中学生アイドルが押しかけてきた
五年間会わなかった女の子に、いきなり再会したらどう思うか?
しかも、最後に会ったのが引っ越し前の十歳で、今が十五歳だとしたら?
……あっさり解答するが、俺には判別つかなかった。
チャイムが鳴ってマンションのドアを開けた途端、『サプラァアアアアイズ!』とでっかい声を上げ、二人の少女が揃って両手を広げた。
恐ろしいことに、この二人はある意味、おそろいの格好だった。
まだ五月だというのに、ピカピカ光るホットパンツに黒パンスト、それにビスチェみたいなぴっちぴちなノースリーブシャツ姿である。
違いといえば、金髪の方が上下金色の衣装で、黒髪の方が上下銀色ってだけだ。
ちなみに二人とも、シャツの丈が短いんで、へそが出てる。
「ええと……引っ越しの挨拶……かな?」
俺が困惑して、しかし視線はがっちりノースリーブの胸元に固定で訊くと、二人はわざとらしくずっこけてくれた。
「あたた~、やっぱりわからないみたいよ?」
「ひどいですわねっ、気を遣って、お仕事の衣装に着替えましたのにっ」
金髪で金色衣装の方がけらけら笑い、黒髪の銀色衣装の方は単純に膨れた。
しかし、俺の方は二人の姿を見るうちに、だんだん記憶を刺激されてきた。
「それ……テレビで見た……衣装……の気がするっ」
ぶつ切りの返事になったのは、確かにこの衣装の二人をテレビで見た時には、彼女達は顔の一部を隠していたからだ。
よく映画などで、かなり昔の外人貴族達が、仮面舞踏会とかで両眼の周囲を覆うようなハーフマスクをしてるのを見る時がある。
そう、まさにアレだ。
俺がテレビで見た二人は、鼻の上が隠れるような、そんなマスクしてたのである。
デュオ名は、そのまんま……う~ん……なんだっけ?
「しょうがないなあ、じゃあこれでわかる?」
「むしろ、アイドルじゃないご縁の方を思い出して欲しかったですわ」
二人してぶつくさ言いながら、ホットパンツの後ろに手をやって、マスクを取り出す。
それぞれ色違いだが、これもデザインは同じだった。
そして……おおっ、二人が両眼を特撮ヒーロー(ヒロインか)じみたマスクで覆い隠せば、まさにあのアイドルデュオではっ。
鼻から上が明らかになっただけで、こうも印象変わるのかっ。
「アイドルデュオの、バースデイズ!」
俺は掠れた声を上げて驚いたが、正体がわかると同時に、二人はどやどやと俺を押しのけてうちに入ってきた。
「はいはい、当たり当たりっ」
「もう一つのご縁は、いつになったら、思い出してくれるのでしょうね。一緒にお風呂も入った仲ですのに」
「はあっ? じゃなくて、待たんかいっ」
いくら今をときめく人気アイドル様でも、いきなりドカドカ入ってこられる覚えはないっ。しかも、俺がテレビで見たのって、せいぜい一度か二度だからなっ。
「遠慮なさすぎだろっ。どういう理由で、縁のないうちへ――」
俺が苦情を述べかけた途端、二人がさっと振り向いた……やたらとむっとした顔で。
……全然関係ないが、勢いよく振り向いたので、シャツの胸が二人揃って揺れた。こいつら十五歳とかじゃなかったか? いいのかこれ。
などと思って阿呆みたいに見返すうち、俺はふと、さらに記憶をくすぐられる気がした。
この二人のむっとした顔とか、口調とか……全て見覚えや聞き覚えがあるが。
「待て、待て待てっ」
俺は額に手を当ててしばらく考え、そしてもう一度、今度は期待に満ちた二人の顔を交互に見る。
既に成長して立派な「女の子」になっているが……そして、胸もたいがい成長したが……この二人はもしやっ。
「おまえら、宮野真理亜と藤森聖夜かっ」
「イェエエエエーーーッス! ようやく思い出したね、にーちゃんっ」
「お兄様、お久しゅうございます」
金髪のマリアが無駄にVサインを出し、黒髪のイヴの方は丁寧に一礼してくれた。
どうやら俺は、五年ぶりに、(故郷の)ご近所のチビ共と再会したらしい。
身長やら胸を見れば、今やどこがチビやねんという感じだが。
「ご、五年ぶりかっ。懐かしいが、今日はまたどうした?」
この問いに、またしても二人の機嫌が悪化した。
「今日はまたどうしたですって!?」
「ショックですわっ」
当然の質問だと思うのに、連呼された。
俺が戸惑っていると、ため息をついて黒髪のイヴの方が言った。
「アイドルになったら、交際してくれる約束でしたわね?」
……えっ。
なにそれっ。俺は口をパクパクさせて、二人を見比べた。
……一応、短編を念頭においてますが、例によって、どこまで続けるかは決めていません。
いつものごとく、「短めで終わるのは嫌」という方は、どうか回避を(汗)。
アイドルよく出しますが、実は私はその手のイベントすら行ったことがないので、アイドルの扱いについては、かなり幻想まじってると思います。
☆マスカレードって、アニメのグループでありましたので、変更してますorz
以上、注意事項でした。
今回も、よろしくお願いします。