蛇14 奴ら再び
(…まさかな。嘘であってほしいが…)
だがしかし嘘というわけにはいかない。既に気配感知しているし後ろに何かがいるのも感じている。
それでもやっぱり嘘であってほしい。
しかたがなく体をゆっくりと後ろへ向ける。
(やっぱりお前か…。)
案の定そこにはリスがいた、とりあえず威嚇。すぐさま逃げる。ここまでは同じだが…
(囲まれていないな。あいつ一匹か? はぐれもの?)
周りを囲まれてはいない。見回してみても確認はできない。が、遠見を使ってみたら発見した。以前よりは数は圧倒的に少ないが進化した奴らが多い。
(このまま鑑定できればなぁ。)
リスたちは木の向こう側にいる。そこを遠見で見ているのだが鑑定は発動できなかった。おそらく視界に入らないとできないのだと思う。
前回リスはかなり学習能力がないバカだったにので今回も戦うとしたら余裕なんだろうが面倒くさい。できればこのまま何もせずに立ち去りたいというのが本音だ。
(逃げてみますか。)
後ろを向いて反対側へ移動し始める。少し移動して後ろをチラ見する。
(まぁ追ってきますよね。)
一気に来るのではなく自分が進んだら動き、止まったら止まるというだるまさんが転んだみたいになっている。がこいつらとは遊びたくはないな。
それから何回か繰り返したが何回やっても襲ってこない。が自分が近づくと止まったままでその場から動かない。逃げてほしかったんだが。
(このままじゃらちが明かない気がする、戦うしかないのか~。)
実際嫌だ.全力ダッシュすれば逃げられるだろうがここは森の中だ。移動は木の上を伝ってくるあいつらの方が早いだろう。
仕方無く諦めて決心する。方向転換してリスのいる方へ向かう。見た感じ行動を起こそうとするそぶりは見せていない。自分が気づいていないだけかもしれないけど。遠見を使わずに視界に入る距離まで来た頃に一旦立ち止まる。
(ここで一旦様子を見ようかな。っと思ったがあまりできなさそうだな。)
リスたちが少しずつだがバラけ始めた。そして分かりにくいが自分を囲むように移動している。一気に移動するとまずいと思っているのだろうか。
(そうだとしたらすでに気づいているんだけどな。)
気づいていても手が出せなく、相手の準備が終わるまで待つしかないこの状況。もどかしい。さっさと終わらせたいんだけどな。
はい。相手の準備が整いました。やっぱり前より数は少ない。五十匹ぐらいかな。遠見で確認した通り真価しか奴らがほとんどだ。量より質、といったところか。
意外にも木の上にいる数が少ない。てっきり同じように上から急襲してくるんじゃないかと思っていたが違った。木の上にいたとしても低い枝ばかりにいる。意図が分からない。
「「「「「キュキュ、キューキューキュ~。」」」」」
何かいきなり全員で鳴き始めたぞ。コミュニケーションでもして連携しようとでも?
「「「「「キュア~~~キュ!!!!」」」」」
そんなことなかった。まず手前にいた奴らが突っ込んでくる。
と見せかけて自分を中心にぐるぐる回り始める。なかなかの速さで目で追うのは難しそうだ。そして他のリスも少しずつだが近づいて来ている。
(回っている奴らは目くらましか陽動かそんな感じだな。っとぉ?!)
何かが来るのを感知したので一歩引く。すると目の前の草がスパッと切れた。見にくかったがどうやら風の刃のようなものが飛んできたらしい。リスが噛んでくるよりかは痛そうだ。
しかしどいつが撃ってきたかは分からない。そいつはできれば早く仕留めたいんだけどな。
「「「キューキュ、キュキュキュ!!」」」
(また鳴いた。今度は何だろうな。)
少し身構えて待っていると回っていた奴らが自分めがけて突っ込んできた。まあ避けるのは簡単なのでそれほど怖くはない。
リスの方角へ土槍を放つ。しかし当たったのは四匹、その他はステップなりして避けられた。
すると突然後ろからぶっ飛ばされた。
(ッ?! あんまり痛くはないけどビビったわ。)
見ると自分をぶっ飛ばしたリスはすぐさま離れている。まだ自分は何もしていないのにかなり警戒している様に見える。
(本能か、気配か、それとも見られていたか。自分の方が弱いと分かっている?)
そうでなければ既に数で攻めてきているはずだ。そして自分はもう終わっていたかもしれない。まだ自分が上で助かっている感じだ。
けれどこのままでは前と同じで時間だけが過ぎていく。リスたちは今自分から離れて距離を取っている。ヒットアンドアウェイで来るつもりか?
(面倒だな。)
とりあえず毒霧を吐いてみる。がすぐさまその場から離れていく。そのまま動かない奴はさすがにいない。すると一部が不自然に動いて散開した。どうやら風を飛ばしてきたようだ。
自分はこれで風を売ってきている奴の大体の方角が分かったのでそちらに行こうとするがそうはさせないとするようにリスが突っ込んでくる。
(邪魔だ!!)
口を大きく開け突っ込んでいく。さすがに避けられるが追撃で毒液を飛ばす。リスに当たり、そいつはもがいている。さらに追撃を加えようとするが次の奴らが突撃してきている。
仕方が無くそいつらを対処しようとするが風が飛んできたので後ろへ下がり避ける、が違う奴に突き飛ばされる。
体勢を立て直そうとするが次々とリスが群がってくる。
(くそっ!)
ガリガリ噛んできてうざいので土魔法をぶっ放す。下から土槍で何匹かを串刺す。まだ生きているのもいるが無視する。
離れようとしている仕留めそこなったやつの一匹を締め上げて牙を刺し毒を入れる。ものの数秒で動きが止まる。
(鋭鱗Lv1が鋭鱗Lv2になりました。)
どこにレベルアップする要素があったのかは置いておく。今はこいつらを打ちのめすことに集中する。
全速で走れば追いつくのは簡単だが一匹一匹するのは面倒くさいので一気に倒したい、がこいつらがそうは簡単にさせてはくれない。場所が離れているし何よりさっきのことでより警戒心が上がっている。
「「「「「キュア、キュアキュキュ!!!」」」」」
今度は一気に来た。というかこの数…
(ほぼ全員かよ!! 数が多いわ!!)
その場から移動しながら土魔法を放つ。何匹かは土槍で刺すが今度は穴をあける。一メートル四方といったところか。時間がないので牛の時のような大きいものは作れない。
何匹かはその中に入ったので上から毒液を浴びせる。
(あああぁくそ離れろ!!!)
その間に他のリスに群がられた。相変わらず進化しても自分をかみ砕くような力は無いらしい。そこはありがたいんだけど動きにくい離れろや!
(でかくなっているから数は少ないけど一匹一匹がしつこいんだよ!)
なんか色々もみくちゃになってわけ分かんなくなってくるけどとりあえず締め付けている一匹を仕留める。そして放置。次に行きたいところだが動きにくいったらない。
(どっかいけやこの野郎ども!!)
[麻痺耐性Lv5が麻痺耐性Lv6になりました。]
[操鱗Lv1が操鱗Lv2になりました。]
「「キュキュキュ?!」」
「「「キュ~」」」
(痛ッ?!)
声が聞こえた瞬間鋭い痛みを感じたので後ろを見てみると尻尾が切れていた。どこに行ったかはリスが群がっていたのですぐわかった。
そこに毒液を吐く。群がっていた奴らは苦しみもがきだす。
(他の奴らは何で離れた?)
さっきのやり取りの間にまた襲い掛かってきてもおかしくはないのに来ない。というよりもより警戒している。なぜだろうか。
(さっき鱗がどうとか言ってたな。そういえば新しいスキルがあったか、今なら試せるか。)
あいつらが離れている間にスキルを使ってみる。
(……何か変わったか? いや、若干動くな。音鱗はどうだ?)
ザザザザザザザザザザザザザザザザ
[威嚇Lv5が威嚇Lv6になりました。]
音鱗を使ってみると者がこすれるような音が鳴り、リスがまた離れた。近づいてこないと自分もどうしようもないのだが…。
(…仕方が無いか。)
こっちに来ないのでこちらから攻めるとする。
まずは土槍で近くにいる奴らを一掃。次に鱗を飛ばして牽制する。鱗を操れるというなら飛ばせるのではないかと思ってやってみたが意外にも出来た。出来なかったらそのまま突っ込んだんだが良しとしよう。
鱗に当たったリスは鱗が刺さったままで普通に動いている。あまり威力はないらしい。
他のリスも動き始めたが近寄っては来ず、逆にビビり気味になっている。おそらくさっき離れたのは無意識に自分が操鱗を発動させ、リスに鱗を刺したのではないかなと思う。でなければ近づいて来ているはずだから。
ダッシュで近づき、巻き付き一匹を締め上げ毒で殺す。他が近づいて来たら鱗を飛ばすか尻尾ではたく。そしてたまに毒霧や土槍を放つ。それの繰り返し。リスも残り半分を切った。
[飛鱗Lv1を手に入れました。]
ヒュッ!!
その場からすぐさま離れる。風魔法を飛ばしてくる奴はいまだに木の上にとどまっている。攻撃したいが遠いし近づこうとすれば他の奴らが邪魔だ。いい加減にしてほしい。
けれど今は我慢だ。数を減らせばすぐに倒せる。焦っていても意味はない。
「「「キュ?!」」」
突然リスたちが動きを止めて同じ方向を見た。
(何だ? 気配が大きくなっている?)
その方向はさっきから風魔法を飛ばしてきている奴がいる方向だが気配感知で何かの気配が大きくなっていっている。遠見を使って見てみると一匹だけ明らかに違うのがいた。
そいつの周りはリスの死体が多くあった。
(味方殺したのか?)
距離はギリギリだと思うが鑑定を発動させる。
ウィルドラル・レイラット Lv1
称号 「魔物」「風魔栗鼠」「群れを統べる者」
(称号まで鑑定出来たし。いやそこじゃなくてあいつ進化した?)
色は薄い茶色から黄緑っぽくなり尻尾は一本になっている。おそらくは味方を殺してレベルが上がり、進化したのだと思われる。そして風魔栗鼠からおそらく風に特化したんだろう。
(今のうちに!)
土槍でウド気を止めている奴らを倒す。これで残りは進化した奴を合わせて六体。あいつ次第だが余裕が出てきた。
ヒュヒュヒュ!
ヒュヒュゥゥゥゥゥゥゥァァァァァ!!!
「ギュア!!」
「キュキュュ…。」
「キュ?!」
(は?)
風魔法と飛ばしてきたので後ろに下がる。しかしその風はほとんどが残りのリスに当たった、そして無残にも死んだ。
「ウゥゥゥゥゥキュュュュュ…。キュアウ!!」
そいつは死体を喰らい始めた。周りのことなど気にしてはおらず、ただ自分の欲求を満たそうとしているかのようだ。そこにいるのはただの飢えた獣だ。
(何かおかしいな。進化した影響か?)
残ったリスは三匹、しかし動かない。動けないといったほうが正しいのか。全身震えている。
(終わらせるか。)
近づきまず一匹を牙で仕留める。次は尻尾でたたきつける。その間もこいつらは動かなかった。
「キュキュア? ………キュアウ!!」
(来るか!)
残りを仕留めて進化した奴のほうを振り向いたところで奴は動きだした。こちらにまっすぐ突撃してくる……ん?!
(何だあれ?!)
リスの周りに何か薄い膜のようなものが見えたのでカウンターしようととするのをやめて横へ避ける。
シュ!!
バチッ!!
(いってっ!! 若干当たった!)
静電気が走ったような鋭い痛み。少しだけ斬られているがあまり問題はない。
(ただの膜じゃないな。だとしたら何だ? 風か? ……ちょっと確認するか。)
リスがこっちに振り向こうとするところに毒霧を吐く。が風が流れているかのようにリスから離れていく。
(風を纏っているんだな。)
風を纏うことで近づく相手を切り裂け、また煙や霧などを防ぐことが出来る。なかなか厄介だ。
「キュア!!」
霧が離れたら風魔法を放ってきたが結構見慣れてきたのでリスに突っ込みながら躱す。それでもリスは放ち続けるのをやめない。
近づきにくくなったが避けることはできる。段々避けゲーになってきたな。
牽制で相手に向かっていくように土槍を放つ。土槍は風に負けることなく突き進んでいく。
「キュ!」
リスは横へ跳躍して避けるとそのままこちらへ突っ込んできた。がさっきの風連発で疲れたのか風を纏ってはいない。それどころかスピードもさっきより遅い。
バァン!
[打Lv9が打Lv10になりました。]
[打Lv10が衝打Lv1になりました。]
「ギュゥ…。」
正面から全力で叩いたつもりだったんだがさすがに即死とまではいかなかった。何かするのも馬鹿馬鹿しいので噛み殺そうと近づく。
「キュアア!」
[魔法耐性・風Lv1を手に入れました。]
噛みつこうとした瞬間最後の最後で風魔法を放たれた。真正面から受けてしまったが切られはせず、ただ衝撃が来て後ろに少し飛ばされた。
(おうぅ。油断した。)
だがリスを見てみるとすでに動かなくなっていた。