いくら食べても太らない体質だもん! という、ありがちな幻想
「とにかく、まだ早いんだ。腹減ったし、食うぞ!」
「まあ……それは賛成、うん」
「お腹空きましたわね」
ようやく意見が一致し、俺達はいそいそと料理を選びにかかる。
高そうな割に、料理形式はビュッフェだからな。お陰で、多少は若者の姿も見える……というか、老若男女関係なく、みんなマリアとイヴを横目でガン見してるけど。
そばで見ていても飽きないんだから、そりゃ気になるだろう。
「お兄さま、わたしを見つめてくださるのは嬉しいのですが、腰から下ばかりはちょっと」
相変わらず妙に鋭いイブが、振り向いた瞬間に言いやがった。
「ぐ、偶然だっつーの」
食器を選ぶ振りをしていた俺は、焦って返した。
それに言わせてもらえば、麗人の後ろにいた場合、そこ意外にどこを見るのだ?
まあ、なんなら首筋とかもあるけど。
「いえいえ、別に見てくださること自体はいいんです。なんでしたら、触ってくださってもいいんですし、撫でてくださってもいいのですわ。胸であろうと、腰……お尻であろうと」
最後だけ少し恥ずかしそうで、安心したぞ。
「お、お兄さまのお望みならば、わたしはいつでも応じます。ただその場合、即結婚ですけれど……いかが?」
可愛らしく小首を傾げ、真剣に期待した目つきで言う。
感心した途端に、これだよ。
「ま、マリアの戯言をバージョンアップして真似すんなっ」
俺は小声で窘める。
こいつもそうだが、マリアも本気だから、タチ悪いなっ。
「ほら、少しズレてるぞ」
ついでなので、黒髪を飾る純白のヘッドドレスの位置を直してやった。あ、いかん……今、通りすがりのにーちゃんの歯軋りが聞こえた。
この前みたいに刺されそうになるのは、勘弁してほしい。
「まあ、ありがとうございます」
全然気にしてない様子のイヴが目を細める。
「わあっ」
礼だけではなく、素早く背伸びして頬に口付けしやがったっ。
そりゃまあ、一瞬のことではあるけど。
こ、こいつらと外出すると、心臓に悪いわー。慰めは、どう見ても十五歳に見えないことくらいだ。
「ほ、ほら、さっさと選ぼう。多分、頼んだらすかさず焼いてくれるステーキとか、揚げたて天ぷらとかが美味いぞ。俺の乏しい経験だけどな」
「では、お勧めの通りに」
艶然と微笑み、イヴが当然のように俺と腕を組む。
天ぷらもらいに行くのには過剰な行為だが、この際早く席に戻るべく、俺は中央ステージの周囲に並ぶ、各種料理を皿にどんどん取っていった。
途中でマリアがずんずん近付いてきて、「にーちゃん今、イヴとチューしたでしょっ!?」と非難されて、またいらん注目浴びたけどな。
なにがチューだ、馬鹿。
予約したテーブルに戻ると、心底ほっとした。
大皿数枚ほど抱えて、欲しい物はガンガン載せてきたので、しばらく保つな。
「しかし……おまえらも俺と同じくらい……いや、マリアに限っては俺より多いよな」
ハンバーグだけでも数種類、ステーキもあり、揚げたて天ぷらも複数あり、さらに和食洋食中華を問わず、どれだけあるのかと。
餃子とかカロリー高いんだがな。
「まぁねー。だってあたし、いくら食べても太らない体質だもん!」
早速、ガンガン摘まんでいるマリアが余裕で破顔する。……ははは、口元にソースついてっぞ。
あと、おまいは老化という言葉を知らんな?
金髪の麗人だろうと、いつまでも若くないんだよ……しみじみ言うが。
「ああ、そうだろうよ。ネットでよくエロい自撮り写真バラまいてる、ロシアの妖精みたいな超美少女達も、みんなそう言うらしいぞ、ティーンの頃は! でもだいたい、中年辺りでクマもたじろぐ迫力になるそうだ……いろんな意味で。嘘だと思ったら、ネットで『ロシアの丸太おばちゃん』で画像検索してみ?」
誤解のないように言うが、俺は本気でロシア大好きである。
今話したようなおばちゃんに、勝手にビビってるだけだ。
「大丈夫だって!」
マリアが痛いVサインをダブルで出した。
「あたし、家系が年季入ってて複雑だからアレだけど、基本はフランス系で、後は東ヨーロッパ系みたいだからっ。きっと愛らしい妖精のまま、中年まで行くわっ」
……いかねーよ!
口には出さないが、こいつの食べっぷり見て、俺は思ったねっ。
あと、横目で俺達の会話を静かに聞いている、イヴの謎の笑みがたまらん。
こそっと今、スマホで画像検索してやがったしな。
付き合い長い俺には、『マリア、その調子でもっと食べて体重を増やしましょうね。最終的な勝利は決まりましたわ』と思っているのが、丸わかりである。
いきなり大盛りカレー食ってるおまえだって、安泰とは思えんのだが。
「それよりガンガン食べて、あの人が来る前に帰らないとねっ」
「それはそうですねっ。わたしも急ぎましょう」
二人は以前にも増して、食べる速度をヒートアップさせた。
ちゅーか、本気で帰る気だったのか!
俺は顔をしかめて、フォークとナイフを置いた。さすがにここは、ガツンを言ってやらんとな。後々、本人達のためにならんっ。
……いや、決して俺が、女子高生アイドルの色気たっぷりステージを期待している故ではなくっ。
いろいろあって、直接お礼とかせずに来てますが。
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