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空想学園シリーズ

ファンタジックプロローグ

作者: 文房 群




「うぃーす。お久しぶりっす」


「古河ぁぁぁぁぁああ! 『久し振り』じゃねえんだよこのサボリ魔がぁぁぁぁぁぁぁ!」


「部長、落ち着いてください。また目が血走ってますよ」


「あ、どうも仁坂先輩。お久しぶりです」


「おう久し振り。じゃあまず言い訳を聞こうか?」


「腹にテロリストが立てこもったんで暗殺してました!」


「よっしゃあお前の腹に風穴開けたら万事解決だな。動くなよ古河」


「部長、拳を仕舞ってください」


「……あれ? というか(ほり)は?」


「珍しくまだ来てないぞ」


「お前と違ってなあ!」


「部長。いい加減落ち着かないとマネージャーに言って一発殴ってもらいますよ」

「うぐっ……それは……」


「あー……確かうちのマネージャーって、空手有段者なんだっけ? 可愛い顔して」


「で、部長の幼馴染み」


「マジかよ初耳!」


「あの女ホントトラウマ……で。そろそろ部活だけど、いないのは堀だけか?」


「らしいっすね」


「そうみたいですね。本当に珍しい……」


「あの部活バカなぁ……」


「体調でも崩したんすかねぇ……」



       〇



 朝。

 目が覚めたら、姉が裸で俺の上に跨がっていた。


 何がどうなっているのか、全然分からなかった。

 寝ぼけ頭で状況が理解できなかった俺はしばらく、まじまじと姉の裸を眺めてから、ぼそっと呟く。



「……何してんの、姉さん」


「……すみません(ひじり)さん。実は折り入って頼みがあって……」




 朝っぱらから姉の裸体を目にする、俺、高校二年生思春期。

 いくら姉弟であっても、そこそこに良いスタイルをしている女が自分の上に跨がっていたら……言いにくいが、変な気を起こしてしまうのだが。

 幸いにも、俺の本能もまだ寝ぼけているようで。


 内心性欲が刺激されなくて良かったと安堵しながら、というかまず服を着ようぜ、と。目のやり場に困っている俺が視線をあちこちに泳がせていると、折り入って頼みがあると急に話を切り出した姉は、少し躊躇った後に意を決して。




「聖さん、私の……私の子どもを生んでください!」




 めまいがした。

 うっかり目に入ってしまった、揺れる二つの形の綺麗な乳房と、姉の発言に。


 反応に悩んだ俺は、『俺の姉はこんな意味の分からないことを言うようなヤツだったっけ……?』や『男は子どもを生めないぞ』と少しとぼけたことを考えながら、どうも渇く口を動かし、




「……とりあえず、今すぐ俺から降りて、服着てくんね?」




 何にせよ、今この状況は非常に目に毒なので、一刻も早くどうにかするべきだと判断した。


 「あっ、すいません」などと申しわけなさそうに謝りながら俺から降りる姉だが、既に俺は不可抗力でも女性の裸を見てしまったことに対する罪悪感に、駆られていたりするわけであった。


 ……とりあえず。

 とりあえずはまず、服を着て話し合おう、姉さん。



       〇



 素っ裸だった姉は、バスローブを纏ってリビングに現れた。


 なぜ、もう少しマトモな服を着てこなかったのか。

 というかそもそも服を着る気がないだろう、と。呆れと困惑が混じった眼差しを、なんだか全裸よりエロい雰囲気のある姉に向けていると、姉はじとりとした目で俺を見つめ返す。




「……聖さんの、スケベ」


「お前に言われたくねぇよ!」



 だんっ、とテーブルを叩いて反論した。


 その言葉、そのままスパイクで打ち返す。

 全裸で弟の上に跨がっていた変態に言われたくない……!



 ……まあ、こんな他愛ないやり取りは良いとして。

 落ち着いて話をする材料として用意していたココアを、姉の前に置く。

 すると、みるみるうちに表情を綻ばせた姉は、嬉しそうにマグカップに手を伸ばした。


 猫舌な彼女は、丹念にココアに『ふーっ』と吐息を吹きかけてから、ゆっくりマグカップに口をつけるのだ。

 年上とは思えない子どものような挙動に、昔の姉の姿を思い起こす俺は、改めて今朝姉がとった不可解な行動に疑念を抱いた。


 見る限り、姉の精神に異常がある様子はない。

 いつも通りの、いろんなところが抜けた姉だ。



 ――じゃあ何で、今朝のような行動にでたんだろうか?



 天然、というより無垢な子どもがそのまま大きくなったかのような性格である、俺の姉。

 人を疑うことを知らず、身も蓋もない噂話や考えれば矛盾したホラ話でさえ真に受ける、情報社会のこのご時世で生きていくには頭が足りてない、大学生。

 どんくさいくせに、一度スイッチが入ったら別人のように変貌し、きびきびと人を仕切る、普段と真面目モードの差が激しい、三つ年上の女。


 親父が犯した間違いによって産まれた俺とは違い、誰からも望まれてこの世に産まれた――腹違いの、俺の姉。



 堀聖納(せいな)

 真っ直ぐに日の光を浴びて育った、箱入り娘。


 俺には与えられなかった親の愛を、十二分に与えられた――腹違いの、姉。

 家族の中で唯一、真っ直ぐな家族愛を俺にくれた、母親と言っても過言ではない清廉潔白な彼女が、どうしてあのような奇妙な行動をしたのだろうか。



 朝から平均より下回る知識量を収納した頭を使わなければならない俺の気も知らず、ほっこりほくほくと、呑気に目の前でホットココアを堪能している姉さん。

 鼻唄など歌い上機嫌である彼女に、俺はコーヒー牛乳を片手に本題を切り出した。




「それで、姉さん聞かせてくれ」


「ふわ?」




 いや、『ふわ?』じゃなくて。

 なにも知らない、みたいな顔は良いから。




「何で服を脱いで、俺の上に乗ってた? 何で」




 おかげでじっくり、小学校低学年の時以来見ることのなかった姉の身体を、隅から隅まで堪能――いやいや。

 見るはめになったではないか。

 …………正直言って、眼福、ではあったが。


 おかげで俺の心臓は今、罪悪感やら緊張やら同じ部活の大仏ホクロが見せてきたエロ本を見てしまった時のような、もやもやとした気持ちで忙しく動いているではないか。



 一体どうしてこんな、思春期の男子高校生を悩殺させるような事をしてきたのか。

 納得のいく説明をしてもらおうじゃないか、と。バツの悪そうな顔をする姉に、俺は視線で訴える。


 数秒間。目を逸らす姉と睨みつける俺の、無音の攻防戦が展開される。

 やがて根負けしたらしい姉は、仕方ないと分かり易く顔で知らせながら、しぶしぶことの経緯を語り始めた。




「……実は、これには深いワケがありまして……」


「へぇ……」




 深いワケ。へえ……。

 運動神経に摂取したエネルギーが全て行く俺と同じか、それ以上に日常生活での頭が悪いあの姉が、『深いワケ』という言葉を使うか……。



 テストの点数は優秀。

 だが、蓄えた知識を日頃の生活に活用することに関して、『才能がない』と祖母に遠い目で形容されるほどできない、頭のネジが数本緩んだ姉。


 そんな姉が言う『深いワケ』とは何か?

 これまでの経験からすると、どうせ姉の純粋で天然なところを利用し、からかった友人によるイタズラだろう――と。


 そんな予想を立てて次の言葉を待つ俺は、好物であるコーヒー牛乳をぐいっと煽って、




「――王国を存続させるために、早く次の世継ぎを決めないといけないのです」


「っぐう゛ぶ……!?」




 聞こえてきた予想外れの返答に、好物を喉に詰まらせた。



 運良く喉に詰まったのは飲料だったため、すぐに食道の奥にコーヒー牛乳は流れていったが、ぜほぜほと噎せる俺は心配そうな姉の視線を受けるこてになった。

 苦しい呼吸を整えてから、復唱する。




「何、だって……? 王国の世継ぎ……?」




 何の、と俺が呆然としながら疑問を口にするより早く、姉さんは言った。




「クルスタラ王国の世継ぎです」


「……はぁ……」




 ――どこの国だ、そこ。

 少なくとも俺が知る世界地図の中にそんな国はなかったはずだ、とどうも嫌な予感がしてきた姉の話を話を、半信半疑で聞いていると、姉はテーブルから身を乗り出した。


 胸の谷間に目がいった自分が、少し嫌いになった。




「今の王国には跡継ぎがいません! このままでは次の王座につく者がいないので、国が崩壊してしまうのです!

 だから唯一王族の血を引く私が、子を成さないと……!


「姉さん……とりあえず落ち着いて座れ」




 聞くからにどうも、中学二年生あたりのヤツが考えたような痛々しい妄想を、次から次へと言葉にして並べていく、興奮した姉を宥めた俺は思った。



 ――誰だ。純粋無垢な姉にこんな中二病ワールドを教えたヤツは。





 れっきとした日本人平民出身なのに、王族だ跡継ぎだとどこのヨーロッパ諸国の歴史だよ、と言いたくなるような単語を用い騒ぐ姉に、俺は頭の痛くなるような錯覚を覚えた。



 どうしてそんな現実的に有り得ないような話を、鵜呑みにしているのか。


 つくづく姉の思考回路が不思議で仕方がない。




「……で? 世継ぎを産むために、俺を襲おうとしたと?」


「……身近な男性が聖さんしかいなかったので……」




 気を取り直して質問してみると、素直に答えを言うつもりであるらしい姉は、悔しそうに目を伏せた。

 いつの間にか随分水かさの低くなったホットココアに、口をつける彼女。


 なんでそんなに残念そうなんだよ、と。無念と言わんばかりに表情を曇らせる姉に、俺はツッコミを入れたくなったが、ここはぐっと堪えて一般的な対応をすることにする。


 ……さて。

 どこで聞いたか分からない中二病ワールドを、スポンジのように吸収してしまった姉よ。




「まず、俺達姉弟だから、結婚できないだろ」




 まずは一般常識を、思い出してみようか。

 ぱちくりと、両目をまだはたかせる姉に。


 いくら腹違いで血の繋がりは普通の姉弟より薄くても、キョーダイ同士の結婚は法律でダメだったはずである。

 なんでも遺伝子の問題だとか、いつか政治経済の教師が解説していた気がするが、断言はできない。

 授業を半分以上を寝て過ごしている俺が、授業中に教師が語ったことなど、覚えているわけもないからだ。



 というか、法律以前にそもそも、キョーダイでそんな関係になるのは人道的にどうなんだ。

 いろいろと、人間的に間違っているんじゃないだろうか。




「そういえば、キョーダイは結婚できないんでしたよね……」




 うっかりしてました、と口走った姉に『おい優等生とツッコミたくなった俺は、続けて語る。


 それに――姉さん。

 百歩譲って、今姉さんが話したことが全部、事実だったとしても。




「世継ぎがいないなら、養子でも迎えれば良いじゃねえか」


「え……」



「だから、養子。跡継ぎとして優秀なヤツをどっかから連れてくれば良いだろ?」




 世継ぎがいないなら、余所から有能な子をもらえばいい。


 過去に世界中のいたる所で、様々な国の貴族達やっていたような気がする、と。

 これもまた曖昧な世界史の知識を掘り起こしながら意見すると、姉は少し黙り込んだあとに、はっと息を飲んだ。


 言われてから、養子という手段があったことに気がついたのだらしい。

 本当に、通知表オール5の頭脳はテスト以外にどこで使っているのか、この姉は……。




「で、でも……今、王座につくのは、誰が……」


「はあ?」




 ごもごもと尻すぼみに言葉を発しながら、もじもじとマグカップを持つ指を絡ませたりして弄くる姉。

 何か言いたいことでもあるのかと、もう少し大きな声で話すようにと要求すると、彼女は今現在空いた王座につく人間が必要なのだと告げた。


 ……何だ。その、部活の友達がよく連んでいる中二病重症患者が考えたような、ありふれた設定。



 一応代理を立てるべきか――そんなことを真面目な顔して訊いてきた姉に、『本当に頭が良いのかこの姉は』と俺はため息を吐いた。

 そんなことは、一番簡単な問題だろ。




「姉さんが王座につけば良いだろ」


「…………えっ」


「だから姉さんが王座につけば良いんだって」




 難しそうで全くそうでなかった話を聞く限り、王座とやらにつけるのは、王族の血を引くものじゃないといけないとか――そういう設定なのだらしい。


 なら、血を引く者なら誰でも王様になれる――ということだろう?

 自称王族の血を引く姉しか血を引く者がいないのなら、姉が王座につけばいい。

 深く考えることも、悩むこともない。簡単な話じゃないか。




「で、でも……女の私が王だなんて……!」


「日本でも昔女性の天皇がいただろ。良いじゃねえか、姉さんが王様になったって」




 日本史はうろ覚えだが、確か女性の天皇がいたはずである。これも記憶がハッキリしないので、多分だが。


 曖昧すぎる知識を元に姉が王サマになるように説けば、『そんな考えは思いつきもしなかった』というようにしみじみと頷く彼女。

 いつになったらバスローブからまともな服に着替えるのか分からない姉は、次には不安そうな顔を見せ、そろそろ時間が気になり始めた俺におずおずと、こんなことを問うてきた。




「あの……聖さん。

 もし私が王座についたら……その時は、私の傍にいてくれますか?」


「……は?」


「不安……なんです。ちゃんと国民を引っ張っていけるか、国を治められるか……不安で……でも、聖さんが傍にいてくれたら、私、大丈夫な気がするんです」




 王国だとか、世継ぎだとか。

 ファンタジー物の映画やテレビの見過ぎだとしか言えない発言をした姉の言葉は、所詮妄想や遅れた中二病からきたものだと思っていた。



 ――でも、この時。



 膝の上で手を握り、普段ほわほわとした笑顔を浮かべていた顔を神妙にし、真剣に口を開く姉に。 俺は一瞬呆気にとられ――もしかしたら、本当のことを姉は語っているんじゃないか、と考えてしまった。


 あまりに――真面目すぎたから。


 この時の姉の顔が、一生懸命、何かに取り組んでいる時の顔だったから。



 ――俺は、姉が少し苦手だ。


 誰からも望まれず、仕方なく産まれてきた俺とは違い、望まれて産まれてきた姉。

 両親からの愛を存分に受けて育った姉が羨ましくて、酷く憎らしくて。


 なのに、誰よりも俺を大切にしてくれて、両親の代わりを担うように、たくさんの愛情を注いでくれる姉が――誇らしくて、大好きで。



 ひがみながらも、蔑ろにできなくて。

 苛立ちながらも、嫌いになれなくて。


 いつまでもガキな俺は意地を張ってばっかだけど、いつもにこにこ笑ってて、親よりずっと傍にいてくれた姉さんのことが――




「……はぁー……」


「……聖さん」


「……仕方ないからよ」


「?」


「……どうしてもって言うなら、いてやっても良いけど?」




 ――好きなんだよなぁ。



 損得勘定抜きで、無条件に味方してやるぐらいに。

 こんな姉を好きだと言うヤツが出て来たら、親より厳しく審査して、一発殴ってから結婚を許可するぐらいには。




「聖さん……!」




 ひねくれた俺の言葉を受け取るや、心の底から嬉しそうに笑顔を咲かせる、どんくさい姉。

 昔から見ているだけで安心する、俺の好きな表情になった彼女を横目に見ながら、コーヒー牛乳のおかわりを注ぐためテーブルを立った俺は、不意に壁時計に目をやって――さっ、と青ざめた。


 時間が、思ったよりも進んでいたのだ。




「げっ……」



 いつもの、俺の好きな姉の顔を見れたのは良いが、現在時刻はそう悠長にしていても良い時間じゃない。

 知らないうちにもうすぐ、部活の朝練が始まる時間になっていたのだ。




「やべぇ遅刻する!」




 ――姉がどうして中二病のようなことを語り出したのか。

 肝心なことを聞き忘れた俺だが、それより部活に参加するのが何よりも優先であるため、急いで部屋に戻って身支度をする。


 あたふたとパジャマを脱ぎ捨てれば、空腹を訴える腹。

 思えば朝、コーヒー牛乳しか口にしていないが腹、しかし今の俺にのんびりと朝食を取っている時間などなかった。



(遅刻したら、部長に怒られる……!)



 典型的な熱血系で、優しい部活の先輩。

 表裏なく接しやすい好きな先輩であるが、短気ですぐに手が出るのがこの先輩の欠点だった。


 同じ部活でサボり魔の友人がしょっちゅう部長の手にかかり、地面に沈んでいる場面を目撃している俺は、怒った部長の恐ろしさをよく知っている。


 できれば、あんな鉄拳制裁を食らいたくない。

 いや、絶対食らいたくない……!


 だから俺は必死に、朝練に参加するための支度を整えるのだ。



 急いで制服に着替え、部屋を出た。

 鞄は前日のうちに、玄関に置いている。

 あとは靴を履いて玄関を出るだけだと、家を飛び出すまでのプロセスを頭の中で再生していた。


 そんな俺は、玄関に向かうためには通過しないといけないリビングに、足を踏み入れたところで、




「では、早速行きましょう!」


「はあ!?」



 姉に、捕獲された。


 がっしりと姉に捕まえられた俺は、なんだか柔らかいものが腕に当たっている感覚を得ながら、姉を見る。


 まだバスローブから着替えてなかったらしい姉の、胸の谷間が、視界に飛び込んできた。

 いたたまれなくて目を逸らす。


 とてもキレイなおっぱいで――いやいや消えろ俺の煩悩!




「いや、俺朝練があるんだけど……」


「『思い立ったが吉日』と言います! 早速行きましょう!」


「どこに?」




 やたらと目を輝かせて俺を見上げる、女学生。


 部長が怖いんで頼むから朝練に行かせてください。あと離してください――そんな思いを込めた眼差しで、焦りに胸を焼かれながら、じりじりと玄関に足を伸ばしていると、登校しようとする俺の邪魔をしてきたこの姉は、どこからか真っ青なビー玉を取り出し、



 細い人差し指と親指で摘んだそれを、俺の目の前で砕いてみせた。




「えっ」




 パキンッ――なんて。


 ガラスでできているはずのビー玉が、割れた。

 というか粉と化すところを目の前で見せられた俺は、自分が知り得る常識から少し外れた光景に、目を丸くし。



 姉は、にこりと微笑んだ。




「聖さん行きましょう――クルスタラ王国へ!」




 は、と疑念の声を思わず上げるよりも早く――それは急速に。



 突如、脳天を貫くような耳鳴りが俺を襲った。


 きぃぃんっ、と煩く鋭く頭の中で鳴り響く耳鳴りに、目の前が歪む。

 同時、ぐらりと足元が崩壊したかのように崩れ、平衡感覚は無くなり、膝から崩れ落ちた。



 落ちる、と。

 体全身に襲いかかった無重力の感覚に、恐怖から目を固く瞑った俺が、次に目を開いた時――




「ようこそ、聖さん。

 私の生まれ故郷、クルスタラ王国へ!」




 天真爛漫に笑うバスローブ姿の姉と、目を疑うような幻想的な景色が、唖然と開いたこの目に飛び込んできた。



 何もかもが理解できる範疇を超えていて、何も考えられなくなった。


 眼前にそびえ立つ、豪華絢爛な城。

 驚愕の表情で俺と姉を遠くから凝視してくる、甲冑に身を包んだ兵士。


 味わったことのない不思議な味のする空気を、吸って吐いて『ああ不思議だ』と漠然と思う俺は、粛然とした姉の背中を見詰め。



 ――朝練に遅刻したから、部長に殴られるな。



 ただこれだけ確信し、軽く絶望した。





<了>



○あとがき○




またまたやってしまいました、突破衝動企画第七弾。

今回は『腹違いのキョーダイ』というものを書かせていただきました。


腹違いのキョーダイ……なんだかドキドキする言葉だと思いませんか?

……あっ。そうですか文群だけですか……しょんぼり。



今回は本当に締め切りギリギリで書き始めまして、いろいろツメが甘い作品となってしまいました。

文群は企画の締め切り一週間前になってから『そろそろ書き始めるか。えっとー……』という感じで、毎回書き始めるのですが、今回はうっかり風邪引いて寝込んでしまいまして……。


締め切り二日前に書き始めるという、前代未聞の暴挙に出ました。


スケジュールキツキツです。だから長編が七月以降更新できてません。ぐぬぬ……。

眠たい目を頑張って開けて書いたので、どうも設定がこれまでの短編で一番甘い気がします。

もう少し色んな要素を詰め込みたかったのですが、なかなか上手くいきませんね……。



相変わらずの上達しない文章力で、今回も送らせていただきました。


全く続きを考えていない、『空想学園』シリーズ。


今回はフリーの殺し屋古河と同じバスケ部である堀が、腹違いのお姉ちゃんのせいで異世界にトリップする。

そんな話を書きました。


タイトルでプロローグとか言ってますけど、本当に続きとか考えてませんから。

だってこれ、『突発衝動企画』なので。

衝動的に突発的な短編を書く企画ですので!


そんな言い訳をそえて、あとがきを締めくくらせていただこうと思います。



最後に。企画主催者の片割れである雪野様。今回の企画に参加してくださった時音様。この短編を執筆するにあたっていろんな邪魔をしてくれた文群の弟。文群を苦しめてくれた風邪菌。なんだか物足りない感じのする短編を閲覧してくださった皆様へ、心からの感謝を!


ありがとうございました!





<完>

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