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幻想のスリーサイズ


「おまえ達、それは間違ってるぞ!」


 ガツンと言ってやったが、反応は薄かった。


 マリアは二人前も皿に置いた餃子の最後の三つを食べるのに忙しく、イヴに至っては既に大盛りカレーを平らげ、今は鮭のムニエルとボルシチという、未知の組み合わせをせっせと腹に詰め込んでいる。


 あのコルセットの細さからして、料理がどこへ消えていくのか、本気で謎である。



 ……じゃなくて!





「おいっ。聞けよ、俺の話を!」


「はぁああああああ」

「……なんでしょうか」


 渋々といった感じで食べる手を休めた二人に、俺は今度こそびしっと言ってやった。


「そういうことしてるとなあっ。忘れた頃に、自分達のステージに誰も来なくなるという事態が起きるぞっ。それか、同じくディナーショーに呼ばれた時、客が総スカンで全部帰るとか、倍返しの事態が起きるっ」


 ううっ、という目で二人が俺を見た。

 アイドル的には、さすがに胸にずしっと来たらしい。


「いいか、はっきり言っておくが、世の中に『やりっぱなしで、一方的に相手を叩きのめして、後腐れもなく、楽しかったぁ!』なんてこたぁ、ないんだよ! 絶対、ない。その時は勝ち逃げしたように思うかもしれないが、んなのは幻想だっ」


 俺はいつになく真面目に言い聞かせた。大声は出さず、むしろ小声で。

 まあほとんどは、昔親父に言われたことの受け売りだけどな。


 だが言われた時の俺は、妙に胸に迫るものがあったのだ。親父の顔も真剣だったし。だから多分、あの時の親父は真実を語っていたような気がする。


 なにせ、奥の手を俺に教えた人だからな。

 て……そんなことがなくても、同業者に嫌みな態度を取るのは、ちょっと駄目だ。


「早いか遅いか来世かは別として、必ず絶対、自分も同じ目に遭う。それどころか、もっとひどい目に遭う。同じアイドルのくせに、相手の哀しみも考えずに『でも帰るっ』っていうなら、俺はもう止めん。しかし、本当に後で似たようなことがあった時、俺の言葉を思い出すことになるぞ」


 しばらく二人とも押し黙っていたが、少し時間を置いて、マリアが小さく頭を下げた。


「ごめん」


 しゅんとなって呟く。


「因果応報はおいて……同業者に自分がやられたら嫌なことをやるのは、ナシだよね」

「わたしも、少し軽率でした」


 イヴも悄然として頭を下げた。


「嫉妬に狂って、道理に外れたことを言いましたわ」

「い、いや……そんな生真面目に告白せんでも」


 まるっと嫉妬心だったとは。


「まあ、嫉妬まみれなのは本当だけど、それは置いてぇ。にーちゃんは、奥の手の伝承者だからね」


 ナントカ神拳じゃあるまいに、真顔でとんでもないことを言う。

 なにが奥の手か、最近まで忘れてたのに。


「そうですそうです」


 コクコクと何度もイヴが頷く。


「将来的に、晴れ舞台の東京ドーム公演が、本当に空っぽになるのを想像して、今、ぞっとしましたわ」

「あー、あたしは武道館を想像したよ」

「武道館より、東京ドームでしょう? そっちの方が広いのでは?」

「にーちゃん、そうなの?」


「どっちでもいいよ!」


 俺は苦笑して言い争いを止めた。


「それより、おまえ達の晴れ舞台は、デカいなっ」


 いや、いつかは実現すると、俺は勝手に思ってるけどな。

 その代わりまず、事務所の危機をなんとかする必要があるが……はあああ。





「反省したところで」


 マリアがようやくいつもの調子に戻り、ちらっとステージを囲む、たくさんの料理を見た。


「果てはデザートに至る二回戦、行きましょうかあ!」

「いいですわねっ。次はわたしも、分厚いステーキを所望ですっ」

「……まだ食うの?」


 呆れた俺が尋ねたが、二人はもう席を立った後だった。




 女の子が小食とか、単なる一部の幻想だよな……そもそもあの二人にこそっと聞かされたことがあるが、スリーサイズはバレない程度に色つけてるアイドル、多いそうだし。


「あたしらは別としてね! お腹もぷにってないし」


 なんて、最後にマリアは付け加えたけど、怪しいもんだ。

 ……まあでも、俺もデザート食うか。

 時計を確認してから、俺はそっと席を立つ。

 さて、これで無事に霧島英美里ちゃんのステージを見られるわけだが。


 俺はふと思った。そういや、あの子はあの子で俺達の勢揃い見て、なにか勘違いしたりしないだろうな?



 う……想像しただけなのに、なぜか嫌な予感がしたぞ、今。


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