【再投稿】俺はスカート丈長めの方が好みでござる
やばい。俺の人生が終わろうとしている。
今、目の前には涙目でこちらを睨んでいる女子高生。
そしてここは満員電車。
もうお分かりだろう。俺は痴漢と間違えられている。
もちろん俺はやっていない。いきなり手を掴まれ、この人痴漢ですと言われただけだ。
仮に触ったていたとしたら……あの時か?! 電車が揺れた時か?! その時にちょっと触っちゃったのか?!
そして今俺は隣りに立つオッサンに腕をガッチリ掴まれている。
「次の駅で降りろ、クズ」
うおおおぃぃぃ! クズ扱いかよ! ふざけんなコラ! 第一、俺は……
く、くそぅ! 冤罪だ! 罪の無い人間が裁かれて罪を犯した人間が笑ってる!
こんな事許されるワケが無い!
「お、おれやってないッス!」
無駄な抵抗だと思いつつも言い放つ、案の定周りの客全員……俺を無言で睨みつけているだけだ。
誰一人として俺の味方は居ない……。
そうこうしてる内に電車が次の駅に停車してしまう。
もはやここまでか……俺の人生は……。こんな事なら性転換しておくんだった……。
昔は短パンにTシャツ着て……帽子被ってれば少年になれると思ってた……。
「おら、さっさと降りろ!」
おっさんが俺の尻を蹴って降りるよう急かす。
「ちょ……っ、どこ触ってんだ! おっさん!」
「あぁ?! 男の癖に何言ってんだ! このカス!」
うわぁぁぁ、ここまで男扱いされると嬉しいけどなんか微妙ーっ!
男装して満員電車なんて乗るんじゃなかった……ちくしょう……
もう気づかれてる方も多いだろうが、俺は生物的には女だ。
昔から男に生まれたかった。正直両親を恨んだ時期もあった。
なんで俺を男に産んでくれなかったんだー! と。
まあ、そんな事両親には口が裂けても言えないが、とりあえず俺は男になりたかった。
そこで最近、自分の中で流行っているのが男装だ。大学生の俺は兄貴の服を借りて時々出かけている。
本日もそんなこんなで男性気分を満喫していたら巻き込まれてしまったのだ……。
あぁ、でも……あの女子高生可愛かったなぁ……スカートも丈長めで控えめな所も好みでござる……あぁ、こんな事になるなら本当に触っときゃよかった……。
やっぱ女の子最高だなぁ……俺が男になったら世界中の女の子を幸せにしてやるのに……。
そんな妄想しつつ駅員室へ。被害となった女子高生も同席していた。
「えーっと……じゃあ君から。名前は?」
駅員さんは女子高生に名前を尋ねる。
「え、えっと……柊……」
「下の名前は?」
「…………」
女子高生は答えない。ふむ。怯えているのか……可愛いなぁ……俺が高校生の時は、そもそもスカートの下にジャージ履いてたしなぁ、痴漢の心配なんてしてなかったし……。
怯えるような態度の女子高生を後回しにして、次に俺の名前を聞く駅員さん
「じゃああんた、名前は?」
「えっと……真田 晶です」
「歳は?」
「20歳……」
ふむふむ、とサラサラと書き留めていく駅員さん。すると
「ホントに痴漢したの?」
いや、してねえよ。
「してません……」
そう俺が答えた時、俺を連れてきたオッサンが左手で机を叩きながら怒鳴った。
「噓付け! その子も証言してるし、俺だって見たんだ! その子のスカートの中に手を入れて触ってただろ!」
その時、ピクっと駅員さんが反応する。
「スカートの中? どんなふうに?」
おっさんは実演する。目の前に女子高生がいるとして、こんなふうに……と手を動かした。
「ふぅーん。柊さん。大体あってる?」
「ぁ、はい……大体そんな感じに触られました……それで……我慢できなくて……手を掴みました……」
うおぃい! そんなイヤラシイ手つきで触ってないって! いや、でも逆に……電車が揺れた時にちょこっと触れたから痴漢に間違えられてるわけじゃないのか……
「どっちの手? 右手? 左手?」
柊ちゃんは悩む。
「え、えっと……確か……えっと……」
そりゃぁ悩むわなぁ、左右どっちの手掴んだのかなんて普通覚えてないって……
「ちょっと再現してみましょうか。三人共電車の中と同じ位置に立って」
素直に指示に従う俺。っていうか……駅員ってここまで調べるのか……てっきり実演交えてとかは警察に連れてかれた後にするもんだと思ったが……。
駅員さんを正面に俺の右側に女子高生。そして女子高生のやや後ろにおっさん。
ふむ、おっさんはそこから俺がスカートの中に手を入れてるのを見たのか……。いや、やってないけど。
「じゃあ真田さん。触って」
「……はい?」
「実際にしたみたいに触ってみて」
「い、いや! やってないけど! やってないけど不味いでしょ! それは……?!」
なんで駅員にそこまで指示されんとならんのだ! っていうか触ったら冤罪じゃなくなるし! しかし駅員さんはジっと睨みつけてくる。く、くそぅ……
「ご、ごめんね……触ってないけど……」
と、軽く女子高生のお尻に手を伸ばそうとした瞬間。
「はい、ストップ」
と駅員さんに止められる。そりゃそうか……びびった……。
「そのままね。じゃあ柊さん、手掴んでみて」
「え? あ、はぃ……えっと……こうやって……あれ?」
その時、柊ちゃんが首を傾げる。
「どうしました?」
「え、えっと……お尻触ってた手って……えっと……右手……ですか?」
いや、触ってないけど! 今は右手で触ろうとしてたよ?!
「確か……腕時計してるほうを握ったから……こう、かな?」
と、俺の左手を握る柊ちゃん。
いや、明らかにおかしいだろ。普通お尻撫でてる手掴むだろ。
「あー……立ち位置は……合ってるんだよね?」
確認する駅員さん。うむ、合ってるハズだ。オンラインゲームでタンクをメインにしてる俺が言うんだから間違いない。もう一度柊ちゃんに確認を取る駅員さん。
「良く思い出して、柊さん。手を掴んだ時の事」
「え? えっと……確か、あの時電車が揺れて……」
うむぅ、その直後に手掴まれたんだ。
「じゃあ真田さん、電車が揺れた時どっちに体動きました?」
どっちって……えっと……
「確か、隣りの人に押されて……こうやって……」
と右側に体を揺らす。むむ、こうやって実演してみると……左手めっちゃ近いやん! お尻に……
「じゃあ次。貴方」
おっさんを指名する駅員さん。
「どうやって触ってたのか、もう一度実演してみて。真田さんと位置変わって」
はい、と俺とおっさんは位置を変わる。そして、おっさんは右手で触るフリをした。
「はい、ストップ。どうしたの? さっき左手で実演してたじゃない」
むむ、駅員さん鋭いな。確かにさっき左手で実演してたな……、いや、でも右側に立つ女子高生のお尻を左手で触るってかなりアクロバティックな……ん?
あれ? そういえば……このおっさん……なんであの時……
「貴方、左利きでしょ? 痴漢するなら左手ですよね」
痴漢するならって……駅員さんなんか怖い
「は、はぁ?! な、なんで俺が痴漢するんだよ! 俺はコイツが痴漢してるとこを見てたんだ! た、たしかに右手でお尻を……」
だからシテナイって……
「柊さん。手を掴んだのは電車が揺れる前? 後?」
「え? えっと、前です……」
ん? いや、後だろ。
駅員さんはオッサンの左手を掴み
「柊さん。どこを掴みました? さっき腕時計の方って言ってましたよね」
オッサンも腕時計をしている。かなりゴツい奴だ。俺もしてるが……大学で使ってる女物だしな……うぅ、男物のカッコイイのほすぃ……。
「え、えっと……はい、この辺を……」
と、腕時計の上から手首を掴む柊ちゃん。その時首を傾げる。
「……? あれ? あ、あの……え?」
何かに気づいたように、俺とおっさんを交互に見た。
「どうしました? 柊さん」
「え、えっと……あの、いいですか?」
と、俺の手首も掴んで来る。なんだ、一体……。
「ぁっ……ああ?! ご、ごめんなさい!」
いきなり頭を下げて謝ってくる柊ちゃん。いや、わけわからんて。
「こ、この人です……痴漢したの……この人の方です……」
と、柊ちゃんが指さすのは……痴漢を目撃したというオッサンだった。
「なっ……何を言いだすんだ! ふざけるな! 俺がそんなことをする筈が無いだろう!」
叫ぶおっさん。いや、待て、まさか……このオッサン自分が痴漢して、その罪を俺に擦り付けようとしたのか?! あたかも痴漢を目撃したとか言って……
「まあまあ。落ち着いてください。柊さん、どういう事か説明してもらえる?」
コクン、と頷きながら柊ちゃんは語る……
「最初に……掴んだ腕時計なんですけど……冷たかったんです、すごく……」
ん?
冷たいとな……まあ、おっさんの付けてるのはステンレスっぽいベルトのデカい腕時計。まあ冷たいだろうな……。
「でも、今触ってみたらハッキリ思いだして……電車が揺れる前に一瞬だけ握って……そのあとすぐにまた握りなおしたんです……でも……」
ああー、そういうことか。俺の手を握ったのは……電車が揺れてオッサンの手を離しちゃって……そのあとすぐに掴もうとしてってことか。
チラ……っとおっさんを見る。うわ、すっごいブルブル震えてる
「ふ、ふざけるな! そんな……こじつけ……お、おれは見たんだ! こいつが痴漢してるところを!」
まだ言うか、このオッサン。駅員さんは溜息を吐きつつ
「痴漢を目撃したんだよね。じゃあ……なんで貴方止めなかったの。柊さんが手首捕まえるまで、貴方なんで黙ってたの?」
「え?! い、いや、それは……」
「それにね、貴方なんでお尻触ってるって分かったの?」
ん? そんなの見れば分かるじゃない。スカートの中に手いれてるんだし……って、あ……
そうだ、膝上25cmくらいの超ミニなら分からなくもないが、今柊ちゃんが履いてるのは膝上5cm程度の物だ。確かにスカートの中に手を入れて、お尻って即答できるのも不自然か……私なら内腿撫でたいし。
「だ、だから! こ、こうスカート捲りあげてお尻触ってて……」
「あ、あの……捲られてはないと思います……」
証言する柊ちゃん。やべえ、マジ天使にみえりゅ。さっきまで小悪魔だと思ってたけど。駅員さんはオッサンに詰め寄る。
「ち、ちがう、俺じゃない! 俺じゃなぃ……!」
そのまま逃げるオッサン ってー! 逃げたら確定だろ! 白状してるもん……
と、その時駅員室に入ってくる外人さんが一人。
「すみまセン、さっきの痴漢騒ぎの事ナンデスガ……ン?」
おっさんが外人に突っ込む! あぁ! やばいっ、と思わず目を瞑った。おっさんと美人の外人が正面衝突……っ……って、あれ。
次の瞬間、俺の目に映ったのは床に転がるオッサン、ただ一人。外人さんは手にホコリが付いたと払っていた。
「アァ、すみまセン、さっきの痴漢騒ぎなんですガ、犯人はコノおじさんデス。私チラっと見てましたカラ。まあ、でも……男性同士だったのデ、そういうプレイをしているノカト……」
ギクっと柊ちゃんが震える。え? 男同士って……え?
「ご、ごごごごめんなさいぃぃ! 誰にも言わないで! 言わないで!」
ポカーン、と駅員さんと俺は柊ちゃんを眺める。恥ずかしそうに顔を覆いながら、俺に学生手帳らしき物を出して来た。
むむ、なんだ、見ろってか? エーット……柊 拓也 ホニャララ高校か……。って、拓也……どう考えても男の娘じゃないか!
「ごめんなさい……ごめんなさい……」
「あ、いや、俺……私もごめん……」
いいつつサイフから大学のIDを出して見せる。そこには女性ヴァージョンの私の姿。そして女と書いてある。
「え……え?! お、お姉さん……?」
「う、うん、なんかごめんね……」
うぅ、お互いに性別偽ってたって……なんだコレ。
数十分後、警察が到着しオッサンを連行していった。
あとで知った事だが、駅員さんは最初から私が女だと気づいていたらしい。まあ、柊ちゃんほどガッツリ変身してるわけじゃないからな……。
そして極め付けにオッサンが痴漢の実演をした事で確信したそうだ。犯人はコイツだ、と。
その理由は手を前に出しながら実演したから、だそうだ。
柊ちゃんは私の右、ちょうど真横に立ってたんだから、実演するなら横に手を出してするのが自然だ。
しかしおっさんは前に手を出して、目の前に柊ちゃんが立っていたとしたら……と想定して実演していたのだ。
そんなこんなで冤罪を掛けられそうになった私は、あれ以来男装を控える事にした。男として電車に乗るだけで痴漢にされるリスクが増えるのだから恐ろしい。
だがまあ……柊ちゃんのように勇気ある女性は……ぁ、男性だったけど……
もっと増えてほしい……とは思う。勿論冤罪作っちゃアカンとは思うが……。
「ねね、晶さん、お詫びも兼ねて……デートしませんか……?」
「ん……私、男装しないけど……。拓也は……女装してね。お詫びなんだから言う事聞けよ」
そして私と拓也はデートするくらいに仲良くなった。お互いの性へのコンプレックスを慰めあう為に。