表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/53

こうなった以上、わかっているよね?

 おっさん間近の俺とアイドルが付き合うとか、普通はない。


 そもそも年齢が違い過ぎるし、接点もない。

 交際とか有り得ない以前に、ファンタジーである。

 実現するはずない。


 くどいが、絶対に有り得ないのだ。


 だから……だからそう、俺がそのアイドル達(そう複数だ!)に押しかけられた顛末については、もちろん深い事情がある。





 俺にとって、昔の藤森聖夜と宮野真理亜の二人は、別にアイドルではなく、両隣に住むご近所さんにすぎなかった。


 建て売り住宅が三軒並んだうち、うちの両隣の家が二人の自宅だ。

 当時、暇な大学生だった俺は、成り行きで彼女達の遊び相手を務めることが多かったが、まあボッチ気味の俺としても、少し救われていたことは認める。


 コミュ障の俺だって、別に全くの一人ってわけじゃないんだぜ? みたいな。

 しかも、見た目かなり可愛いし、悪戯好きだけど純粋な二人なんだぜっ、みたいな!?


 ……ただし、相手は小学生女子だったけどな。


 俺が十八歳から二十二歳になるまでの、だいぶ大人な時期の話だけど。

 あの二人も、六歳~十歳までという、多感な子供時代をほぼ一緒に過ごしたせいか、かなり俺に懐いてくれた。

 だからだろうか?


 当時、雪国に住んでいた俺が大学を卒業し、東京へ引っ越すことになったある日、二人は連れ立ってうち(隣な)に来て、真剣な顔で俺にこう持ちかけた。





「イヴ(聖夜)と相談して決めたんだけど、にーちゃん、あたし達を彼女にしてよ」


 ……横でコクコクとイヴが何度も頷いていた。

 手を繋いだ二人の顔は、本当に恐ろしく真剣だったのを覚えている。


「に、にーちゃんさ、彼女とかいないでしょ? かわいそうだから、あ、あたし達がなってあげるよ?」


 俺の魂が飛んだような顔を見て、金髪(母と祖母が外人さんなのだ)のマリアの方が再度、申し出た。


 冗談っぽい口調だが、緊張しているのがわかるし、碧眼はめちゃくちゃ真剣だった。

 ちなみに、この二人の中二病的な名前は別に芸名でもニックネームでもなく、本名である。キリストさんの誕生日と聖母の誕生にそれぞれ生まれたので、そういう名前がついたとか。


 イヴ&マリアで、まるでアイドルユニットみたいだな、と昔から俺はからかっていた。


 しかし……当時の俺は大学を卒業したばかりの二十二歳で、あの子達は十歳だった。小学校卒業ですら、まだ少し間がある。


 そもそも仮に本気の言葉だとしても、世間的に俺がヤバい。

 そんな思いがささっと胸中を去来し、俺はしばし絶句した後、こう答えたのを覚えている。




「今すぐは無理だろ? だって俺、これから就職のために東京だし」


 ここで二人揃って泣きそうになったので、慌てて付け加えた。


「その代わり、約束する。おまえら二人がアイドルとかになるくらいに魅力的になれば、どんだけ離れてても、すっ飛んで来て交際開始だ。その頃には、年齢もかなり上になってるだろうしなあ」


 ……ちょっと考えればわかると思うが、これはもう、完全に言い訳である。

 いわゆる、「大人の逃げ口上」。まさかこいつらも本気にすまいと思うじゃないか? 穏便に諦めてくれたらなあと、そう思って口から出たセリフだし。


 しかし、この二人は割とおふざけも好きなくせに、根っこの部分では恐ろしく真面目だった。

 とりわけ、恋愛観はギチギチに真面目過ぎるほど真面目で、子供のくせにその部分だけは傑出していた。


 俺の言葉に二人でひそひそ相談していたかと思うと、戻って来てマリアがこう言ったのである。


「その約束……忘れないでね、にーちゃん」と。


 ……ごめん、俺はついさっきまで、その約束を忘れていた。

 いや、まさか本当にアイドルになるとは思わなかったのだ!


 




 そしてまさに今、その二人が俺の前に座っているっ。

 リビングに置いてある唯一のソファーで、俺を連行する刑事みたいに、両隣に当然のような顔で座って。


 俺が出してやったポテトチップには手を出さず、二人して紅茶ばかり飲んでやがる。

 まあ……そんなことより俺が気になるのは、こいつらがやたらとぎゅうぎゅうくっついてくることだが。


「にーちゃん、こうなった以上、わかっているよね?」


 紅茶を啜りつつ、金髪のマリアが含みのある流し目で俺を見た。


「こ、こうなった以上ってなんだ」

「お兄様……幼少のみぎりのお約束、まさか忘れたわけではないでしょう?」


 イヴが低い声で促す。

 大きな瞳のマリアと対照的な、切れ長の瞳が俺をじっとりと見つめる。


 めちゃくちゃプレッシャーである。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ