痴話喧嘩もどき
声に出てしまったが、いかんせん、相手はテレビの中である。
しかも、その直後にリポーターが、やかましいほどいろいろ尋ねたのだが、その一切を無視し、駄目押しのようにこう述べた。
「ごほん。どうやら、君がした一部の指摘は正しかったようだ。今日乗り込んで見て、わしもそれは認めざるを得ない!」
逆に喧嘩腰のような口調で述べたかと思うと――事務所のあるビルを振り返り、「わしの目の黒いうちは、勝手な真似はさせんっ。たとえ、娘と言えどもなっ」などと野太い声で言い放つと、そのままビル内に戻ってしまった。
いや、最後にまた振り向いて「連絡するのだぞ!」などと、こっち(俺か?)に念を押したが。
後は、マイクを返されたリポーターが、「会長ぉおおお、今の話はどういうっ」とうるさく質問しつつ、じーさんの後を追っていくという……なんなんだよ、これ。
とはいえ、今の話を聞く限り、もう身売りの話はナシと見ていいんじゃないだろうか? そう思ってイヴ達を見たが……二人とも、相変わらず不機嫌なままでやんの。
「自分が間違っていたのに、偉そうな物言いですわねっ」
イヴが険しい表情で決めつけ、マリアは「やっぱこれ、出て行くのが正解よねぇええ」と大きく頷く。
二人とも、全然満足してない。
「い、いやいや、待てって。それでも、エロ系に方向転換する話は、ナシみたいじゃないか? あのじーさんは確かに問題多いが、朗報は朗報――」
「自らの過ちを認めず、人を非難するしか能の無い人間は嫌いです」
「隣に同じく。それに、条件変えたら、喜び勇んで戻ると思ってるのがいや」
イヴもマリアも、全然得心してないような。
「だいたいさぁ、あのじーちゃん、あたしらがにーちゃんに騙されてると思ってんのよ? ひどくないっ!?」
「それに電話で、『おまえ達だって、あの無職の若造のために死ぬ気まではあるまいっ。そんな奴に弄ばれて、よいのか!』なんて言いやがりましたわっ。失礼な!」
「うおっ、そ、それは確かにひどいっ」
さすがに俺も声を荒げた。
しまも、また無職呼ばわりだしなっ。
「俺はおまえらと手も繋いでないくらいで――」
言いかけ、途中で気付いた……いや、手くらいは繋いでるな、うん。
それどころか、成り行きとは言え、あちこち触ったこともあるような。
訂正する前に、既に二人して嵐のような反論されたが。
「ひどいな、にーちゃんっ! 手を繋ぐどころか、あたしらの胸揉んだり、一番大事なとこ全開で見たりしてるじゃんっ」
「ファーストキスも何度もしましたしっ」
「いや、ファーストキスは一度だろっ」
俺はかろうじて割り込んだ。
周囲に人がいなくてよかった。汗かくわー。
「あと、幼女の頃に一緒に風呂入ったアレを、でっかく膨らませて喚くなっ」
感情的になっちまったが、考えてみればそんな場合じゃない。
ここでなんとか二人を翻意させないと、アイドル活動は本当に終わるかも。
俺もあのじーさんはむかつくが、それとコレとは別だ。性格はともかく、少なくともこいつらを消耗品みたいに扱いことだけは、なさそな気がするしな。
でも、もう決心してるこの二人を、どう説得するか……考えて、俺は一計を案じた。
「よし、こうしよう! 俺もむかつくし、おまえらも腹を立ててる。ここは、電話でじーさんを呼びつけて、正式に謝罪させようぜっ」
――とにかく、あのじーさんが間違っていたことだけは、確かなんだからな。
と最後に付け足すと、二人はすぐに反論せず、お互いに顔を見合わせていた。
これは……脈がありそうだな。
「やっぱさ、どうせなら謝罪させるべきだろ? その方が本人のためにもなるしっ」
俺が重ねて言うと、イヴがじっと俺の顔を見た……つか、腕に当たる胸が、マジで気になるな、しかし。
「では、あのオジサマが謝罪しなければ、本当に事務所を出る……ということでよろしいですか」
考えた末、俺は妥協した。
「し、仕方ないな」
実際、それでも謝罪しないようなトップなら、こいつらを安心して任せられない。
「それからっ、あたし達だけ恥ずかしい告白したから、改めて訊くけどさっ」
マリアがまた声を張り上げ、次の瞬間、イヴも交えて俺に迫ってきた。
「にーちゃんは、あたしのために死ねるの?」
「わたくしのために死ねますわよね、ねっ」
「そ、そんなの、訊くまでもないだろ?」
俺はスマホを出しつつ、キョドった言い方しちまった。
左右から同時に「はっきりと仰ってっ」とか「口にしてぇええええ」とか、喚かれたが……そんな小っ恥ずかしいこと、ほいほい言えるもんかっ。
とにかく、今はじーさんを呼びつける!




