掛け布団の攻防
いろいろ気まずいので、俺は先に布団に潜り込むことにした。
もちろんいつものベッドではなく、敷布団を畳に二枚敷いて、横に並べた布団に。これなら、三人が川の字に寝ても余裕だ。
あと、いつもはトランクスとシャツで寝てるが、今宵はさすがにそれはちょっとな。
というわけで、上京する時になんとなく荷物に加えた寝間着を、久しぶりに着る。
……うわー、なんか違和感あるわ。暑苦しいというか。
しかし、あいつらと薄着で雑魚寝はヤバすぎるからな。
ちなみに、風呂場の方では髪を洗っているのか、バシャバシャ派手な音と笑い声がして、やたら楽しそうである。
二人とも髪が長いから、乾かすだけで大変だぜ……などと考えているうちに、俺はうとうとし始めていた。
疲れていたのは本当だし……な。
「……起きないと、脱がしちゃうよ?」
「そういえばわたし達も、お兄さまの裸体を観るのは久しぶりですよねー」
なまめかしい囁き声が耳元でした上に、やたらと蒸し暑く、俺は目覚めた!
「なんだよ……人がせっかく気持ちよく――うへぁあっ」
自分の状態を見て、俺は喫驚した。
こ、こいつら左右から抱きついている上に、俺の寝間着をせっせと脱がせている最中だった!
おまけに二人共、下着姿じゃないかーーー!
「な、なにしてんだよっ」
「はい?」
とぼけた声で、イヴが顔を上げる。
つか、返事の前にボタンを外す手を止めろっ。
「いえ、わたし達が薄着ですし、ここは公平にと」
「この部屋、エアコンないんだもんっ。三人で抱き合うと暑いもんねー」
「なら抱き合う必要ないだろっ。横に広いんだし、離れたらいいだろうにっ」
喚きつつ、本格的に目が覚めてきて……ああ、いかん。
身体の方まで目覚めて、反応してきた。そりゃ左右からおっぱいだもんな。
下着はマリアがピンクでイヴが濃紺だし。ブラのカップが二人共深いっ。
あと、なんと俺、既に寝間着の上を脱がされてるじゃないかっ。
「お、おいっ。言っておくが、そこまでだ! 言ったろ、俺も男だって。段々反応してくるから、もうやめて寝ろっ」
『――反応!?』
声を揃えた上に、二人して同時に布団をめくろうとしやがって、俺は焦った。
死に物狂いで夏用の掛け布団を押さえ、死守するっ。
「なんでいきなりめくろうとするかっ」
「いやー、だってさー、あたしらにーちゃんのそういうトコ、見たことないしぃ」
おぉ、なんという興味津々の碧眼っ。タチ悪いな!
「男性の裸と言えば、お兄さましか見たことありませんものね。だからこの際、そういうのも後学のために――」
「やかましいっ、なにが後学かっ」
俺はたまらず叫んだ。
「誰かが聞いたら誤解するようなこと言うなっ」
「きゃははっ。先にこの場面見た瞬間に誤解しちゃうんじゃないかなー」
「それに、心情的には誤解も六階もないですしっ」
「だから布団をめくって見ようとするなあっ」
この馬鹿騒ぎは、かなりの長時間続き、ようやく二人が先に眠った時には、俺はもうへとへとだった。
一応、見られるのは断固として防いだが。
おまけに、「暑い暑い」と散々文句言いつつ、結局二人共、左右から抱きついてきた上に、足まで絡めたまま寝落ちしやがんの。
お陰でこっちは、充血した目のまま天井見つめて、眠れなかったじゃないか。




