上京してから、初めてかもしれないな……ここまで楽しい気分を味わえたのは
俺は不満たらたらだったが、イヴもマリアも、やたら楽しそうだった。
「ごめんごめん、にーちゃんなら有り得るかと思ってぇー」
「でも、別に節約昼食でも、構いませんわよ?」
家にいるように、二人で左右から腕を組んできて、笑顔全開である。
俺は全然目立たないが、こいつらのドレスアップと美貌と来たら、文字通りのアイドル級なので、人目を惹くこと惹くこと!
俺は思わず足速になって、目的地へと急いだ……すなわち、サンシャインシティーという複合施設である。
「やっぱり、ナンジャタウンでボンビーデートじゃん!」
「だから、決めつけるなよっ。そりゃまあ、今から行くトコも、別に高くもないけど」
俺はマリアに顔をしかめて見せ、高層階へ通じる別エレベーターに乗る。
目的は、最上階である。
「今度こそわかりましたわっ」
途端にイヴが、ケージの中でめざとくポスターを見て叫ぶ。
「ここに書いてある、『死ぬほど不細工な生き物展』ですわねっ」
「にーちゃんのことかな、なんちって! きゃははははっ」
笑えないジョークを言い放つマリアを、さすがに俺は、羽交い締めにしてやった。
「こらぁ、誰が不細工な生き物かあっ」
「チョークチョーク、にーちゃんこれ反則っ」
笑いながら暴れていたが、俺も昔ほど本気で締め上げたりできなかった。
いやもう、なんか抱え込んだ身体が、モロ女の子なので……当たり前だが。こいつが暴れると、胸も一緒に揺れるしな。目に毒だ。
ともあれ、エレベーターは最上階に着き、目指す場所へと着いた。
「俺が予約したのは、手前のその展示会じゃなくて、そっち!」
奥の方にある、プラネタリウムを指差す。
「わあっ」
「これはっ」
よしよし、二人の反応がだいぶ満足そうだったぞ。
女はこういうの好きだろうと思った通りだ……まあ、俺も好きだけどな。天井見上げて、星を見るだけで楽だし。
時間調整はばっちりだったので、さほど待つことなく入れそうだった。
予約しておいたので、一番高い三人掛けの席である……席というか、三人で横たわる、ベッドみたいなソファーだが。
中へ入ると、平日なので思ったよりは混んでない。
これが日曜とかだと、もう思いっきり列が出来てるからな……いや、入ったことはなくて、列を見ただけだが。
既に薄暗い客席の中を、女性係員が案内してくれた。
「へぇええええ、一番よい席だね、ここっ」
「席というか、これは横になれるんですの?」
「当然。むしろ横になって星空を見上げるための席だよ……席というか、ベッドに見えるけどな。ちゃんと予約したんだぞっ」
俺は率先して端っこに横になろうとしたが、なぜか二人が手を伸ばして、無理に俺を真ん中に据えた。
「にーちゃんが端っこに寝てどうするの!?」
「その通りです。川の字になるなら、真ん中で決まりです」
二人とも、さすがに他の客を意識して、小声になっている。
気恥ずかしいが、俺も二人の勧めに従い、真ん中に横になった。左右にイヴとマリアが横たわり、二人の香りに包まれて、気恥ずかしさマックスである。
しかも、後ろの方で大勢のカップルの皆さんが、俺達見て羨ましそうにしてたりな。
この特別席のことだと思うが、もしかして俺が美人を二人も連れていたせいかも。
俺は天文関係に特に詳しくないので、「秋の星空」というタイトルで見せられたプラネタリウムについては、「おおー、思ったより綺麗だな」というくらいの感想しかなかったのだが。
イヴもマリアも、終わった後で想像以上にうっとりした顔してて、「あれなら、8時間くらい見てられるなあ」とか「今度、本物の星空を見に出かけましょうね」なんて、話し込んでいた。
まあ、連れてきた甲斐があったのか。
そういや俺、この二人と別れて上京してから、初めてかもしれないな……ここまで楽しい気分を味わえたのは。
「妹改造計画」というタイトルで新作上げてますので、よろしければ。