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禁断のデンジャラスワード、「無職」


 そして翌日、二人が登校した後、俺は問題のじーさんの家を訪問した。


 いやぁ、これがまた見るからにデカい屋敷だったが……問題なのは、もうこうなんというか……外観的に「わしは、頑固で考え方も古いぞいっ」と全力で主張しているような屋敷なのだなー。


 ばっちり日本家屋だし、門の向こうに見える庭には、石灯籠が見えるし。

 ここだけ江戸時代、みたいな。


 で、でもまあ……案外、一人暮らしの本人は、ファンキーなじーさんでアメリカンな人かもしれん。

 いや、別にそうじゃなくても、話しやすい人なら。


 そう思い、俺は喉を鳴らして、気合いを入れた。





 ……ところが、もうじーさん自ら通してくれた座敷で、俺はのっけからガツンといかれた。

 正座で向かい合って座るってスタイルに、まず俺の膝が悲鳴を上げた。

 正座とか、いつ以来だろう? 


 しかもこのじーさん、紋付きの羽織なんか着てて、俺を鋭い目つきで睨むのである。どうやら「藤原宗源」というのがフルネームだそうだが、どこの野武士だよって感じだ。


 おまけに、俺が頭を下げて名乗っても、むすっとしてやがる。

 ギラッと睨むことしばし、いきなり言われた第一声がこれだ。


「君は、無職だそうだが!」





 き、来たぁああああ。

 俺が散髪屋で一番聞きたくない話題は、「お仕事はなにを?」だが、このじーさんはそこをすっ飛ばして、さらに急所を突いてくれた。


 のっけから無職呼ばわり、キツすぎ!

 まあ、本当にそうなんで、絶句するしかないけど。


「い、いや……まあ、前職を辞めてさほど経っていませんで。これから鋭意仕事を探す所存です」


 なるたけフレンドリーに言ってみたものの――。

 言い訳しても、強面こわもてのおっさんは全然聞いてないような。


「無職の若者が、年端もいかない少女と毎日たらたら遊んでいる……あまり君の話に耳を貸す気になれぬが?」


 びしっと背筋が伸びた姿勢で、重々しく言ってくれた。

 もう、一言一言が、ビシバシ刺さるわー。

 真面目に仕事してないのは、事実だしな。


 もう俺は、この時点で「はいはい、無職の俺が悪うございました! もうとっとと帰るんで、じーさんは庭で素振りでもどうぞっ」と叫び、後ろも振り返らずに遁走したいところだったが……だが、使命があるっ。


 このまま放置すれば、かなり高確率であのアイドル事務所は他のエロ系事務所の傘下となり、「ジュニアアイドルでTバックで、際どい写真集で方針転換」てな激変に見舞われかねん。


 そうならないためにも、俺はなにがなんでも眼前の岩壁みたいなじーさんを説得しなきゃいけない。

 他に手はなさそうだしな。





「いやっ、俺のことは今は置いて、しばらく聞いてください!」


 意を決し、俺は無理に根性を出し、身を乗り出した。


「これも、あの二人のためなんですっ」


 一瞬、じーさんが眉をひそめたのを幸い、俺はここぞとばかりに捲し立てた。


「あなたの娘さんが率いるあの事務所、このままでは売りに出される可能性が高いらしく、それは現社長であるご本人様も、事務所のタレントやアイドル達に予告しているとかっ」


 この事実を皮切りに、売り渡される候補事務所が、エロエロのイケイケ系で、マリアやイヴのような女の子達にはちょっと――という事実を、一気に畳みかけた。

 一応、じーさんは聞いてくれはした。

 そりゃ現社長が、自分の娘だしな……さすがに少しは脈アリか? と思ったのだが。


 俺が渾身の弁舌を終えた後、ふんっと鼻で笑い、小馬鹿にしたように言いやがった。


「無職の君が言うことを、そうそう簡単に信じるとでも思ったかね? それならまだ、わしは立派に職務に励む娘を信じる」


 こ、このじーさんっ。




 無職を連呼された俺は、ここでついにぶちっと切れた。

 その場で仁王立ちになり、全力で喚いてしまった。


「あなたこそ、こんな朽ちかけのボロ屋敷で座したままで、なにがわかるってんだ、ごるらぁあああっ」


 ああああ、正確に全部覚えてないが、確か最初の一言はそれだったと思う。

 後のことはあまりよく覚えてない……というか、忘れたい!


 すまん、マリアにイヴっ。

 どうやら俺は、やっちまったらしい。 


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