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殺しの美学  作者: てぃけ
3/5

名護の美学

※割り込み投稿です。これによって名護の美学と須藤の美学の繋がりがおかしくなるので、須藤の美学の最初の方を少し修正しておきます。殆ど内容に影響はないので、既に須藤の美学を読んでいる方は改めて読む必要は無いかと思います。

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「あっ、別家べちやさん。ここ電波が悪いようで電話とかネットとか使えないみたいですよ」

風子ふうこちゃんが言った。

「本当ねぇ」

別家さんは深々と声を出した。

「私もここ来る時に時間が気になって森で携帯見た時には圏外でしたね」

さえさんが指摘する。

「時間を見るときは腕時計を使ってるから気が付かなかったな」

須藤すとうさんが横から口を出した。

「俺もだ」

羅実らじつさんが同意する。

「まあでも問題ないでしょう。私から話し始めて良いですか?」

別家さんが見回すと、みんなうなずく。

「私はやっぱり、殺しっていうのはバレないようにやるべきだと思うわね。普通だけど。」

別家さんが話し始める。




 それで、そのためにも殺人があったってことも分からないようにするのが良いと思うわ。殺人があったと判明すれば捜査の端緒になるわけだから。特に自分がいる環境の周りにいる人間を殺す場合は、捜査が始まると色々と怪しい点を疑われる可能性があるから、これは重要になってくるわね。殺人を犯したのが自分だとバレないようにするだけなら、自分とは全然接点のない人間を人気のないところで殺すのがいいかもしれない。でも私は、殺人があったことはバレてもその犯人が自分だとバレないようにするのではなく、そもそも殺人があったとバレないようにするのが美しいと思うのよ。だから、自分とは全然接点のない人間を人気のないところで殺すのもいいけど、その場合にもその辺の道で刺して死体はそのままとかではなくて、何か工夫をすることが必要ね。

 どうせなら本人にも気付かれないようにするのがいいと思うわ。殺しがあったと気づかずに死んでいくの。勿論他の人も気づかない。世界はその人が事故や病気で死んだと思う。でもただ一人自分だけが、彼女が殺されたと知ってる、しかも殺したのは自分自身。美しいと思わない?

 本人にも他の人にも殺人があったと気づかせない殺し方ってどんなものがあるかしら? 事故に見せかける、病死に見せかける、自殺に見せかける…‥他にあるかしら。さっきも言った通り自分が殺したのに他の人が殺したと見せかけるのでは、違うのよね。殺人があったと知られてはいけない。そして、本人にも気付かれないようにしないといけないから、絞られてしまうわね。

 自殺に見せかける場合は、殺しを実行した行為があったと本人に気付かれず、病気で殺したり事故を引き起こさせて殺したりしたのを、他の人が見た時には自殺したと思わせるものであるべきであって、最初から自殺するように仕向けるようなのは、私の思ってるものとは違うからこの辺は注意が必要ね。あくまで殺しを実行して、それがばれないことが必要だと思うわ。

 それと事故の場合も、本人の背中を押して他の車を運転している人に轢かせるようなものではなくて、本人が足を滑らせて崖から落ちるようなものがいいわね。他者の、それも過失によるものでも、殺人があったとは言えるわけだからね。でもさっきの例で、車を運転している人が殺人の責任を問われないようなものなら良いかしら。例えば、車じゃないけど電車が走っているところに、死を避けようのないタイミングで本人が飛び込むような場合ね。でも、うーん、ここは難しいところね。

 殺人があったのにバレないっていうのは普通にこの国で起こってても不思議じゃないのよね。我が国では15万人が病院外で「変死」するけど、一部地域を除けば、解剖して死因を特定しようとされるのはわずか4%程で、極めて簡単に心不全とかの病死にされることが多いのよ。それにせっかく解剖まで行っても、検査費用などの関係で、薬物検査を十分に行うことができないから、例えばトリカブトや青酸カリで毒殺されていても、不審な死が相次いでいるなど怪しいところがなければ事件は発覚されず、チェック自体されない可能性が非常に大きいの。

 私もある人が実際にバレない殺人を犯したんじゃないかって話を風のうわさで聞いたことあるし、その話をするわ。



 彼女は普通のOL。その日は仕事が終わって帰りの電車に乗っているところだった。そして、ある所を目撃した。頭頂部の薄いサラリーマン風の男が電車が揺れる度に自らの体を隣りの女性に当てていたのだ。痴漢とは言いにくい状態だった。ただ、その男がわざと自分の体を女性に当てて愉悦の感情を密かに胸に抱いている、彼女の目にはそのように確かに映った。彼女は侮蔑と不快の感情を抱き、このような人間は社会から排除されるべきではないかと思ったが、特に何か行動を起こすことはできなかった。

 それから彼女は、その男が同じような行為に及んでいるところや、座席で寝ているふりをして隣りの女性に寄り掛かっているように見えるところ等を度々目撃して、敵愾心を燃やしていった。

 そんなある日の休日、またしても彼女は電車に乗っていた。そして例の男が優先席に座る妊婦さんの前に立っているのを目撃した。嫌な予感はしていた。それから電車が止まって妊婦さんが電車を降りようとした時その嫌な予感は的中していたと知った。男は彼女が立って降りようとしているのを見て前を少し空けた。しかし、足を前方の方に残しておいたのである。そして前を通ろうとする妊婦さんの足に誤って自分の足を絡ませたようにみせ、よろける仕草をしては、妊婦さんの体に一瞬しがみついた!

 この男は!! 彼女は激しい怒りの感情を抱かずにはいられなかった。そして自分があのゴミを社会から排除するのだという強い気もちをもった。彼女は男がどの駅で降りてどこへ行くのか追跡した。

 数十分後、彼女は男を追って公園に来ていた。彼女が離れて見ている間に、男は誤って落ちれば死にそうなくらい高い木に登っていた。何をしているのかと彼女が思ったら、男はバッグから双眼鏡を取り出してどこかを見始める。彼女は気づいた、男の見ている方向には学校がある。今日は土曜日で休日だが部活動に励む生徒たちがいるはずだ。今は夏だし、プールで活動する水泳部の方でも見ているのかもしれない。

 数時間後、満足した顔をして男は去っていった。男が去っていった後、彼女は男が登っていた木を確認する。彼女は考えていた通りだと思った。木には何度も登り降りを繰り返したような跡があり、男の登降する様を見るに、男は何度もここに登って先程まで行っていたような覗きを繰り返していたのだ。

 しかしこれは良いことを発見した。彼女はそう思うと道具を買ってきて工作にとりかかった。周りに誰もいないのを確認すると、例の木に登り、男が居座っていた辺りの枝に鋸で切れ込みを入れ、体重をかけると折れるようにした。そして大きめの石を木の周りに置いておいた。男が注意深く木を登れば彼女の行った工作は簡単に見破られる可能性があったが、男は登り慣れているせいかほとんど確認もせずに登っていたから不安は感じなかった。

 次週の土曜日、彼女は例の公園で男が来るのを待っていた。実は、工作を施した翌日も男が来るか待っていたのだが、来なかった。別に見ている必要はないかもしれないし、むしろ、現場にいない方がいいのではないかとも彼女は思ったが、作戦が成功するかどうか確認したかったし、殺人の証拠を残さないよう後処理する必要があるので現場で待って見ていることにした。

 男が来た。男は登り慣れた様子で、やはりほとんど木の状態を確認せずに登っていく。男が木を登っていく間、本当に成功するだろうか、もし失敗したら今度はどのような作戦で男を始末しようかなどと考えを巡らしていた。そしてついにその時が訪れた。

 ――! 枝の折れる声と男の間抜けに叫ぶ音が聞こえた。途中で引っかかって止まったり減速したりして、或いは打ちどころが悪くて失敗してしまう可能性も考えていたがうまく落ちたようだ。野次馬が集まる中見ていたところ、頭から血を流して死んでいた。

 枝に鋸で入れた切れ込みが目立つのではないかと心配していたが、それ程でもなかった。しかし、一応血や邪魔な枝を掃除してる風を装って捨てておいた。名探偵はいないのだ。適当に事故として処理されるだろう。そう考えて、彼女は去っていった。



 以上が彼女が犯した殺人よ。今現在彼女に捜査の手は及んでいないらしいけど、例えば、木や捨てられた枝を調べられれば殺人があった証拠などは見つかるだろうし、彼女に捜査の手が及んでいないのは、殺人があったのは判明したが犯人が誰かは分からないということなのかしらね、それとも殺人があったことすらばれていないのかしらね。殺人があったことすらばれてないのだとすると彼女の犯した殺人は本当に成功したと言えるのだけれどね。

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