The Shadow of Me
大学に行くのが面倒だった私はある日、『魔界の薬売り』と名乗る男から『影武者を産む薬』を買い取った。その効果は、自分の影が自分の代わりとして動くという、信じられないものだった。初回サービスだという事で安くその薬を買い取った私は半信半疑でその薬を服用してみた。
効果はなんと一分もせずに出た。日に照らされて濃く地面に映る影は平面からぬるりと立体的なこの空間に現れたのだ。『現れた影に命令すれば、影はそれに従う』と薬売りは言っていたので、私は影に向かって言った。
「私の代わりに生活をして頂戴」
その日以降、私は影に大学へ行かせ、自分は部屋に篭ってゲームをしたり(主にBLゲーと『デッドワールド6』というゾンビゲー)、アニメショップへ出かけたりと、思う存分自由気ままに過ごしていた。
最初は影が部屋に帰ってくると驚いたりしていた。見た目はまんま真っ黒な人間(某少年探偵のアニメの犯人みたいな)なのに、私以外の人から見るとその影は私に見えるらしい。まあ、そうでもなければ大騒ぎだ。
影武者を生み出して一か月経った頃からか、身体が徐々に重くなっていた。身体を見てみても太ったわけでもないのに。二か月経つ頃には私は完全に寝たきり状態となってしまった。その頃には大学通学だけでなく、ほぼ全ての生活を影が行っていた。ゲームも、グッズ購入も、友人との会話も、食事も、全部――。
もう何日御飯を食べてないのだろう――。かなりの日数食べてない筈なのに、不思議とお腹は空いていなかった。
そして、丁度三か月目経った日の事だった。
突然の出来事。私の身体が、黒く染まっていく。何に例えようのない、完全な漆黒。それが、足元から蛇が這い上がるかのようなスピードで侵食していく。叫ぼうにも、もう声が出ない。身体を動かそうにも、もう動かない。逃げることが、できなかった。
その時、影が私の顔を覗き込んだ。影の顔に、私は驚愕した。影はいつの間にか、完全な『私』の姿になっていた。逆に、私は完全な『影』の姿になろうとしている。覗き込む『私』の顔が、ゆっくりと微笑んで私を見つめる。そして、三か月経って初めて、影は口を開いた。
ありがとう、と――。