酒という墓
呑んでしまえ呑んでしまえ。
お酒がこちらをじっと見ている。
瓶に貼られたラベルがにっこり笑っている。
それだけでもう、僕はいてもたってもいられない。
気づけば一升瓶をラッパ飲みしているってものだ。
僕は悪くない、全ては酒のせいである。
誰だ、アルコールを発明した奴は。
天才か。
毎日毎日、浴びるように酒を呑んで、泥のように眠る日々。
そんな人生があってもいいじゃないか。
肝臓が悲鳴をあげだす頃には、きっと僕は酩酊状態。
世界が揺れて見えるのであれば、それもまた一興と呼べるかもしれない。
酔い潰れて道端を這うのも、人生に疲れてそのへんに寝っ転がるのも、
社会に押し潰されて壊れてしまうのも、何も変わらないだろう。
社会をうまく生きている奴なんて、負債を誰かに押しつけているだけだ。
世の中を上手に渡っていく奴なんて、汚いものを指差してアレハイケナイとほざく奴ばかりだ。
いったいぜんたい、その黒いものがなぜできたのかを考える奴はいないのか。
どうしてそのことを大きな声で言うと、みんなして嫌な顔をするのか。
僕にはそれがわからない。
わからないから酒を呑む。
酔わねばやっていられないのだ。
尤もらしいお題目を唱える奴も、白い目で見ながら我関せずの態度を貫く奴も、
人生は暇潰しなんだと語ってみせる奴も、周囲を見ては愛想笑いしかしない奴も、
どいつもこいつも天国と地獄を見てくればいい。
お釈迦様に延々と説法されれば、そのつまらなさに寝てしまうだろう。
血の池に漬けられて鞭で打たれれば、その横暴さに心が折れるだろう。
その果てにあるものは、世の中をひっくり返すしかないと悟るのだ。
しかし革命を叫べばなかなかに不穏な世界である。
気づいた奴だけが酒を呑めばそれで済む。
今でも誰かが泣いている。
今でも誰かが悲しんでいる。
ああ、やっていられないさ。
だから僕は酒を呑む。
死んでいった者たちに、酒を捧げるのだ。