だから、貧乏予想ばかりすんなあっ
デートデートとうるさい二人のために、俺はそれなりに計画を練っていた。
本当は「じゃあ、オーソドックスに映画」と即、意見を出したのだが、二人に「にーちゃん、映画でお茶を濁そうとしているでしょっ。しゃべらなくていいし、楽だから!」とか「お兄様、黙りこくって画面見るのもいいですが、その代わり膝枕くらいはさせてくださいましねっ」とか、わけのわからん反論をされてしまった。
そこで、映画は棚上げとして、代わりにいろいろ検討していたのだが、三人デートが決まった翌々日、ふいに二人の方からうちへ押しかけてきて、いきなりこう叫んだ。
「明日がデートに決まりましたわ!」
「明日だよ、明日っ」
「……おまえら、チャイムも鳴らさずにいきなり鍵開けて入っていて、第一声がそれか」
ソファーで寝転んでいた俺は、起き上がって愚痴った。
「暇そうだし、いいじゃん?」
「マリア、おまえそれは言っちゃいけないことで――」
「それよりさあっ」
人の話を聞かないマリアは、どすんっと勢いをつけて俺の隣に座り、同じくイヴも反対側に座り込む。
もはや俺は、話を聞くしかないらしい。
「真面目な話、明日からうちのクラスがしばらく休みだから、明日にしようよ、明日にっ」
「明日って平日だろ?」
「イヴとあたしのクラスは、時期外れのインフルエンザ流行で、今週は全面的に学級閉鎖なのでしたっ」
「五月って、少ないはずですのにね」
イヴもそう言いつつ、嬉しそうに破顔する二人である。
危機感が足らんぞ……自分も実はもう伝染しているかもしれないのに。
だが、俺は反対しなかった。
なんと言っても、例の黒衣のストーカーモドキは、平日でも普通にうろうろしていたからな。いつもそうとは限らないし、どうせなら早い方がいい。
「じゃあ、最初に例のミッションこなしてからな」
「打ち合わせのアレね。効果あるかな?」
「わからん。駄目なら、別の日に試すさ」
俺がため息をついて天井を仰ぐと、イヴが嬉しそうに声を上げた。
「では、その時もまたデートですわねっ」
「……別にいいけど、週に二回目となると、もう割り勘確定になるぞ」
「大人なのに、しょっぱいなあ、にーちゃん!」
前にも喚いたセリフを、マリアが元気に喚いた。
そう言うな……俺はこう見えて、ボンビーなんだよ。
「気にしないでくださいね、お兄様」
イヴが俺の腕を抱え込んで慰めてくれた。
「お兄様の財政事情は、ある程度察しておりますから。マリアも悪気はないのですわ」
「当然じゃん。にーちゃんにたかるつもりは、さらさらないって。無職でも、ちゃんと愛してるからさ! よかったね、にーちゃんっ」
こ、こいつらっ。余計に惨めになるだろうがっ。
俺は一人で呻吟した。
その時はさらにデートのプランも訊かれたが、俺はあえて黙秘を通し、ついに翌日――デート当日である。
朝方のみ、ストーカー排除ミッションを実行した。
単純に、遠い街までレンタカーで出向き、そこの街の住所がわかるように写真撮りまくって、Twitterのアイドルアカウントに載せるという、「住所を勘違いさせようぜ」作戦である。
まあ、このミッションが成功したかどうかは、後にならんとわからんな。
それが終わると、いよいよレンタカーで池袋に向かい、レンタカーを有料パーキングに停めてから、デートの開始である。
「わかった、サンシャインシティのナンジャタウンだねっ。比較的、安いもんねっ」
マリアがきょろきょろして、いきなり予想した。
「惜しい、外れ」
「では駅近くの、昔の映画ばかり上映している、古い映画館でしょうか。パチンコ屋さんの横にあって、確か普通より安かったですね?」
「貧乏コースばかり予想してんなよ、おいっ」
たまりかねて立ち止まり、大通りで声を張り上げてしまった。
いかん、すげー目立った。
だいたいこいつら、二人共ゴシックドレスで、イヴはストレートロングの髪をヘッドドレス(ヘアバンドに似た派手なの)で飾り、マリアは金髪を片方に寄せた、変形ポニーテールにして、派手なリボンでまとめている。
印象が大違いなんで、これなら例のアイドル達だとバレないだろうが、その代わり、恐ろしく目立っていた。
こいつら、このままアカデミー賞のパーティー会場とかに出ても、全然っ違和感ないぞ。
「おまえらさあ」
……服装派手すぎだろ、と言いかけ、俺は自重した。
誰のために着飾っているかと言えば、そりゃ俺のためが大きいだろうしな……感謝するべきか。
「今度こそわかったよ、にーちゃん!」
しみじみしてると、またマリアが声を上げた。
「とりあえず、昼ご飯はあっちの路地にある、ゴーゴーカレーってパターンでしょっ。当たりだっ!」
「だから、貧乏予想ばかりすんなあっ」