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鈴木な太郎君は薔薇の都で戦乙女と輪舞曲を踊れるか?  作者: へたれのゆめ
月曜日 目覚ましの音は閻魔の高笑い
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五時限目 え?机を掴んで離さない?


 どんどん投稿~



 「……」


 「……」


 「……」


 なぜかこの場は微妙な空気に満ちていた。まあ、理由は謂わずもかな僕のスキル構成なのだけれど、話の進行は思わぬ方向に進んでいったのだ。


 この手の準備は、経験のある戦士なら自分でコーディネートし、そうで無いのなら付き人と商人の勧めを参考にして進められる。当然僕は後者なので、アリアハムさんにも隠さずにスキル構成を話した(こう言う時は別だが、普通は自分のスキル構成は人に教えてはいけないらしい)ら、アリアハムさんの表情は百面相(目で判断)を開始した。


 投擲と言えば「へー、便利なの手に入れたネー」と


 鑑定と言えば「む、なんて羨ましいスキルを……どお?地上に戻ったら再スキル化して売らない?今なら百万ヤルクで……って、ウソ、冗談! お願いだからブックハンマーは勘弁!!」と


 幸運と言えば「どおりで金の匂いが……ボソッ(マジで良いカモだぜい)…ッ、アル! 私たちはずっと友達ダヨ!?」と


 覚醒と言えば「…覚…醒……?」と


 最後のは似合わない無表情(目で判断)での言葉だった。アルも反応はしたが、良く解らない無言を押し通した。


 そこからは、「わが命や、出ておいで」と言ってアリアハムさんが薄緑色のガラスを呼び出し、そこに手を突っ込んで年季の入った算盤を取り出し、ひたすら両者を見比べながら何らかの計算に入って行った。


 そこから約十分。一際大きな音を立てて算盤をはじき、アリアハムさんは計算を終了させたらしい。


 「アルや、準備金はきっかり一万ヤルクなんダネ?」


 「はい」


 そ、とだけ言ってアリアハムさんは算盤と睨めっこをキッカリと五秒だけしてから商談に入った。


 「全部寄越しナ。ざっと見繕って、足りない分は付けといてやるヨ」


 否、人はコレを強請りと言った気がする。


 「ではこれで」


 そう言ってアルはポケットに入っていたであろう金貨らしきものを弾き渡した。


 ……人はコレをグルと言うんだったか?


 「マイド! 獲物はどうする? まさか投擲おんりーで行く訳じゃないだろウ? 見た感ジ体術も見込めないシ。付けついでに付けてやるヨ」


 器用に片目を瞑って茶目て見せる様が何とも似合ったが、詰まる所貸金追加を迫ってる言葉だ。恐らく善意なんだろうが……なんでだろう、戦士を毒牙に掛ける時も同じ仕草をするんだろうと何となく解ってしまう。


 「……では槍を二本、片方は棒切れでも構いません」


 「へー、アルが人に槍術を教えるんだ? まずいマズイ、明日にゃヴァルハラに槍が降りゃあ。何日か離れてた方が良さそーネ」


 カラカラと笑う目はしかし、笑ってはいなかった。嗤っては……いたかもしれない。


 言いながらも、アリアハムさんは薄緑色のガラス窓からヒョイヒョイと品物を出してくる。頑丈そうな上下の服、厚めのグローブのセット、重厚なブーツ、皮のベルト数本、小さなポーチを二つ、黒塗りの槍と刃の部分まで木製の模造槍。


 「アリア……これは流石に」


 「やーね、私たちの仲でしょう? ちゃーんとツケといてアゲルから、気が引けるならさっさと返しなさいナ。期限は……そーね、私が飽きるまで、カナ?」


 出すものを出したアリアハムさんは踵を返して門へと向かっていく。後一歩で門へ入る、と言う所で、やっと僕も正気に戻った。


 「あ、あの、ありがとうございました!」


 気の利いた言葉も出ず、それだけ告げると、アリアハムさんは振り返らずに一言言ってから完全に門に消えた。


 「アルをお願いネ」


 


 アリアハムさんが去った後、門はひとりでに閉じ、元の燭台と壁に戻った。


 「まったく、一見さんにはマケもツケもしないんじゃなかったの?」


 隣でため息と共に一人ごちたアルに反応する前に、アルは目の前の床から黒塗りの槍を持ち上げた。


 「さあ、マスター。一度これらを鑑定しながらアイテムボックスに仕舞ってしまいましょう」


 「アイテムボックス?」


 新たな名詞だ。まあ、意味は分かるが。


 「はい、先ほどアリアハムが使っていたガラス窓の事です。今までこの燭台で行っていた事を、個人用の大きさにすると言った所でしょうか。まあ、こちらでは鑑定も門を開くことも出来ないのですが、ステータス表示、アイテムボックス、通信くらいならできます」


 キャンプとかそのあたりの機能だろう。しかし、アイテムボックスが在るなら、重たい物やかさばる物を持たなくても良いのか……


 「便利だね」


 「はい、しかし少しばかり手間が掛かるので、何時でも開ける、と言う訳では在りません。ですから、武器や戦闘で使うものは入れておけないので注意してください」


 なるほど、咄嗟に使うものは出しておかないといけないと。そのためのポーチか、少しばかり小さい気もするけど。


 「分かった」


 「では、まず私がアイテムボックスを開きますね。開け鞄の口よ」


 そう言った一拍後、アルの目の前に紅いガラス窓が現れた。大体三十センチ四方くらいだろうか、窓の中に色々映っているのが解った。


 「ではマスターも」


 「え、うん」

 

 一応初めてでもないが、やはりやった事のないことに挑戦するのは緊張するな。


 「開けガマグチよ」


 ……あれ? 間違った?


  ブイン


 しくじったかと思った瞬間に、僕の目の前にもオレンジ色のガラス窓が現れた。


 「……あれ? 今僕、詠唱間違ったよね?」


 「そんなことはありません」


 気を使って……と言う訳では無いのはアルの目を見ればわかった。


 「基本的に魔法の詠唱とは、己が一定の行動をするという事を音に表せば良いのです、そこに決まった言葉はありません。例えばアリア……アリアハムの場合は、アイテムウインドウを命と例えていました。商人にとっては、商品と財産が入ったアイテムウインドウは命そのもの、と言った事なのでしょう。それに対して、私はコレをただのカバンとしか思っていません。このように、自分の解りやすいように解釈するのが魔法の詠唱なのです」


 ほへー、簡単な物だね。


 「……一応了解。取りあえずはそう言うものって認識しておく」


 「それでよろしいかと。では、アイテムボックスは暫くは放置しても大丈夫なので、鑑定の方をしていきましょう。ではこれを」


 アルはそう言って黒塗りの槍を手渡してきた。


 僕はそれを受け取り、受け取り……


 「鑑定って、どうやるの?」


 


 その後アルも少し考える素振りを見せてから、「おそらくは先ほどと同じ要領でよろしいかと」と言ってきた。と言う事は、イメージを言葉にするわけか……


 「なんでも良いの?」


 「はい、マスターの解りやすいように」


 ……はっきり言って、ガマグチでアイテムボックスが開いたってことは、相当いい加減に言っても良い訳か。


 んー、まあ、シンプルで良いか。


 「よし、じゃあ……見える、見えるぞ貴様の心が」


 ……訂正、少しいたずら心的な物が働いたっぽい。かなり恥ずかしい。


  ヴォン


 本当に何でも良かったらしく、僕の視界に槍の情報が入って来た。



 モナフェス    種類 槍


 耐久 1000


 指定 R2



 「……なぜにR指定?」


 え? なに? 未成年は使っちゃいけないの?


 「マスター? もしかしてレア指定を受けていたんですか?」


 「へ? レア?」


 そうか、Rってのはレアの略か、じゃあ通常のはノーマルのNかな?


 「うん、Rってのがレアの略ならそう。後は耐久1000と銘と種別だね」


 言い終わってアルに向きなおると、アルが少し怖い顔をしていた。


 「あ、アル?」


 「…訓練兵…レアを売り……うに破産…でも……はぁ」


 アルが虚ろな目で呟くとか少し怖い。多分、普段は絶対にしないだろうに。


 ……いや、化けの皮が剥がれてきたって言うのもあるかもしれない。猫の皮でも可だが。


 「なんでもありません。どうやらアリアハムは本当にマスターの将来性に期待をしているのでしょう。でなければ、槍一本で予算の十倍近い物を押し付けては来ないでしょうし」


 え?十倍って……あのお姉さん何のために算盤弾いてたの? 採算度外視?


 「おそらくですが、この槍とポーチを抜いた分が予算ギリギリ。ポーチの値段は……やめておきましょう、何時か返せるようになったならお話いたします」


 ……つまりこのポーチ、槍より高いの? これが?


 取りあえず答えてくれそうに無いので、他の装備の鑑定を済ませる事にした。


 

 灰狼の上着 N指定 耐久300


 灰狼のズボン N指定 耐久300


 灰狼のブーツ N指定 耐久300


 灰狼のクローブ N指定 耐久300


 皮のベルト N指定 耐久50


 偽りのポーチ R3指定 耐久700


  

 皮のベルトと偽りのポーチは複数有ったが、同じ鑑定結果になったので同じにして置くとして、何とも良いのか悪いのか分からない結果になった。


 「アル、偽りのポーチってのがレア指定だけど、やっぱ高いの?」


 「偽りですか……ええ、少々値が張ります。しかも装備の殆どが灰狼製ですね? 本当に槍とポーチを度外視した組み合わせを……マスター、ポーチには何か入っていますか?」


 「え? えーと……あ、なんか入ってる」


 


 出て来た物を鑑定して、個数も調べてみると普通じゃない事になった。


  

 ポーチ1


 ライフポーションA ×15 ライフを小回復


 マナポーションA ×15 マナを小回復


 応急研札 ×30 武器の耐久を小回復


 応急継札 ×30 防具の耐久を小回復


 

 ポーチ2


 手紙



 ポーチ2の手紙は置いておこう。


 問題はポーチ1の容量だ。


 「……アル? 明らかにポーチの容量を超える物が出て来たんですけど?」


 「それは亜空間倉庫と言って、アイテムボックスと似た仕組みの道具です。アイテムボックスは呪文を必要とする事に対して、亜空間倉庫は指定した入口から何時でも必要な物を取り出す事が出来ます」


 おお、便利だ。だから高いのか、納得だ。


 「いくらでも詰め込めるの?」


 「いえ、いくらでもと言う訳では無く、偽り系の亜空間倉庫は100の棚があって、それぞれ100個まで同じ物が積み込めたはずです。アイテムボックスの方は、初期の容量が10の棚に10個まで入れられて、レベルが上がっていくにつれて段々と増えていきます」


 「なるほど」


 取りあえずこのアイテムのお代は考えないことにした。きっとこれも出世払いなんだ、きっと。


 取りあえず次は、ポーチ2から手紙を出して読んでみた。


 『やっほー、今回は準備が無かったから置いていけなかったけど、後日投擲用の石も持ってくね~。こっちはドワーフのおっちゃんに頼めばいくらでも手に入るから遠慮しないように! あと、アルの様子からしてジックリと痛めつける気満々みたいだから気を付けてね、余り死んじゃダメだヨ!


                        魅惑のアリアハム様より』


 ……あの人、何時の間にこんなの用意したんだろう?


 手渡した手紙をサラッと読んで、一瞬だけ青筋を立てたアルを見ながら思った。




 「で、次は何をするの? アル」


 さっと考えても、もう準備段階ですることは無い気がする。


 「はい、続いてはついに初陣、なのですが……」


 言葉を切るアル。焦らしているのではなく、おそらくは僕に言い聞かせるためだろう。


 「現在、唯一の攻撃系スキルである投擲に必要な投擲物が一切手元にありません。手元に有るのは、立派に主戦力になりうる槍が一本なのですが……マスターは槍の心得はお持ちですか?」


 「いや、まったく」


 アルは一つ頷くと、説明を続ける。


 「分かりました。普通、召喚された戦士は、この初期スキルの補助に基づいて戦闘の術を学びながら地上に向かいます。しかし、たまにそれが叶わない戦士も居ます」


 僕の事ですね、解ります。


 「その場合はどうするのか、と言いますと、二通りの選択が有ります。一つは、ひたすらに戦闘を避けて地上を目指す方法」


 最初に勧められた方法だったな、この場合はきっと何回も死ぬことを想定しなければならないのだろう。


 御免だ。


 「そしてもう一つは、ひたすらに武勇の腕を磨いて、努力でスキルに目覚める事です」


 そう言ったアルの目は、物凄くギラついていたと思う。


 て言うか怖かった。




 所は変わって、二十畳は有ろうかと言う、これまたコンクリ打ちっぱなしの大部屋に来た。


 場所は、部屋から出た水場のもう片方の扉から出た所で、ここにも入って来たのと別にもう一つ扉が付いていた。


 「そちらから出れば、小迷宮の一階層に続く階段がございます」


 扉から目を動かせば、相も変らぬメイド姿が目に入った。


 白いヘットドレスに濃紺のエプロンドレス、付けたエプロンは純白だ。踝まで隠すスカートは健全なお手伝いさんを演出し、手に持った模造槍はその全てを包み込むようにして印象をがらりと変えていた。


 「では、スキル槍術を習得するまでですが、どうぞよろしくお願いいたします」


 恭しく礼をするその姿は、やっぱり完全無欠なメイドさんだった。












 ……アル、殺る気満々だな?



 いつまで調子に乗って投稿できる事やら……

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