うわ、あんな腰の振り方、許されるのかっ
朝になってもぐったりしていたが、逆にマリアとイヴは大復活を遂げ、「声優のお仕事も、なにもアレが最後じゃないし、またがんばればいいよね!」などと二人で頷きあい、何事もなかったように隣へ戻った。
午前中は休んで、午後は開店したばかりのスーパーの屋上で、一時間ほど歌うらしい。
いやホント、二人が去った後は、台風が去ったような気分だったな。
とはいえ、なにか一抹の寂しさも感じたんだが。
二人がいる生活に慣れてしまって、かなりそれが当たり前になってるよなあ。
俺は改めてベッドの上に座り、腕組みする。
ならば俺も、真剣に可愛いあいつらのために動かねばなるまい……宝くじは百万しか当たらなかったけど……うち三十万は元手だし。
しかし、さすがに脳内が茹だったまま、へろへろで芸能事務所の元社長に会いに行くわけにはいかない。ベストコンディションで、できる奴なのを見せないと。
そこで少しベッドで微睡んだのだが、俺は昔から昼間はちゃんと眠れないのだった。
結局、昼頃までうたた寝程度の睡眠しかとれず、開き直った俺は思い切って起き上がった。
どのみち、今日は無理だ。寝ぼけてなにかミスしそう。
「予定変更して、あいつらの仕事ぶりを見てやるか」
幸い、大規模スーパーの名前は聞いてある。
お馴染み、郊外でデカい建物が目立つ、○オンである。
俺はすぐに着替え、顔を洗って髭を剃り、外に出た。
念のため、隣の部屋をノックしてチャイムも押してみたが、反応はない。どうやら、もう仕事に出かけたらしい。
当然か、開演時間近いしな。間に合うように、俺も急がないと。
「うわぁ、太陽が眩しい」
こういう時、えっちぃことをした後だと、太陽が黄色く見えるとか思うのかもしれない。
俺の場合はただ、一晩中悶々としていただけだが。
我ながら自分の自制心に感心するぞ……まあ、相手が十五歳だからまずいってブレーキのお陰かもだが。
バスに乗って目的地のイオ○に着くと、開店して間もなかったせいか、駐車場はほぼ満杯で、店内は人いきれで溢れていた。
人混み嫌いの俺はこの場で回れ右したくなったが、気が変わった。
宣伝用の白い垂れ幕が、店の屋上からたくさん下がっているのが見えたのだが、その中の一つに「大人気アイドル・バースデイズが応援にっ」などとあったのだ。
「大人気アイドルかぁ」
まあ、こういう時はたとえ下っ端アイドルでもそう書くものだろうが、それでも俺はニヤけてしまった。そりゃ小さい頃の二人を知る者としては嬉しいさ!
「よし……覚悟決めていくか」
時間もちょうどいいしな。
時計を見て登場時間が近いのを確かめ、俺は断固として人まみれのイ○ンに入った。
これが想像以上の人混みで、しかもエレベーターに乗るだけで、「十五分待ち」とかだったね! しかも、周囲の若者達がしゃべる内容聞いてると、「マリアちゃんがぁ」とか「イヴちゃんがさっ」とか、あの二人の話ばかりだ。
こりゃもう、こいつら全員が客だと思う他ない。
(いやぁ、予想以上に人気あるやんっ)
俺は人知れずまた嬉しくなった。
そりゃスーパーアイドルの霧島英美里には及ばないけど、将来的にはわからんよな。
……ようやく乗り込んだエレベーターで屋上に着くと、ここはさらに超絶満員だった。
俺がケージを出た途端、専属警備員が走ってきて、店側の係員になにやら告げ――
結果、入場規制が始まったらしい。屋上への出入りは禁止となってしまったようだ。
「人気あるのなあ」
既に歌い始めている二人をステージ上に見つつ、俺は一番外側の柵を背にして、そろそろと中央に移動する。
いや、せめて見るなら正面からと思ってな。
ようやく一番マシなところへ来たが、店が用意した折り畳み椅子に座っている奴なんか皆無であり、みんな立って手を振ったり大声で二人の名を呼んだりしている。
まあそれでも意外と邪魔に思わないのは、歌声がすげーデカく響くからだよな。
○オンでこれはアリなのかと思うほどに。
そして、口を半開きにして見ていた俺は、そこで初めて悟った。
最初はぴちぴちショートパンツとへそ出しのノースリーブ衣装に目を奪われ、「うわ、あんな腰の振り方、許されるのかっ。十五歳なのにっ」などと一人でハラハラしてしたが、そのうち嫌でもわかってしまったのだ。
こいつら……なんだかんだいって真剣そのものだなと。
というのも、振り付けは腰を左右に振ったり、腕を派手に舞わしたり、くるりと身体をターンさせたりと多彩なのだが、その動きが見事に二人揃って一致している!
寸分の狂いもないし、全然乱れない。二人の身体を一つの意志が制御しているみたいだ。
こんなの、よほど練習しないと無理だって。
両眼の周囲だけを覆うマスクしているので、いつもと雰囲気は違うが……しかしこれ、いつも顔見ている俺からすりゃ、かなりバレバレだよな……また、例の悪質ストーカーみたいなのに、目を付けられないといいが。
(あ、目が合った!)
最初にイヴがこちらに気付き、ほぼ間を置かずに、マリアも見つけたのがわかった。
表情にはほとんど変化がないのだが、ちょっとした変化を見慣れている俺からすりゃ、これも一目瞭然で。
その証拠に、その歌を歌い終わったところで、二人で一瞬だけひそひそやり、その後でマリアがふいに声を張り上げた。
「みなさぁーん、いつも応援をっ」
後をイヴが引き取る。
「――ありがとうございますぅ。わたし達、とても感謝いてますわーーーっ」
(ふ、二人して俺の方をガン見して叫ぶな。バレるだろっ)
今や目が合いまくりの俺は、また一人でハラハラしたが、しかし胸にじんと来たのは否定できない。
……遅刻はしたが、見に来てよかったなと思ったし、今後も、出来るだけは顔を出そうと思った。
既に低空飛行ですが(汗)、もしかしたらこういうのお好きな方もいるかもなので、往生際悪く一度だけ誘導しておきます。
○英霊とヴァンパイアが集うカフェ、「アヴァロン」へようこそ
てなタイトルで新作やってるので、よろしければ。
まあ、転生した英霊が集まるカフェで、ヴァンパイアの主人公がいろいろ巻き込まれる、的な話です。
基本、恋愛物のはず。




