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没収された

 俺が電話一本で非常にまずい立場になったことは、さすがに彼女にもわかったらしく、「ごめんなさい、聞こえないと思って話しかけてしまって」と何度も謝られた。


「いやまあ、運が悪いのはお互い様で」


 実際、さっきのは誰が悪いというものでもないだろう……ないよな?


「でも、なんか嫌な予感がするので、今から迎えに行ってきます」

「悪いタイミングでお邪魔して、ごめんなさい」


 同情した朝日奈さんは、立ち上がってまた俺の手を握った。


「またご連絡しますね」


 なぜか縋るような目で俺を見つめる。


「う、うん。またね」


 そう言うしかあるまいよ、俺としても。

 彼女になんの落ち度もないんだから、まさか「もう連絡するな」とも言えない。

 ……言えないよな?


 自分でも自信ないのがアレだが、とにかく俺はスーパーアイドルと別れ、急いで待ち合わせの駅へ向かった。


 いなかったらどうしようと思ったが、二人ともちゃんと改札のところにいた。

 なぜか二人して毘沙門天みたいな怖い顔つきだが。

 普段の美貌が台無しである。


 おまけに俺を見てもむすっとしているので、「お……おぉ」と片手を上げて挨拶すると、二人してずんずん歩いてきて、がしっと俺の両腕を取った。





「な、なんだよ、いきなり? くすぐりっこでもするのか?」


 軽くジョークを飛ばしたが、全然くすりとも笑わず、代わりに俺がシャツの内側に隠してた写真集の袋を回収されちまった。


「ほい、見つけた!」

「あぁああああ、なんで隠し場所がっ」

「にーちゃんは見え見えなのっ」

「そうですわ! どうせこれ、あの方の写真集でしょうっ。――ほらっ、当たりました!」


 勝ち誇ったように写真集を高々と差し上げるイヴである。

 おまえら、ここがどこかわかってるかぁー。


 家の中じゃなくて、駅の改札口だぞっ。んなもん持ち上げたら、目立つだろうがっ。なんの羞恥プレイだよっ。




「い、いやほらっ。やっぱり知り合いのだし、買ってあげるのが優しさだろうよ?」


 俺は必死に訴えて写真集奪還を図るが、イヴが頭上に写真集を差し上げ、背伸びして遠ざけるので、かなりムズい。

 こいつら、いつの間にか胸と身長ばっか育ちやがってぇー。


「だいたいなあ、はあはあっ(疲れたのだ)俺はちゃんと、おまえらのも買おうと思って探したんだぞ。しかし、見当たらなかったし」


 途端に、毘沙門天みたいな二人の怒り顔が、一気に泣き顔にっ。




「ど、どうせあたしらは、写真集すら出てないわよぉおおおおっ」

「ひどいっ。二人とも気にしていましたのにっ」


 あぁあああ、かえって状況が悪化した。


「わかった、悪かった! でもそのうち、必ず出るって」

「じゃあ、それまでこの写真集見るのは禁止っ」


 マリアがめちゃくちゃを言う。


「だって、あたし達のを最初に見てもらわないとっ」

「当然の理屈ですわね(どこがっ)。だいたいこの写真集は――」


 勝手に薄い袋を破って中身をパラパラめくり、イヴが思いっきり顔をしかめる。


「こ、これはいけません……これは駄目です。露出多過ぎな水着が満載じゃないですかーーっ。年頃の男性がこんなの見たら、犯罪に走りかねませんっ。わたし達が後で見せてあげますから、諦めてくださいっ」


「いや、なんでやねんっ」


 さすがの俺も、思わず芸人みたいな大阪弁が出た。





「俺はもういい大人だっつーの。高校生の水着みたくらいで」


 言いかけたら、マリアがイヴから奪い取り、ばばっとあるページを見せた。


「これでもっ!?」

「うおっ、これは」


 いや、ちょうど大開のページで、右のページが黒いビキニの表側で、次のページが背中を向けた裏側写真みたいになっているのな。


 胸とお尻の曲線、すげー。


「うわっ、視線が狼になった! もう絶対返さないしっ」


 マリアが即喚き、素早く写真集を自分のノースリーブのシャツの内側に隠してしまう。


「ナイスです! マリア、死守してくださいね!」


 冗談かと思ったら、二人とも本気で返さないつもりらしい。なんという……。

 そして俺は、なんのか知らないが罰として、「焼き肉を腹一杯になるまで奢る刑」とやらに処せられるらしく、その場で二人に連行された。


 両脇から腕を抱えられたその有様は、昔どっかの本でみた、FBIに連行されるショボい宇宙人の姿みたいだったね!





「だから、たまたまサイン会やってるのを見かけただけで、意図して行ってないんだって」


 割と高そうな焼き肉屋さんに入り、四人がけの席についた途端、俺は強く主張した。


「その証拠に、一応買ったけど、写真集にサインだって入ってないだろ?」

「まあ、それは確かにね」


 なぜか「特上」と名の付く肉ばかりを注文し、次から次へと焼いているマリアが頷く。焼き肉好きなせいか、少しだけ機嫌が直っていた。


「なら、写真集返してくれるか? それ、信じ難いことに、三千円以上したんだが?」


「却下」

「駄目です」


 声を合わせるなよっ。


「あ、特上カルビ三人前お願いします」 


 マリアの真似して、イヴまで店員にそんなのを頼む。


「おいおい、あまりにも予算オーバーで」


「それって、写真集買ったせいだよね!!」

「まさにそれですわっ」


「……う」


 マリアはもちろん、イヴのじっとりした視線も痛いぜ。

 俺は果たして、ここから無事に帰れるのかね……いろんな意味で。


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