表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
鈴木な太郎君は薔薇の都で戦乙女と輪舞曲を踊れるか?  作者: へたれのゆめ
月曜日 目覚ましの音は閻魔の高笑い
9/38

六時限目 構いません、机ごと出しなさい


 今日はこのくらいで。



 この世界に来てから一週間が経った。


 打ち分けは、最初の三日が夢だと思っていた時期。四日目が、現実を受け入れた日で、その日の夕方(ここでは時間が分からないから、起きている時間の後半と言う意味)から今までは、ずっとアルと槍振ってた。


 「ソンデ今日も、打ち身・裂傷・血豆潰しが大量なんダネー」


 声の主はアリアハムだ。彼女は、あの大量貸付の次の日から毎日この部屋に入り浸っているらしい。


 らしい(・・・)とは、昨日まで僕は彼女が部屋に来ている事を知らなかったため、昨日当然の様に自分で門を開いて入って来た彼女に盛大な突込みを入れて、鼻で笑われた為だ。


 ちなみに、その時にさん付を指摘され、今は名前だけで呼んでいる。


 「そう言えば、今日の成果はどうだったんだい?」


 怪我の事に触れられると、何だか自尊心に傷が付きそうだったので、話を少し強引に反らせる。口に入れたお茶が、傷に触れて痛かった。


 「ん~? そダネ~、お初サンが九人で、補給が十六人だったかな~?」


 そう言って、ストローでチュウチュウと熱いお茶を啜るアリアハム。どうやら、何が何でも顔はさらさないらしい。


 彼女は僕以外にも、約百人の新人訓練兵の所を回っているらしく、毎日その客をさばいた後の一服の為にここによるようだ。


 「全体でどれくらいが訓練に乗り出したか分かりますか?」


 とはアルの発言。怪我一つ無く、澄ました顔でお茶を口に運ぶ姿は、憎らしいような頼もしいような、何とも微妙な気分になる光景だった。


 「えとネー、確か昨日寝る前に五百人超えたって聞いたし、もうそろ半分ってトコじゃないかな? ちなみに、制覇したのが七人になったみたい」


 「七人、か」


 「……今回は随分と豊作ですね、戦闘経験者や魔法を元から使えている世界の人たちよりも早いペースなのでは?」


 確か、大体は十日で最初の制覇者が出るって言ってたか。それが三日目には制覇した奴が居たって言うし、どんな学生だよ。


 「ソダネ、稼がせてくれソうだ、よ?」


 ご機嫌にチュウチュウお茶を啜っていたアリアハムが、いきなり片眉をあげてアイテムウインドウを開いた。どうもメールが届いたらしい。


 メールとはアル達の言う通信の事で、アイテムボックス内の機能の一つだ。登録した者同士で文章をやり取りでき、まんまメール機能なのでメールと呼んでいる。


 「ホホー、あの子抜けたんだ。有言実行はかっく良いネー」


 「受け持ちが制覇したのですか?」


 「ウン、八番目の客だったかな~? 今日の朝に、「そろそろ抜ける、世話になった」とか何とか言ってた子でネェ、若いのに渋くてかっく良いんだコレが」


 カラカラ笑いながら我の事の様に言っているアリアハムは、かなりご機嫌の様だ。


 「どんな方だったのですか?」


 アルも気になるようだ。まあ、三日も打ち合っていて芽が出ない弟子よりは気になるのかも……ぐすん。


 「んとね、身長が二メートルくらいでー、肌がちっと黒めでー、目つきがダルーっと半開きでー、剣振り回す以外は大体寝てタ」


 「はあ?」


 「ぶ、」


 あ、危ない。危うく噴き出すとこだった。


 「おやん? スズキー知ってるヒト? サタンって奴なんだけド?」


 「サンタだ!! サタンてどこの悪魔じゃい!?」


 「アルトシスタンの悪魔王がそんな名前だったかと思われます」


 いや、どこさ。つーかアル、冷静だな。


 「そうそうサンタだった。で、知ってんの?」


 知ってるも何も


 「親友……かな? なんか兄弟みたいな奴だ」


 「ほえー。って、もしかしてスズキーってタローって名前だったりする?」


 なんだスズキータローって、何人だよ。


 「もしかしなくても、僕は鈴木太郎だけど?」


 「マジカ! じゃあサンタから伝言預かってるワ」


 「え、」


 サンタから伝言? なんだろう? 「ヒヨコを誑かすつもりなら出て来るな」とか?


 「えーと、“急がなくて良い、背中は空けておく”ってサ」


 ……


 サンタ……天然キザは健在か。


 「そうか、ありがとう。次会ったら精々ゆっくり進んでる、とでも言っといてよ」


 「りょーカイ」


 その後も、他愛無い会話で夜を過ごす。




 会話もひと段落着き、それぞれの好きな事をする時間になった。


 アリアハムはまったりとお茶を飲む。


 僕はアリアハムの商品を見学(燭台で写真付きのカタログを見られる)する。


 アルは暖炉付近でゆっくりと読書。


 なぜかアルは僕の前で本を読むことを良しとはしなかったが、こっちがくつろいでる時にじっと待機されるのも落ち着かなかったので、お願いしてくつろいでもらう事にした。


 初めは渋っていたが、読書の時間が多くなることは嬉しかったようで、今は熟読している。


 しかし、アリアハムは本当に色々な物を持っていた。


 アイテムボックスの中は、亜空間倉庫を入れていると、そのまま容量にされるらしく、アリアハムのアイテムボックスは凡そ五十万の物が入るらしい。


 流石にそこまでの物は入っていなかったが、それでも武器だけで何千もの数が入っていた。


 ……レア指定の武器の底値が十万なのは放っておこう。どう足掻いたっていまは払えない。


 そのまま装備や消費アイテムの欄を見ていくと、材料系の欄になった。


 モンスターの素材(迷宮内でドロップしたりするらしい)や薬などに使う薬草、生成されたインゴットまで様々な物が有った。


 その中に、


 「罠素材?」


 と言う物が有った。


 有刺鉄線や鎖、各種毒針などから硫酸十リットルなど実に様々な物が有ったが、僕の目はあるモノの項目で止まった。


 「アリアハム、この鉄杭ってなに?」


 写真を見た感じでは、先を尖らせただけの真っ直ぐな鉄の棒だ。


 「ん? それかい? 先を尖らせただけの真っ直ぐな鉄の棒だヨ?」


 まんまの答えをありがとう。そんなの見ればわかる。


 問題はサイズだ。百五十センチメートルの鉄杭なんて何に使うんだろう? 大型の仕掛けでも固定するのか?


 「なんに使うもの?」


 「なんにって、そりゃあアンタ、天上から降らしたリ落とし穴の底に生やしたリ……壁からニョキンと出てきたりもするかナ? とにかく殺傷系の罠の花形ダヨ?」


 「アタリマエだろ~?」……だ、そうです、はい。


 「何ナニ~? スズキーってば罠士に転向? 確かにスキル構成的にはピッタリじゃナイ? イイよ~罠シ。ザ・下克上向きだし、雑魚大量漁師にもなれるしネ。幸運補正が有るなら結構イイ線行くかも?」


 ……罠か、確かに魅力的だ。地味だが、後方支援目指すなら有っても良いかな?


 とか思ってたら視線を感じた。方向からしてアルだろうが……少し首を動かしただけで、直に視線は掻き消えた。


 おそらくは僕の訓練方針に意見は出すが、おおむね変な方向に行こうとしない限りは口出しはしない……そんな所だろう。


 罠士は、これからサンタ達と共に行動しようがソロで行動しようが、どちらにせよ有って困るモノでも無い。アリアハムの話では、罠を作ったり解体したりすれば、そのうち手に入るそうだ。


 だったら……


 「いや、今はいいや。槍術の練習も中途半端だし、明後日からはアルシリアの調達してくれる石で投擲の練習もしなきゃならないしね。確かどこかの階層で、罠の多い場所が在るって話だったし、そこまで興味が続いてたら、ちょこちょこと解体でも繰り返して足掻いてみるよ」


 今は一つひとつを確実にこなして行かなければダメだ、もう(・・)器用貧乏ではやって行けないだろう。だからゆっくりと、着実に、ここを出た時に皆を驚かせるくらいに強くなる。それが僕の目標だ。


 「ふーン」


 アリアハムの目が一瞬細くなり、直に笑みの形になった。


 「まァ、イイんじゃなイかい? 戦士なんて器用貧乏から消えてイクもんだし、ネ」


 取りあえず次第点、て感じだったようだ。


 と言うかやっぱり器用貧乏不利なのか、これからも気負付けなければ。


 「で、何でクイ?」


 アリアハムが小首をかしげて聞いてきた。どうもただ気になったとは思わなかったらしい。


 「いや、何でって事は無いんだけど……今使ってる槍も同じくらいの長さだし、なんなら予備の槍として使えないかなーと、か?」


 言った瞬間後悔した、それはもうひじょーに、これ以上なく。


 アリアハムが爆笑しやがったのだ。


 「わ、笑う事無いじゃないか。今の僕は無一文なんだし、これから予備の槍が必要にならないとも限らない。それに、普通の槍は最低でもアルの持ってる模造槍の千ヤルクなのに対して、この釘は一ダースで七百ヤルクじゃないか」


 結構正論を言ってると思うんだけど……ここじゃ頑張っても一日百ヤルクが稼ぎの限界って言うし、正直この釘も買えるのかどうか疑問なところだ。


 「ハヒヒヒ、いや失敬。あんまり聞かナい話だったもんでネ、しかし素材をそのまま武器に、ネ。ほんと君は面白い」


 クプププ、と変態な笑いを続行するアリアハム(へんたい)は放置して、僕は自分の槍術の師であるアルに目を向けた。先ほどの話でこちらを見たのなら、何かしらのリアクションを取っているのではないか、と。


 結果、本を膝に乗せて考え事をしているアルの姿を発見した。




 アルの話では、それも良いかもしれないと言う事だった。


 槍術と投擲を併用すれば、槍状の物を投擲に使用することで威力補正の相乗効果が見込める事もあり、使い捨ての出来る槍は多く持っていても邪魔にはならないと言う話だった。


 そして、実践はともかく訓練で重い総金属製(モナフェスは魔法強化済みの木製柄)の槍を使う事はスキルの練習としては良いそうで、お金に余裕が出来たなら購入することを勧められた。


 「フーン? 投擲用の槍も無い訳じゃァないヨ?」


 「それは投げ易かったり投げた時の威力が高くなったりと調整された物で、耐久値が低く値が張るためコスト的に向きません。罠用の鉄杭となれば、最低でもそれらの4~5倍の耐久値があるため、熟練度とステータス次第ではこれ以上ないほどの低コスト投擲物になるでしょう」


 「へー」


 気の無いような有るような変な声を上げてから、アリアハムは席を立った。


 「まあ、中々良い話を聞かせてもらったヨ。じゃあ何時かの大量購入を期待シテ大目に仕入れテ来るから、お金が出来たら言ってネ」


 どうやら今日はこれで帰るようだ。見てみれば、アリアハム持参のバケツの様なコップが空になっている。と言う事は結構話し込んでいたと言う事か。


 「うん、じゃあ明後日を楽しみにしてるよ」


 「いつも悪いですね」


 「良いって事サ」と男らしく言い放ってから、アリアハムはこの部屋を後にした。


 見送ってから、ようやく今日の訓練の疲れが出て来たようで、急速に眠気が僕の精神を侵食してくる。


 「ふぁ、あ」


 「マスターもお休み下さいませ。訓練は明日もありますので」


 「うん、そうするよ。じゃ、お休みアル」


 「はい、お休みなさい、マイマスター」


 アルと就寝の挨拶を済ませた後、約二十秒で夢に落ちる。











 アルシリアもまた、椅子に腰かけて短い睡眠を取った


 

 アルさんも寝ます。ただ、二 三時間くらいしか寝ませんからそのうちに太郎君の七不思議に数えられる事になる……かも?

 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ