逃走寸前に、最新ニュース
アメリカはともかく、なにが哀しくて、雪と氷しかない南極に行くんだよ?
「まあ、アレだ」
俺の決断を待っているのか、アメリカ一周希望のマリアと南極旅行のイヴが、わくわく顔で俺を見つめている。
こいつら、「決まった費用の範囲内」という常識を知らんな?
「まあ、そんな豪勢な旅行もいつかするとして、今はほら、予算が決まってるわけだろ? 俺的には北海道でレンタカーでも借りてあちこち見て回るのがいいんじゃないかと」
「北海道!」
「ああ、そういえば行ったことないですわね。さぞかし広いことでしょう」
おお、割と好印象だった。
しかもマリアが早速、「うんうん、北海道はでっかいどうっ」とか、膝の力が抜けるギャグをっ。
開いた口が塞がらんけど、なぜかイヴはお腹抱えて笑ってるのだなあ。
なんか二人して、やたら明るいが……後で反動が出そうだ。どうせこの底抜けの明るさも、ヤケクソの裏返しだろうし。
「じゃあ、明日起きたら空港へ行くかー」
眠くなってきた俺がまとめようとしたが、なぜか二人して声が揃った。
「いえいえ、それは駄目ですわ!」
「それはノーグッドだよ、にーちゃん」
「……なんで?」
「明日までなんて待ってたら、あのオジサマが突撃してきます」
「うんうん。あの人、行動素早いからね。今から出ないと」
「い、今から-?」
俺は壁の時計を見たが、もはや空港へ行っても便がないような。
それを指摘したが、全然納得されず、二人して手を引っ張られた。
「いいから、急ぎましょうっ」
「そうっ。空港近くのホテルで泊まればいいよ!」
「えー……て、引っ張るな! わかったから、着替えの用意くらいさせろ」
やむを得ず、俺は喚いた。
着の身着のままとか、本気で駆け落ちかと。
どうも、二人ともあのクソ親父の襲撃を本気で心配しているらしく、用意は瞬く間に終わった。いつも「女の子は時間かかるのですわー」とか「やっぱ、荷物大きくなるよねっ」とか予定に遅れ気味な二人が、俺より準備早かったからな。
信じ難いことに、半時間後には、三人でタクシーの中にいたという……いやぁ、あまりに急かされるのでタクシーなんか乗ったけど、羽田までだいぶあるのにな。
「んっとにもう、思い立ったら、聞かないからなあっ」
温厚な俺も、さすがにタクシーに乗った途端、文句言ったほどだ。
「ごめんごめん、にーちゃん。とにかくオジサンが急襲する前に逃げないとと思ってさあ」
「マリアの言う通りです。本当にあの方、素早いですから」
「無理いったお詫びに、道中サービスしてあげるから、許してよね。きゃははっ」
阿呆なことを述べて、途中からけらけら笑う、マリアである。
ああ、運転手さんのミラー越しの視線が痛い。
どうせこれも、空手形なのにな。そのうち俺の理性が吹き飛ばないように注意しとけよ、くそっ。
いつまでも薄着で揺れるおっぱいみて、我慢してると思うなっ。
……それはともかく、たまたま今日は真ん中に座ってなかったので、俺は二人が楽しそうに旅行の話で盛り上がってるこの隙に、せめて朝日奈桜子――つまり、アイドルの霧島英美里ちゃんに、しばらく留守にする旨を伝えようとした。
しかし、ライン入れる前に着信音がして、向こうから連絡がきた!
『こんばんはっ。突然、すいません。あのっ、バースデイズのお二人が所属する事務所に、つい先程、元の会長が乗り込んだって噂を聞きましたが、なにかご存じです?』
「ふわっ」
思わず奇天烈な声が洩れたせいか、二人の会話がぴたっとやんだ。
「なんですか、おにいさま」
「にーちゃん、また浮気かっ」
「ま、またってなんだ! いや、そうじゃなく……ええい、これ見ろっ」
説明の時間も惜しいので、俺は二人にラインメッセージを見せた。
さすがに二人の顔色が変わった……と思ったが。
「やっぱり、浮気じゃんかーーーっ」
「人気アイドルと浮気とか、有り得ないですわっ」
……いや、おまえら人の話を聞けよ。
これ、結構大きなニュースだろうに。




