見上げると、まだ午後の早い時間である。

 寝過ごしたとはいえ、まだあの子達は学校のはずじゃないのか!

 思わず隠れようかと、たわけたこと考えるうちに、ドアが勢いよく開いて金髪のマリアが入ってきた!


「――王子よ、我が心と剣は、貴方に捧げると誓おうっ」


 意味不明のセリフと共に靴を脱いだところで、ようやく前を見て、俺に気付く。





「わわわっ、にーちゃん!」

「お……おお」


 片手を上げたまま、いつ挨拶するかと考えていた俺は、引きつった笑みを浮かべた。


「なんだ、早速来てくれたの?」

「い、いやぁ……朝食の皿返しにきたんだ」


 キッチンのテーブルを指差し、ついでにテレビの方に顎をしゃくる。


「あと、休憩ついでにテレビ点けたら、アイドル専門チャンネルなんてのがあったから、おまえらの勇姿が見られるかと思って」

「またまたぁ」


 照れたように自慢のツインテールを弄ってる。

とりあえず、別に変態扱いされる気配はなくて、よかったが――。

 初めて見る中学の制服は、襟元のふちとスカートの裾部分のみが黒く飾られた、純白のブレザータイプであり、首回りが青いリボンで飾られている。

 あと、胸元にワッペンみたいな意匠もある。


 この制服だけでも、アイドルの衣装みたいに見えるぞ。




「それ、制服だよな?」


 一応尋ねると、マリアは胸を張った。


「知らない? 女子校だけど、アイドル多いことで有名なんだぁ。その証拠に、この制服、なかなかいいよねっ」


 笑顔で両手を広げると、靴下のまま軽く飛び上がり、猫みたいに一回転してすたっと着地してみせた。なにそれ、すげー!


 制服全然関係ないけど、今のマジか! おまえは、体操選手かっ。

 軽快な動きにも驚いたが、なにより、回転の途中でピンク色の下着が見えたのにドギマギしちまった。イヴと違ってパンスト着けてないので、モロである。


「お、おまえ、身軽さにも磨きがかかったなあ」

「えへへ、後方回転だって三回連続くらいできるよ? うちじゃ狭いから無理だけど」

「それはいいけど、他であんまりするなよ……パンティー見えたぞ?」

「やだなー、にーちゃんの前だから、スカートでもやったんじゃないさー。あと、その呼び方古いよー」


 悪戯っぽく笑うと、弾みを付けるようにして、俺の横にどすんと座る。ソファーが揺れたじゃないか。

 しかも、すかさずぴとっとくっついてくるという。


 体温まで感じるし、さすがに昔と違って意識するというか、胸が成長したなあ、この子。黙ってりゃ、金髪ツインテールのお嬢様タイプでも通りそうなんだが。


「……イヴはどうした?」

「今日は午前中授業だったけど、イヴは部活の引き継ぎで遅くなりそうかな」


 説明してくれた後、いきなり俺の腕を抱え込んだ。


「それよりさあ、ちょうどいいところに来てくれたよ、にーちゃん! ちょっと可愛い彼女のために手伝ってよ」

「な、なにをだ」


 わざとかと思うほど胸をぐいぐい押しつけられ、俺の声が軽くキョドった。

 マリアは気にする様子もなく、鞄からやや厚めのノートみたいな冊子を取り出す。


「オーディション受けるつもりだから、今、配役の声を練習中でさ」


 ぴらぴらと振って見せるその冊子の表に、「剣の王女と、婚約者」という、ファンタジー系のタイトルがあった。


「さては、さっき口走ってたセリフ、それかっ」

「そうそう。にーちゃんはあたしの相手役の、王子の役でよろしこっ」


 なぜか制服の上着を脱いでスカーフを外しつつ、たわけたことを言う。

 ちなみに、問答無用でテレビの音声をカットしてしまう。


「よろしこっておまえ――」

「はい、これっ」


 ささっと、俺に台本みたいなそれを押しつけてくれた。


「張り切っていこーっ」


 ……こいつの無駄な元気はどこから来るのか。


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