表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
<R15>15歳未満の方は移動してください。
この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

水面にきらめく銀

水面にきらめく銀


私はそれの始まりがええと、ちょうど今日のように蒸し暑い夏の夕暮れであったように思います。蛙が鳴いていないのが大きな違いですね。

当時私は暇をもて余す大学生でありまして、日がな一日近所の池や川で釣りをしていました。

流石に夏休みも半分を過ぎると毎日通っている川では物足りなくなってきてしまい、新たな釣り場の開拓をしようとあちらこちらを買ったばかりの原付を酷使して走り回っていました。あまり良い釣り場も見つかることが無かったので今日はこれくらいにして帰ろうか、そんな事を考え始めた私の目に小さな沼が留まりました。私がする釣りはルアーを用いた釣りでしたので、どうにも窮屈な場所でルアーを投げるのはつまらないのでそのまま通りすぎてしまおうなどと思っていました。

いや、むしろそうするべきだったのです。

沼を一瞥した私は『ただいま沼の水抜き中』という看板を見つけてしまったのです。沼の水を抜くと、そこには釣りの途中で糸が切れてしまったルアーが誰の目に付くことも無くただ佇んでいるということを知っていた私は原付を止め、まだぬかるんだ土をあちこちうろつきルアーを探し拾い始めました。

ああ、貴方は釣りはなさらないのですか?これが以外に道具にかかるお金がバカに出来ないもので、ルアーなどもしがない大学生にとっては高価なものでありました。中でもとあるブランドのものは、おっと、失礼。本題にもどりましょう。

幸いな事に私は多くのルアーを手に入れることに成功し、肝心の魚は釣れていませんでしたが満足した気分で沼を眺めました。どうやらこの綺麗とは言えない沼の水は数日のうちに全て抜かれてしまうようで、排水ポンプの音がその空間に発生する音の大部分を担っていたのを良く覚えています。

また浅くなった水面でルアーを拾ってやろう、そんな事を目論んでいた私の目にきらりと銀色の光が飛び込んできました。小魚の鱗が光を反射したのかと初め思いましたが、どうやらその光の源はそこに佇んでいるようでした。私は愚かにも、ルアーが底に沈んでいるのだろうと見当をつけ、いずれ沼の水が無くなったら拾ってやろうと目星をつけ、その日は家に帰りました。


数日後、私はまたその沼を訪れルアーを拾い集めました。気分良く沼を歩き回り、そういえばこの前ここにもう少しで拾えそうなものがあったなあと思いだし、水面ギリギリを見て回りました。

歩き回る私の目に水面から真っ直ぐ銀の光が飛びこんできました。あれ、この前は今日ぐらいにはもう拾えるようになっている気がしたな、などと首をひねった私の目にぼろ切れが止まりました。沼にはよくゴミが、まあ良くは無いのでしょうが捨てられていることが多く、私はまたいつものゴミかと適当な木の枝でぼろ切れをつついてみました。邪な気持ちでルアーが引っ掛かっているかもしれないなどと考えての行動です。

重なっていた布切れはどうやら服だったらしく、なにやら装飾が残骸から垣間見られました。服には包むようにして捨てたのか靴も有りましたが当時の私の目当てで無いことは明らかでしたのでそれをつついていた木の枝ごと放りだし、また今度銀の光の元を拾ってやろうと意気込みその日は帰りました。


三度目のルアー拾いでしたが、この日私はようやくおかしなことに気が付いたのです。更に沼の水が減ったにも関わらず、あいも変わらず銀の光が私の目に飛び込んでいたのです。それに気づいたのはそう、ぼろ切れとの距離感もそうですし、新たに干上がった所、丁度私が銀の光の元と見当を付けた所に、ぼろぼろの財布のような物を見つけたことからも言えるでしょう。

ルアー拾いの成果が芳しくないことと、そして銀の光に追い付けないことに私は苛立ちか好奇心か、その財布を、とても汚いものでしたが開いてみることにしたのです。

まあ捨てられているくらいだからお金が入っていないのは当然だろうと自ら納得はしていましたが、丁寧にジプロク詰めにされた何かを見つけてしまい、金欠の私はそれをほいほい開いてしまいました。

入っていたのは写真でした。かなり劣化していましたが髪型からどうやら女性のようであると思いましたが、結局何にもならないので捨ててしまいました。私はそれよりも、銀の光の元を探り当てることに躍起になっていたのです。その日はそれでおしまいにしました。


四回目、というよりこれが最後になりましたが、私は誰よりも早くそれを拾ってやろうと朝っぱらからその沼に向かいました。

そこで私は銀の光の元を見つけました。


手錠です。

このあと1日もすれば干上がってしまう沼の中心で、私はまだ太陽も登っていない時間に冷たく泥に沈みかけた鈍い銀色の手錠を見つけてしまったのです。夏の湿気った生暖かい空気がふと冷たいものに代わり、背筋に薄気味悪いものがのし掛かっていました。

私は何故か動くことが難しくなっていきました。

誰か、そう思っても辺りには人一人いません。少し離れたところには、最初に見つけた服と靴、どうやらハイヒールらしいものが、ふと見た足元にはこの前捨てた写真が、なぜか以前より鮮明に女性を写してただそこに佇みます。

目についたのはその生気の無い顔、冷たい水に凍えているかのような様子に反して銀の光を蓄えギラリとしたその瞳でした。

呼吸すら満足に出来ませんでした。

未だ太陽の登らない時間、音の無い空間で、干上がるまであと少しの沼の水面の下にとても大きなものが隠されている事を予感した私は立って歩くこともままならず、這うように、泥にまみれるのも構わず逃げました。

ようやく沼から出て、原付にしがみつくようにして乗り込んだ私は太陽が登って来るのを肌で感じました。


背筋の重さも、空気の冷たさも一気に収まっていきました。

助かった、と怪力乱神の類いに遭遇することがそれまで無かった私は直感でそう思いました。それでもここから速やかに立ち去るべきだと考え、急ぎ原付のキーを回しました。

ホラー映画の如く、ということも無く無事にエンジンのかかった原付を操作し私は沼から離れました。

しかし、私は最後に横目に沼からきらりときらめく銀の光を受けてしまいました。

思えばそれが分水嶺だったのでしょう。

それ以来私はありとあらゆる水面に銀の光を見出だすようになりました。気づいたのはすぐです、私は釣りが好きだったので。

その光は最後の仕上げを怠った私を責めているように感じられました。

以来大きな水面には近づくことを辞めていました。違う趣味を作って、毎日あの銀の光を忘れるかのようにはしゃぎ暮らし、ここ数年ではすっかり光のことが頭から抜けていました。


しかし最近、ええ、貴方も知っているでしょう彼女です、貴方も彼女に用があるんでしたよね?あっ、今は私の話が聞きたいと、はい、分かりました。


私と彼女は恋仲です。とても気があってここ数年交際していて、最近は同棲をしているんです、ええ、のろけ話になるでしょうが彼女はとても、本当に綺麗な瞳の持ち主なのです。

なのに、なのに彼女は最近その瞳に銀の光を携えはじめました。私はここ数年来見ることの無かったそれをひどく恐れました。けれど彼女は呑気なもので、怯える私が可笑しいとクスクスと笑っていたものです。悪魔的な銀の光をともなってですよ?しんじられますか?

このままでは彼女の身に何らかの危険が及ぶのでは、ないかとおもいわたしはかのじょを連れて人気のない場所にいき、そのひとみをくりぬきました。

革命的な銀の光の処分でありました。

ええ、酷く抵抗するので仕方がなしに知り合いから譲ってもらった手錠をつけてもらいましたよ。彼女も僕も、そういう趣味は無いのですがね、ふふ。

ええと、それからは疲れたのかかのじょはぐったりとしてうごかなくなったので、なんとか看病しようとまずは止血と、熱を伴う彼女の眼窩を冷やすため、手元には何も無かったのでかのじょを冷たい水につけてあげました。

僕も大概疲れていたのか、うっかりと居眠りをしてしまいました。

見るとかのじょがいません。手荒い私の扱いに怒ったのか彼女は家に帰っても見当たらず、ええと、今日で一週間も連絡が取れないので心配していた所に貴方が彼女に用があるということで今に至るというわけですね。


え?彼女を最後に見た場所?××沼ですよ。なるほど、貴方は彼女を探しにいって私は手錠をつけて貴方のご友人二人と移動をするのですか、わかりました。ペアルックが素敵なお二人ですね。


それよりなによりあなたの瞳から、さきほどから銀の光が差して眩しいので、よかったらちょっと目をどけてもいいですか?

ええ、すぐ終わりますよ。






評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ