今回は三人でデートということに決まったぞ、どーん!
この後、当然ながらジャンケン勝負の決着は着いたのだが。
その半時間後には、一旦部屋を出た俺が再び舞い戻り、こう宣言する羽目になった。
「やっぱり、今回は三人でデートということに決まったぞ、どーん!」
「えぇええええええっ。せっかく勝ったのに!」
マリアが立ち上がって叫び、ふて腐れていたイヴも叫んだ。
「正義は勝つのですわっ」
「誰が正義よぉおおっ」
「ま、まあまあ」
俺は二人の間に割って入って宥めた。
「実はそうせざるを得ない理由ができたんだよ」
「部屋から出て、また戻ってくる間の、この一分でっ!?」
「そう、その一分で、事態は大政奉還並に急変したんだな、これが」
俺はわざと重々しく頷く。
もちろん、ちゃんと説明してやった。
……マンションの廊下に出てなにげなく外を見た途端、またしても近くの歩道に、あのうろつき男を見つけたのである。
事実、これは嘘でもハッタリでもない。
ようやく開放された俺が、そそくさと別れを告げて部屋を出たら、幸か不幸か、またあいつの顔をみちまったという。
「こんなんじゃ、一人に留守番させられない。心配だからな。だから、今回は三人デート」
さすがに苦情はなかったが、二人とも少し不安そうだった。
まあ当然だろう。
自分達を嗅ぎ回っている男がいるとなれば、年頃の女の子としてはいい気はしない。
「やだなあ、これで三度目だよ」
「いい加減、嫌気が差しますわねっ」
ソファーに舞い戻った俺は、思わず「はあっ」と声が出た。
「なんだよ、前にもあったのか、こんなことがっ」
「うん、まだデビューして一年経ってないけど、四ヶ月おきに二回くらい」
「二回とも、別々の男性の方で――とてもしつこかったです」
「どっちか、こいつじゃないだろうな」
拡大してスマホのシャッターを押した画像を、見せてやる。
二人が左右から覗き込み、二人揃って首を振った。
「前はもっと大きな人だったし」
「そうですわね、体重がかなりありそうな方達でした」
「別クチか。いいことやら悪いことやら。まあ、アイドルも大変だなと言いたいところだが、おまえ達はなんかこう、脇が甘い気がするな……余計な写真アップするし」
二人は左右から「ごめん、にーちゃん」「ご心配をおかけしてっ」と殊勝にしがみついて謝るけど、顔が笑っているという。
なんか、俺が心配するのが嬉しいらしい。
危機感が足らんぞ!
「しょうがない」
少し考え、俺は結論を出した。
「拙い方法でも、やらないよりマシだろう。少なくとも、証拠もないのに、本人を締め上げるわけにもいかんし」
だいたい俺、そんなキャラじゃないしな。
本気でこの二人が危ないとなれば、そこまで踏み込みのもやぶさかじゃないが。
「あのぉおお」
「お兄様?」
ブツブツ言いながら思案を練る俺に、二人がまた尋ねた。
「三人デートにバージョンダウンしたけど、それでもデートはしてくれるんだよね、にーちゃん!」
「わたし、既に楽しみにしているのですがっ」
「お、おお……ちゃんとそのプランも考える。ただ、本格デートの前に俺は、一計を案じるつもりだ」
やたらとくっついてくる二人に、即席の計画を話してやった。
相手が勘違いして、この辺をうろつかないようにする作戦である。
「二人の演技力が問題だぞっ」
俺がいささかの危惧を込めて諭すと、揃って笑顔で頷いた。
「危なくなったら、お兄様が助けてくださるのでしょう?」
「助けるというか、揃って逃げる手段は確保する」
「しょっぱいなあ、にーちゃん!」
「かっこよくありませんわっ」
ガタガタッとまた二人でずっこける真似をしたが、やっぱり顔は笑っていた。
「にーちゃんがここまで気合い入れてるんだから、あたしもがむばるよ!」
「わたしも、助力を惜しみませんわっ」
鼻息が荒い二人に、俺は思わず喚いた。
「元々は、おまえら自身のことだろうがあっ」