こいつら、わざと俺に聞かせてんじゃないのかっ
などと考えた直後――俺は、申し出のヤバさにようやく気付く。
川の字て……家族でもないのに……いや、家族に近いようなものだけど、それでもなあ。
「ええと、おまえらわかってる? 二人は嫁入り前の娘だし、スキャンダルは最も避けるべき、アイドルだよな?」
「いずれ花嫁になる運命なのだから、なんの問題もないわけです」
「然り! にーちゃんとあたしは結ばれる運命にあるからっ。別に抱き合って眠ったって、なにが問題よ? てなもんだしっ」
イヴに先に言われたマリアが、より刺激的な言い方で対抗する。
おまけに、二人して睨み合ったりして。
「いやいや、ちょい待て、喧嘩はやめっ。コレはホント、そう簡単に押し切られて実行できないヤバさがあってな。俺もほら、男だし」
「つまり、問題はお兄さまにあるのですわ」
おおっ……イヴの奴、生意気にもすらすら反論しやがった。
「わたしはもちろん、マリアだって、いかに大好きなお兄さまのこととはいえ、時と場合を心得ています。せいぜい、四肢を絡ませて甘えて眠るくらいのもの……それ以上のことは、毛頭、考えておりません」
「そうそうっ。むしろ、やましいこと考えてるのは、にーちゃんの方だって解釈もあるよねっ」
「なにが『あるよねっ』だか」
俺はモゴモゴと言い返したが、勢いが下がったのは否めない。
そりゃまあ、肉欲という一点に絞るのなら、問題は俺にあるのだ。
幾ら悪戯好きの二人でも、自分から求めてくるはずないんだし……多分。
割と単純な俺は、すっかりその気になり、「もしかして、本当に問題は俺にあるのか?」と悩み初めてしまったじゃないかー。
「とにかく今宵は、よろしくお願いします……わがままを言うようで、心が痛みますが」
全然痛んでない顔でイヴが微笑む。
むしろ、すげー嬉しそうだ。
「あと、眠る前にあたしら、二人でシャワー浴びるからー。二人一緒なら、早いしさー。にーちゃんもどう? 昔みたいに一緒にさー」
……おまけにマリアが驚天動地のコメントをっ。
「いや、なんで隣でシャワー浴びてから来ないんだよっ」
「だから、場合によっては、にーちゃんとお風呂も入ろうかなって思ったからだってば」
しれっと言いやがる中坊である。
「昔みたいに、三人一緒にどう?」
かなり本気で期待してそうな表情で俺を見た。
「いいですわね」
イヴまでっ。
「それならわたしも、昔のようにお兄さまのお背中を流して差し上げますわっ」
「ついでに、いろんなトコ洗ってあげるよっ! きゃははっ」
「む、無理にエロい言い方すんなっ」
俺は反射的に怒った後……少し考えて息を吐いた。
「魅力的な提案だけど、今晩はやめとく。いつかそのうち、な。その代わり、川の字の件はいいよ。要は俺が耐えればいいことだしな」
ああっ、妥協しちまった。
でも仕方ないだろっ。風呂はさすがにまずいけど、川の字で眠る方は、俺も内心じゃ「そ、それもいいかもっ」と思ったりするものな。
つくづく煩悩に弱いのは認めるが。
「イェーイ、雑魚寝けってー!」
「今晩は昔に戻ったようですねっ」
パァンといい音をさせて、二人でまたハイタッチしてやがる。
そして、それぞれ紙袋かかえて、ドヤドヤと風呂場の方へ。
「待っててね、にーちゃん。一応、全身くまなく洗ってくるからっ」
「万一のために、準備だけはしておきます~」
なんの万一だか……。
ともあれ、俺は予備の毛布やら布団やらをのろのろと押し入れから出し始めたのだが――。
その間も、風呂場からキャッキャッウフフのかしましい声が聞こえてくるのが……もう色々たまらん。
『へぇえええ、イヴも一応生えてるんだぁ。でも、観察しないとわからないレベル?』
『いやですわねっ。マリアだって、全然薄いじゃないですかーーっ』
などと、二人の嬌声が聞こえたりして。
……こいつら、わざと俺に聞かせてんじゃないのかっ。なんの話だよ、くそっ。
動きが止まって、聞き耳立ててる俺も俺だが。




