二人とも、最終的にはお兄様と婚儀を結ぶつもりですもの
「いや、そりゃ約束はわかってる!」
俺はギリギリ嘘にならない返事をした。
実際、交わした約束はわかっている。さっき思い出したから。
「しかしだ、よく考えれば、この約束にはひどく矛盾点があるな」
「どんなさー?」
「とっくりとお聞かせください」
金髪ツインテールのマリアがしんねりと、そして黒髪をヘアバンドでまとめた、ストレートロングのイヴが目を細めて尋ねた。
「いやだって、おまえら、二人いるじゃないかっ」
当時もちらっと疑問に思ったのを、俺はピンポイントで指摘した。
「正直、こんなに美しく成長した二人を見ていると、そりゃ俺の立場じゃ二つ返事だよっ。めちゃくちゃ嬉しいよ……年齢離れすぎだけど」
俺は持ち上げまくった後、最後の部分のみ、ちょっと声を小さめにした。
「けど、まさか二人と付き合うって、そりゃ神も許さぬ所業じゃないのか?」
「ああー、そこねぇ」
始めてマリアが理解できる、という風にコクコク頷いた。
しかし、テレビでたまに見るツインテールを、真横で見られる日が来るとは。
「普通、二人×一人とか、ないですわね……一夫多妻じゃないんですから」
「だろっ? そこはどうするんだって話だよっ」
「でもその話はさあ、既にあたし達の中じゃ、十歳の頃に協定できてるのよ」
「きょ、協定っ?」
初めて聞くがっ。
「そう、協定」
ようやくマリアが、俺が皿に盛ってやったポテトチップに手を伸ばした。
「とりあえずイヴとの約束で、結婚まではお互いに嫉妬心押さえて、つきあおうねってことで、めでたく妥協が成立しました」
俺が喫驚するようなことを力強く言い切り、付け加える。
「……関係ないけど、ポテトチップは好きだけど、次からプレーンだけじゃなくて、のりしお味も買っておいてね」
今後も押しかけてくるつもり、満々らしい。
「あ、わたしはフレンチサラダでお願いします」
イヴ、おまえもかっ。
「それと、協定は結局、問題の先送りですけれど、二人とも最終的にはお兄様と婚儀を結ぶつもりですもの……諦める気がない以上、そうせざるを得ません」
「ははは、嬉しいだろ、にーちゃん! 両手に花どころか、両手にアイドルだよ? 多分、世界中探しても、そうそうないようなレアケースだよ、これっ。もうっ、このっこのっこのっ」
バンバンと、ちっこい手でマリアが俺の背中をぶっ叩く。
こいつ、小学生の頃から、全く性格変わっとらん。
ていうか、俺を真ん中に挟み、二人で顔を見合わせてにこやかに笑ってるが――。
結婚を含め、その協定とやらに、俺の意志がひとっ欠片もまじってないのは、どういうことなのか?
しかし、俺が適当に交わし、しかも長らく忘れていた約束のお陰で、二人の人生がこんなことになっているのだから、こちらもあまり強くは出られない。
とにかく今は。
その代わり、別の問題点を挙げてみた。
「わかった」
俺はおごそかに頷く。
「じゃあ、人数の問題はひとまず置くとしてだ。……世間的にだな、その、まずくないか?」
「え、なんで?」
結構な勢いでポテトチップを片付けつつあるマリアが、きょとんと俺を見た。
「あたし達、お仕事の時は仮面つけてるから、顔なんかわからないじゃない? あたしは天然だけど、金髪にカラーリングしてる女子は大勢いるし。だいたい、この格好も今、サービスでしてきたんであって、デートの時は――デートの時は私服だしさ」
デートという単語を出した時、ちょっとマリアの顔が夢見る乙女になった。
むう……成長したのはおっぱいだけじゃなかったか。
「いや、そうじゃなくてだっ。イヴはなんとなく察してる顔だが、おまえら十五歳で、俺は二十七だぞっ。そっちの世間の目だよっ。時代が時代だし、不適切だとか外で言われたら」
「にーちゃん、この期に及んで言い訳多いなぁ」
ふいにマリアが不機嫌顔になった。
「不適切って、十五歳といえば、もう少しで結婚できる年齢じゃないさー。本気で不適切なんて文句言われるのは、こういうことをした時だってば!」
「わあっ」
いきなり俺の手を掴み、自分の胸に押しつけやがったっ。
なんという魅惑の感触っ。弾力あるのに、それでいて指が埋まりそうな柔らかさもあったりして。じゃなくて――なぜか一瞬でむっとしたイヴまで、無言で逆の手を掴み、やっぱり自分の胸に押しつけやがった。
「や、やめれっ。おまえらそれでなくても薄着なんだぞっ」
「他の男性なら論外ですが、わたし達の間でそこまで焦らずとも」
少し赤くなっただけで、まだぎゅうぎゅう俺の手を自らの胸に押しつけるイヴが、ころころと笑っていた。
「だよねー。昔はこんな風にからかったこともあったし、風呂だって一緒に入ったのにさー」
「その頃と今じゃ、成長具合が違うわいっ」
俺が焦るのが面白いのか、二人で俺を左右からくすぐり始めたのに耐えかね、俺は仰け反った。なにやってんだかな、本当にもうっ。
「わかった、わかったから手を放せ! ひとまず全部先送りだー」
いつしかそう叫んでいた。
……まあ、実は胸にがっつり触れたのは、密かに嬉しかったんだけどな。