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嬉し恥ずかしの、男女雑魚寝


 食べて歌を聴くだけのディナーショーとはいえ、いろいろあって、やはり疲れていたらしい。


 さすがの二人も、俺を真ん中に電車に乗っていた時は、随分と大人しかった。

 ……まあ、無口なのは、オーディション落ちたせいかもしれんけどな。




「遊園地かどうかはともかく、三人で遊びに行くのは、いいことだよな」


 元気付けのつもりで俺が呟くと、二人は左右でふっと顔を上げ、口々に俺に言いやがる。


「いや、もう遊園地に決まったし!」

「ジェットコースター苦手なので、逃げようとされているのが、見え見えですわっ」

「お、おまえらっ」


 く……心配して損したぜ。


「おまえらだって、あれから随分と経ってるから、今は苦手かもしれんぞ。だいたい、観覧車とか、そういうのの方がムード出ると思わないか?」

「観覧車も好きですけど、やはり遊園地は迫力のジェットコースターですっ」

「言い切るかっ」


「にーちゃん、怖くなったら、あたしの胸に抱きついていいよ。受け止めてあげるっ」


 きらきら光る碧眼で、マリアがそんな阿呆なことを言う。

 しかも、ドレスの胸の下から両手で胸を持ち上げるポーズなんぞしやがる……十年早いわっ。


「な、生意気言うなっ」


 今度こそ俺はむっとして、腕組みして目を閉じてやった。一瞬、視線が釘付けになったのも、なんか悔しいしな。


 ったく、いつまでもガキンチョで――


「う、うははっ」


 左右からこちょこちょされて、せっかくのむっつり顔が崩れてしまった。


「そういう子供の悪戯は、いい加減、やめいっ」

「だってぇ、にーちゃんの反応は昔から変わらず、楽しいんだもーん」

「ですわねぇ。一生こうしていたいです」


「俺はおもちゃじゃないわっ」


 ……あー、他の乗客に睨まれた(特に男)。

 外から見りゃ、羨ましく思えるんだろうな……そりゃまあ、嬉しいのも否定しないけどさ。






 マンションの部屋に戻ると、俺はもう速攻で服を短パンとTシャツに着替え、顔を洗って寝る準備に入った。


 マジ疲れたー……しかし、ベッドに転がりこもうとしたら、スマホに着信が。

 電話ではなく、ライ○メッセージだった。


 非常口の向こうで駆け去った、朝日奈桜子さんだ。



『もうお休みでしょうか?』

『……今日は本当に、みっともないところを見せてしまい、ごめんなさい(照)』

『今度、二人でゆっくり逢いたいです』



 矢継ぎ早に送ってきてぴたっと止まった。

 俺は少し考えて、『本好き同士、ぜひまた小説の話でもしよう!』と当たり障りのない返事をしておいた。 


 あと、もちろん『今日はお疲れ様っ』というねぎらいの言葉も。

 あの子はどうせまだ、移動の車中とかだろうな……アイドルは大変だよ。


「大の大人の俺が、この程度でへばってるくらいだしなぁ。まあ、眠れるのは幸せなことだ」


 言い訳のように呟き、今度こそベッドへ――今度は誰かが鍵を開ける音がっ。





「なんだなんだなんだっ」


 ドヤドヤと入ってきたのは、言うまでもなく今別れたばかりの二人である。

 この短時間でドレスから、レギンスとタンクトップに着替えている。なんという扇情的な格好……しかも、おへそ出てるぞ、二人共。


 まあ、別に意識してないんだろうけど。





「さっき、隣に戻ったところだろ?」

「それなんですけど」


 珍しく、イヴの方が口火を切った。


「わたし達、今日は二人だけだと、どうも落ち込んでしまって」

「そうそう」


 うんうんとマリアが頷く。


「だけど……さすがにもう遅いだろ? あまり起きてると、明日に響くぞ?」

「あ、あたしら二人共、明日はガッコ休み。午後からすぐ、お仕事が一件入ってるから」

「そ、そうか……さすが、アイドル御用達の学校だな」


 感心していいものか、少し悩むが。


「で、それで俺にどうしろと? ボードゲームでもやるか」

「いえいえ。わたし達も眠たいのは同じなのです」


 イヴが、マリアの大きな瞳とは対照的な、切れ長の目を細めて俺を見る。

 流し目っぽくて、い、色っぽいな。


「だ、だから?」

 

 思わず盛り上がった胸と色っぽい瞳を見比べつつ訊くと――イヴは両手を合わせ、拝むようにして言った。


「故に……今宵は仲良く三人で……川の字になって休みませんか?」

「えっ!?」


 俺が思わず声を上げると、マリアが真面目な顔で補足した。



「早い話が、三人で寝ようねぇ? てこと。嬉し恥ずかしの、男女雑魚寝という意味よ?」



 ……いや、川の字の意味はわかってる! 

 あと、おまえの言い方は、いちいち生々しいんだよっ。



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