この方……桜子とありますし、女性ですよね?
なにかこう……納得いかないものがあるが、本当にこいつらのためになるのなら、多少の出費は我慢するべきか?
などと自己葛藤していたら、いきなりイヴが大声を出した。
「お兄様のTwitterに、フォロワーが増えていますわっ。しかも、鍵付き!」
「えぇえええええっ」
あっという間にマリアが、俺の両足の上で俯せになるようにして、イヴのスマホを覗き込む。
「本当だっ。にーちゃん、フォロワーが増えてるじゃん! しかも相互だしっ。これ、どういうことっ!?」
……なぜ半分喧嘩腰なんだ、こいつは。
あと、フォロワーが一人増えただけで、ここまで大問題だと思われる俺って。そんなに、ボッチ指数高いように思われてんのか?
「いや、たまたま図書館で仲良くなった子だよ。読書の傾向が合っててな」
「そんなことはどうでもいいです」
イヴが低い声でとんでもないことを言う。
「この方……桜子とありますし、女性ですよね?」
「ま、まあな。特に選んだわけじゃないけど」
ああ、声が言い訳がましくなった。
俺自身がそう思うくらいだから、もちろんマリアもイヴもすげー険悪な表情になったりして。
「にーちゃん、あたしらを捨てる気なのぉおおお、裏切りものぉおお!」
もう早速、金切り声上げたマリアが俺に飛びかかり、組み伏せて足技を掛けてきやがった。
しかも、どこで練習したのか、モロに決まって痛いっ。
「いたたっ。四の字固めとか、いつの時代だよっ。放せ、足が折れるっ」
「本当は浮気じゃないんですかっ。図書館とか言ってぇ!」
イヴまで俺にのしかかり、首を絞めてくるしっ。
昔の子供時代に戻ったような案配だが、今と昔じゃ筋力が違うので、本気でヤバい。
「ば、ばなぜぇえええ」
昼間から、なにやってんだかな、俺!
まあ、他人から見りゃ、女の子二人にのしかかられて、羨ましいかもしれんが、俺は本気で死の恐怖を感じたぞっ。
ようやく放してもらえてからも、二人の目つきは剣呑なままだった。
「だいたいさ、事情はどうあれ、鍵付きってのがいやっ」
元の位置に戻ってポテトチップをやけ食いしているマリアが、すげー不満そうに言う。
「何をやりとりしてるか、あたし達が見られないじゃん!」
「そうですそうですっ。密かに睦言のような会話してても、わからないのは業腹ですわっ」
「む、むつごとっておまえ……意味わかってんだろうな」
いや、もちろんわかった上での発言だろうが。
「相手は高二だとか言ってたぞ。そんな若い子が、俺みたいなオジサン間際の奴を、本気で相手にするかって」
「あたし達なんて、中学生だけど!」
マリアが即、反論してくれた。
「それにこの子、フォロワー数少ないから、遊びじゃフォローしないと思うっ。ねえっ」
いきなりイヴに振ったが、イヴは顔をしかめて何事か考えていた。
「……どしたん?」
マリアの問いかけに、首を振って答えた。
「桜子というお名前、どこかで聞いた気がするのですけど……どうも思い出せません」
「そうなの? にーちゃん、この子ってなにしてる子?」
「いや、知らんよ!」
俺は慌てて手を振った。
「初対面で、そこまで訊くか。女子高生としか聞いてないわい」
「本当かなあ」
「本当だって!」
俺は強く否定し、それから大声で話を戻した。
「それより、本当に宝くじ買うのか、俺っ」
「もちろん! あ、そういえば夢の中で見た時間帯って何時頃? 買うのも、時刻合わせた方がいいよっ」
なかなか鋭い突っ込みを入れるマリアである。
なるほど……そりゃ、夢の中で見た光景と一致しないと駄目だわな。
考えつつ、話が逸れたことにほっとしていたんだが……あいにく、イヴだけは、その後もしきりに首を傾げていた。
桜子なんて名前、割と多いと思うのに。
……まあ、後でTwitterのメッセージで、密かに本人に訊くかね。
この時の俺は、呑気にそう考えていた。




