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事務所の危機→お兄様の奥の手で、なんとかなりませんか!

    

 俺が頭を悩ませていた黒服男の件が一応の決着を見た後、しばらく平穏な日々が続いた。


 イヴ達も、アイドル御用達で有名な中学へ真面目に通っていて、仕事の方も前よりは少し抑えめになっていた――が。


 六月に入ったばかりのその日、例によってイヴが遊びに来ていた。

 学校で用事があるらしく、まだマリアは帰宅していないので、今日は一人だけで。


 今は、またもや声優オーディションの相手役をさせられてから、休憩しているところである。このオーディションも、とうとう来週らしいが……さて、どうなるかね。




 

「もうすぐ、わたし達の所属するプロダクションが、売り払われてしまうかもしれません」


 俺が買っておいたポテトチップのフレンチサラダ味を摘まみつつ、イヴがいきなり愚痴った。


「売り払われる? プロダクションというか、芸能事務所が?」

「そう、そうなのです」


 割り箸でポテトチップを食べるという、言語道断な摘まみ方をしていたイヴは、憤懣やるかたない顔で頷く。


「これまで社長さんを務めていた、感じのいいおじさまが引退して、その方の娘さんが社長となっているのですが……どうも、全然やる気がないらしくて、手を引くのだとか」

「へぇえええ……まあ、いきなり父親と同じようにはいかないだろうが……で、買い取り希望してるところはあるのか?」

「大小の事務所が声を上げていますけれど、困るのはグラビアアイドル系の事務所も買い取りに声を上げていて……もしそこが所有権を得ると、事務所の方針そのものが変わってしまうかも」


「ぐ、グラビアアイドル!?」


 たちまち俺の脳内に、ジュニアアイドルだの、Tバックだの、普通の書店では売られない、いろいろと際どい写真集だのが思い浮かんだ。

 さすがに昨今では、そういうのも減った気がするが。


 呑気な俺も、本人が「トレーニング用ですわ」と称する、ショートパンツに薄いTシャツという格好を見て、にわかに心配になってしまう。


 マリアもそうだが……この子も、この格好のままで即、DVD撮影できそうだしな、マジで。

 二人揃ってグラビアアイドルを打診されても、全然おかしくない。


「むう。おまえなんか、たちまちそっち系のアイドルに転身させられそうだな」

「気になりますかっ!?」


 にわかに目を輝かせたイヴに、俺は渋々頷いた。


「まあ、そりゃな。おまえ達はどうなんだ? 歌うより、面積狭い水着でDVD撮影の方がいいわけか?」

「もちろん、いやです!」


 子供っぽく頬を膨らませるイヴである。

 その割におまえ、薄着だけどな……もしかすると、俺に見せるためかもしれんが。考えすぎか、さすがに。


「アイドルは好きですけど、それは歌えるからですわ。水着になるのは、気が進みません。男の人に見られるのだってあまり好きではありませんし」

「な、なるほど……」


 俺は「いやおまえ、今でも水着みたいなもんやん?」と言いそうになって、辛うじて堪えた。 仮に誰かに、「ならおまえ、イヴがこういう格好やめて、アデ○ダスのジャージ着て訪ねてくる方がいいか?」と言われると、即答で否定するしな。薄着万歳。


 他人に見せたくないけど、俺は見たいということだ。




「そこで、お兄様にお願いなのですけどっ」


 妄想しているところにふいに振られ、俺は喫驚した。


「お、俺に!?」

「そうですそうですっ」


 絶対にわざとに違いないが、恋人同士のように胴に腕を回してしがみつき、何度も頷く。濡れたように光る切れ長の瞳が、やたらと期待に満ちていた。


「お兄様の奥の手で、なんとかなりませんか!」


 なんだそれ? と考えそうになって、さすがに思い出した。


「あぁー、あったなあ、そういうの。おまえ達と別れて上京してから、ずっと試してないけど」


 懐かしく思い出しつつも、俺は眉をひそめる。


「けどおまえ、ありゃ本気で神頼みの類いだし、そんなでっかい願い事に使えるかな?」

「それは、わたしへの愛の大きさによるのではないでしょうかっ」

「――っ! そう来るかっ」


 なんだその、「失敗したら、お兄様の愛が足りないということですわっ」とでも言いかねない流れはっ。

 ちなみに、こいつらが子供の頃に何度か頼みごとをしてきて、やむなく俺が「禁断の奥の手」で叶えてやったことがあるのは事実だが……ありゃ本気で神頼みなわけで――


 などと回想していたら、ガチャガチャ音がしたかと思うと玄関のドアが開き、金髪のマリアが飛び込んで来た。


「ここへ来る道々で閃いたんだけど、にーちゃんにさー、例の奥の手でなんとかして欲しいことがあるんだけど!」


 真っ先に叫んだ後、俺にしがみついているイヴを見て、喚いた。


「だから、あたしがいないからって、抜け駆けするなしーーーーっ」

「あら? マリアだって、わたしが見ていない時に、膝枕してもらってましたわっ」


「なんでもいいから、ここで喧嘩はよせっ。それとドアを閉めろ、ドアをっ」


 あと、俺は魔法使いじゃないっつーの。


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