表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/53

二人とも、最終的にはお兄様と婚儀を結ぶつもりですもの

「いや、そりゃ約束はわかってる!」


 俺はギリギリ嘘にならない返事をした。

 実際、交わした約束はわかっている。さっき思い出したから。


「しかしだ、よく考えれば、この約束にはひどく矛盾点があるな」





「どんなさー?」

「とっくりとお聞かせください」


 金髪ツインテールのマリアがしんねりと、そして黒髪をヘアバンドでまとめた、ストレートロングのイヴが目を細めて尋ねた。


「いやだって、おまえら、二人いるじゃないかっ」


 当時もちらっと疑問に思ったのを、俺はピンポイントで指摘した。


「正直、こんなに美しく成長した二人を見ていると、そりゃ俺の立場じゃ二つ返事だよっ。めちゃくちゃ嬉しいよ……年齢離れすぎだけど」


 俺は持ち上げまくった後、最後の部分のみ、ちょっと声を小さめにした。


「けど、まさか二人と付き合うって、そりゃ神も許さぬ所業じゃないのか?」

「ああー、そこねぇ」


 始めてマリアが理解できる、という風にコクコク頷いた。

 しかし、テレビでたまに見るツインテールを、真横で見られる日が来るとは。


「普通、二人×一人とか、ないですわね……一夫多妻じゃないんですから」

「だろっ? そこはどうするんだって話だよっ」


「でもその話はさあ、既にあたし達の中じゃ、十歳の頃に協定できてるのよ」





「きょ、協定っ?」


 初めて聞くがっ。


「そう、協定」


 ようやくマリアが、俺が皿に盛ってやったポテトチップに手を伸ばした。 


「とりあえずイヴとの約束で、結婚まではお互いに嫉妬心押さえて、つきあおうねってことで、めでたく妥協が成立しました」


 俺が喫驚するようなことを力強く言い切り、付け加える。


「……関係ないけど、ポテトチップは好きだけど、次からプレーンだけじゃなくて、のりしお味も買っておいてね」


 今後も押しかけてくるつもり、満々らしい。


「あ、わたしはフレンチサラダでお願いします」


 イヴ、おまえもかっ。


「それと、協定は結局、問題の先送りですけれど、二人とも最終的にはお兄様と婚儀を結ぶつもりですもの……諦める気がない以上、そうせざるを得ません」

「ははは、嬉しいだろ、にーちゃん! 両手に花どころか、両手にアイドルだよ? 多分、世界中探しても、そうそうないようなレアケースだよ、これっ。もうっ、このっこのっこのっ」


 バンバンと、ちっこい手でマリアが俺の背中をぶっ叩く。

 こいつ、小学生の頃から、全く性格変わっとらん。


 ていうか、俺を真ん中に挟み、二人で顔を見合わせてにこやかに笑ってるが――。


 結婚を含め、その協定とやらに、俺の意志がひとっ欠片もまじってないのは、どういうことなのか?

 しかし、俺が適当に交わし、しかも長らく忘れていた約束のお陰で、二人の人生がこんなことになっているのだから、こちらもあまり強くは出られない。


 とにかく今は。

 その代わり、別の問題点を挙げてみた。





「わかった」


 俺はおごそかに頷く。


「じゃあ、人数の問題はひとまず置くとしてだ。……世間的にだな、その、まずくないか?」

「え、なんで?」


 結構な勢いでポテトチップを片付けつつあるマリアが、きょとんと俺を見た。


「あたし達、お仕事の時は仮面つけてるから、顔なんかわからないじゃない? あたしは天然だけど、金髪にカラーリングしてる女子は大勢いるし。だいたい、この格好も今、サービスでしてきたんであって、デートの時は――デートの時は私服だしさ」


 デートという単語を出した時、ちょっとマリアの顔が夢見る乙女になった。

 むう……成長したのはおっぱいだけじゃなかったか。


「いや、そうじゃなくてだっ。イヴはなんとなく察してる顔だが、おまえら十五歳で、俺は二十七だぞっ。そっちの世間の目だよっ。時代が時代だし、不適切だとか外で言われたら」

「にーちゃん、この期に及んで言い訳多いなぁ」


 ふいにマリアが不機嫌顔になった。


「不適切って、十五歳といえば、もう少しで結婚できる年齢じゃないさー。本気で不適切なんて文句言われるのは、こういうことをした時だってば!」

「わあっ」


 いきなり俺の手を掴み、自分の胸に押しつけやがったっ。

 なんという魅惑の感触っ。弾力あるのに、それでいて指が埋まりそうな柔らかさもあったりして。じゃなくて――なぜか一瞬でむっとしたイヴまで、無言で逆の手を掴み、やっぱり自分の胸に押しつけやがった。


「や、やめれっ。おまえらそれでなくても薄着なんだぞっ」

「他の男性なら論外ですが、わたし達の間でそこまで焦らずとも」


 少し赤くなっただけで、まだぎゅうぎゅう俺の手を自らの胸に押しつけるイヴが、ころころと笑っていた。


「だよねー。昔はこんな風にからかったこともあったし、風呂だって一緒に入ったのにさー」

「その頃と今じゃ、成長具合が違うわいっ」


 俺が焦るのが面白いのか、二人で俺を左右からくすぐり始めたのに耐えかね、俺は仰け反った。なにやってんだかな、本当にもうっ。


「わかった、わかったから手を放せ! ひとまず全部先送りだー」


 いつしかそう叫んでいた。



 ……まあ、実は胸にがっつり触れたのは、密かに嬉しかったんだけどな。 



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ