結婚相手でもあるんだから、そろそろ二人でデートしないとさーっ
一瞬、人の話を聞かないこいつらに、ちょっとむっとした俺だが。
しかし、正直なところを言えば、抱きつかれて嫌なわけがない。
どうせバレているだろうから、俺は咳払いして答えた。
「わかった、わかった。そういや、小学生の頃も三人で遊びに行ったりしたな。じゃあ、懐かしの三人デートで――」
「却下ですわ」
「有り得ないしいっ」
うおっ、俺の温かい提案が、ダブルで否定されたっ。
「なんでだよっ。仲良しだろ、おまえら!」
「それはそれ、これはこれですわ」
イヴがわざわざ、両手を使ってあっちからこっちへと移す動作をした。
無駄にモーション上手くて、余計腹立つ。
「昔はそれでよかったとしても、もうわたしもマリアも、十五歳の乙女なのですから。やはりここは、一対一が当然でしょう」
「さんせーい!」
コーラを飲み干したマリアが、笑顔で手を上げる。
「にーちゃんは結婚相手でもあるんだから、そろそろ二人でデートしないとさーっ。むしろ、遅すぎるほどだと思うよっ」
「……下手にデートして、外で正体がバレたらどうすんだよっ」
「それは困りますが、だからって、優先順位で言えば、お兄様が上に決まっています。そこは決して間違えてはいけないところですわ」
イヴが熱心に言い募った。
いつのまにか両手で俺の腕を抱え込んでいるわけで、胸の膨らみを感じてしょうがない。わざとやってないか、この子!
おまけに、めざとく気付いたマリアが、同じことを始めるという。
「だから、ちょっと離れろって。自慢じゃないけど、女に耐性ないんだよ、俺っ。まともな意見が出なくなるぞ」
「ヤバい、にーちゃんがとうとう、あたし達に女を感じ始めたよっ」
「よい傾向ですわねっ」
うんうんと頷き合う二人である。
こいつら、しょうもないところで気が合うなっ。
「わかった。俺もおまえ達が相手なら、別にキョドる心配もなく、デートできるだろうさ。なにか計画練るから、どっちが先か考えておいてくれ。今日はひとまず戻るし」
ナイスな逃げ口上を宣言したのだが、二人ともまた同時に声を揃えた。
「わたしが先ですわ」
「余裕であたしが先だよねっ」
そこでまた、お互いにむっとした顔を見合わせる。
「マリアは、さっき、先にオーディションの練習したじゃありませんかっ。抜け駆けで!」
「それはそれ、これはこれだよっ」
先程のイヴと同じセリフを吐き出す、マリアである。
「まあ、いかにマリアと言えども、その厚顔な態度には我慢なりませんっ。譲り合いの精神はどこへ行ったのですっ」
「逆の立場なら、絶対譲らないくせにぃいいいっ」
「いたっ」
二人とも、なぜか怒りにまかせて俺の引っ張り合いを始め、関係ない俺が呻く羽目にっ。
大岡裁判じゃないっつーの!
本当は嬉しい場面だし、有り得ない場面でもあるが、そうも言ってられない。
「わかったわかった。じゃあ、ジャンケンで決めろ、なっ。それでいいじゃないか。どうせ順番が違うだけだし」
「うううううっ」
「……くっ」
マリアとイヴは唸り合っていたが、やむなくという感じでマリアが尋ねた。
「何回勝負?」
「一度じゃ盛大に揉めそうだから、先に五回勝った方でどうだ?」
「わかったよ、にーちゃん!」
「承知致しましたっ」
ようやく二人が手を放してくれたのはいいが、代わりにその場で立ち上がり、睨み合いを始めた。
単なるジャンケン勝負とは思えん。
しかも、誰のせいといえば、俺のせいだしな、これ。
喜んでいいのか、それともドン引きすべきか、迷うところだ。
俺は一人だけ神妙に座り、二人の勝負を見つめていた。
……関係ないけど、二人とも足長いなっ。




