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俺がそんなにモテるはずがないだろっ

 迷った末に、結局あまり関心もなかったはずの、霧島英美里きりしま えみり写真集とやらを買ってしまった。


 いや、写真集のコーナーを観に行くと、なんと最後の一冊になっていたので。

 思わず手が伸びたというか……まあ、所詮は言い訳だが。


 ついでに、マリアとイヴの関連本でもあれば、それも買うかと思ったが、あいにくそういうのはまだ発売されていなかった。

 これが人気の差というヤツか……。


 だからというわけじゃないが、なんとなく気が引ける思いで帰宅途中、スマホが振動した。見れば、当の霧島英美里――じゃなく、本名朝日奈桜子からラ○ンメッセージが届いていた。





『先程、書店にいらっしゃいましたねっ』


 うお、バレてた。 

 見られてない自信があったのに。

 やむなく俺は、あそこに寄ったのは偶然であることと、サイン会を見て驚いたことを返信として書いた。


 ついでに「写真集買ったよ」とお愛想で書いたりして。


 ……すると、また三十秒も経たないうちに、次のメッセージがっ。

 キーを打つの、はやっ。




『ご、ご購入ありがとうございます。でも、恥ずかしいです……あのそれで、アイドル活動していることを黙っててごめんなさい。今、ちょうどサイン会終わって、少し時間があるので、お話できませんか?』


 あー、これは会おうということだろうな。

 つか、あの順番待ちの列が全て捌けたとは思えないが、先にあの子が『購入後のレシートがない人も、後から後から並んでいたので、店員さんが強制解散かけたんです』と事情を教えてくれた。


 なるほどな、駄目元でサインねだろうってわけか。


 人気アイドルすげーと思いつつ、まあ俺も暇は暇なので、了承のメッセージを送り、駅前のファミレスを指定した。

 いや、他のお洒落な店の方に客が集まるので、意外とそういうとこのの方が目立たないのではないかと……俺ではなく、彼女の立場を考えて。


 これまたすぐに、『今から向かいます!』と元気な返事が返ってきて、俺はまたしても駅前へと戻った。


 





 俺がファミレスに着くと、既に彼女は奥のボックス席に座っていた。

 絶対にわざとだと思うんだが、ブラウスとジーンズの、ごく目立たない格好である。しかも、またしてもサングラスしていると。


 そういや、マリアやイヴ達と違い、この子は普段から素顔で活動しているもんな。




「こんにちは。時間大丈夫かな?」


 着くなり、心配してやると、彼女――朝日奈さんは「今日はもう、予定ありませんから」と笑顔で答え、次にしげしげと俺を見た。


「な、なんか顔についている?」

「いえ……私に対して、怒ってないかなぁと思いまして」


 ちょっと張り詰めた顔でそんなことを言った。


「いやぁ、アイドルやってますって、初対面で言う人も少ないだろ? むしろ、有名な人なのに知らなかった俺の方が希少なわけで。あいつらにもよく言われるけど」

「あいつら……というのは?」


 すかさず訊かれ、やむなく俺は隣に住む二人の話をした。

 今日はオーディションだということまでしゃべってしまったけど、同じアイドルなら問題もあるまい……ないよな?


「まあ、バースデイズのお二人がっ」


 なぜか意外なほど驚いてくれた。


「あ、ごめんなさい。実はそのオーディションのアニメ作品、私も声優として出させて頂く予定なので」

「え、オーディションは?」


 反射的に尋ねると、向こうは気まずそうに俯いた。


「わ、私は最初から出演が決まっていたのです……ごめんなさい」

「いやいや、別に謝る必要は……でも……へぇえええ」


 誰も彼もが、オーディション突破しないといけないってアレでもないのか。これも人気の差かね。もちろん、あくまで今の時点での人気だが。


「いずれわかることではありますが」


 ふいに朝日奈さんが囁いた。


「このオーディションのことは、私、聞かなかったことにしますから、あのお二人にも内緒で。なんだか申し訳ないので」


 周囲に客がいないのを確かめ、朝日奈さんはサングラスを外した。

 うおっ……顔がすっきり全部見えると、めちゃくちゃ可愛いな、この子! 瞳が大きいし、まつげは長いし、唇はピンク色だし。


 思わず咳払いなどして、答えた。


「えへんっ。まあ、そういうことなら、秘密にしときましょう、ええ。もちろん俺も、写真集買ったことは内緒にしときますよ」

「なぜでしょう? それはお話ししてもいいのでは?」


 上品に微笑み、朝日奈さんが身を乗り出す。


「それとも、お二人と付き合っている……とか?」


 い、いきなり踏み込んだ質問、きたー。

 基本的に、礼儀正しい子なのにな。

 そこで、つい逆に尋ねてしまった。


「なぜまた、そんな質問を?」

「それは……その」


 一旦言葉を句切り、朝日奈さんはため息などついた。


「……正直に言いますと、嫉妬心からです、はい」


 ええええええっ、またそんなヨイショを……と俺は思ったが、真っ赤な顔で俯く朝日奈さんを見て、口に出すのは控えた。


 いやしかし、俺がそんなにモテるはずがないだろっ。


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