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鈴木な太郎君は薔薇の都で戦乙女と輪舞曲を踊れるか?  作者: へたれのゆめ
火曜日 諦め二割絶望三割世界への呪詛五割半
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七時限目 ガルヒエンジン

「我は戦神オーディンの名に誓い、ここに対等たる決闘を行わんとするものである」


 時は朝と昼の間、場所はアゼトライへイムのメインストリート。


 今日は僕の迷宮デビューの日で、これから向かうのは城のロビー。用途はサンタたちの立ち上げたギルド、スクエアに加入することだった。が……


 謎の宣誓らしきものの後、周りを不思議な気配が覆う。魔力のように感じるが、攻撃魔法のような物々しさや回復魔法のような包容力は感じない。ただこの空間にあるマナが増えたような感じだ。


「何ぼさっとしてんだよ、さっさと決闘の誓いを立てろ。始まらねーじゃねえか」


 とは宣誓(らしき物)をした本人。


いや、決闘とか初めてだからよくわからないけど……なに? よく知らない主神様の名前に誓わなきゃならないの? それは……ちょっとヤダ。


「別に神様なら誰でもいいから、とりあえず面識があるか信仰してる神様の名前言っとけばいいと思うよ」


 とはすぐ後ろに控えた香住。なるほど、宣誓するのが習わしなのか。


「え、と。我は親愛なる雷神風神の名に誓い、ここに正式なる決闘を行わんとするものである?」


 少しぼーっとしていて細部まで聞いていなかったが、恐らくこんなことを言っていた気がする。証拠に、周りのマナが淡く輝き、半透明の壁が目視できるようになった。


 恐らく結界のようなものだと思う。周りの野次馬の中で、壁の内側にいた人達が外に出ていき、最後に残った香住も外に出た時点で壁がさらに存在感を増した。多分決着がつくまで出入りできないとかその辺の仕組みだろう。


「はっ、ふざけた事言いやがって。てめーなんざ瞬殺してやるよ」


 思いっきりやる気まんまんの相手。


「は? いや、めんどくさ……では、立会人は俺がやろう。覇と剣を冠する名も無き神の下に、ここに厳正なる決闘を許す」


 結界の外から押し込まれるようにして入ってくるサンタ。


 その後ろには、手からバチバチと電気を出している香住の姿があった。


 サンタの顔にはいつもの如くやる気が無く、一瞬合った目は「早く終わらせろ」と語っている。


 なぜこうなったのか……やや辟易としながら、僕は朝からの経緯を思い返す。




 朝の目覚めは普通だったと思う。寝る前の運動のおかげかグッスリ眠れたし、寝たときにはいなかった人物が布団に潜り込んでいたおかげで、朝の冷え込みも耐えることができた。


 朝食の席も、昨晩の事から心配していたギルとの衝突もなく、どこか生気の薄いギルと対面で朝食を終えた。


 その後の準備もいつも以上に元気なアリアハム(当然のように朝食を貪り食っていた)から済ませ、装備一式をしっかりとつけて、皆で玄関前に集合。


 この時初めて見たみんなの装備は、


 香澄が迷彩柄のガーゴパンツに、同じく迷彩柄の重量感のあるジャケットを着込んで、全開に空けた前からは黒のタンクトップと程よくこげた肌が覗いていた。いつも下ろしている髪は、ポニーテールにまとめている。


 ひよこは、膝まであるこげ茶色のポンチョのような突貫着を着て、下にはチラリと見えたがホットパンツをはいているようであった。こういう組み合わせは下を履いていないように見えて、とても目のやり場に困るのだが、妹分がやっていると周りの視線が気になって仕方がなくなる。拝んでるやつを見かけたら自分の経を読ませてやる。


 後はサンタだが……こいつは上下黒の服を着ているだけだった。それ以外はいくつかベルトにポーチをつけているだけで、材質は知らないが、あまり昨日着ていた普段着との違いは見られない。


 ……このように、やや変わっているが街を歩いていてもなんとなく許してしまいそうになる(美形は何を着ても絵になる)装備の中、この季節は比較的自然なはずであるコート姿の僕が、なんだか一番浮きそうで笑えなかった。


 こういう細かいショックが、意外とココロに貯まるものだ。


 その後は、家にある門から直接迷宮に行くつもりだったのだが(どうもあの燭台は、この世界の主要な施設には大抵設置されているらしく、自由に行き来できるらしい。昨日もそれで移動したかった)、その前に街に寄ることになった。


 なんでも迷宮に潜る前にギルドに加入する手筈になったらしい。そうすることで、ある程度の経験値分配などの恩恵があるらしい。後衛には嬉しい処置ではある。


 まあ、頼り切るのは頂けないが……絶対的な火力差を確信にも近い予感で感じるため、ある程度は融通してもらえないと、レベル的にも置いていかれるのは目に見えている。


 ……まあ、今は全員レベルの上がらない状況だからあまり関係はないか。


 というわけで、そのまま城まで飛ぼうと思ったのだが、ここで一人待ったをかけた奴がいた。なんでも朝方まで起きていたらしく、少し歩いて目を覚ましたいのだとか。


 まあ、確かに夜中まで暴れてた僕より後にベッドに入ってきたのだから、かなり遅かったとは思っていたけど……こいつが寝坊こそすれ、全体行動に支障を出すほど夜ふかしをするのも珍しい。


 サンタたちの話によると、半日もあれば今日の予定は消化できるため急がなくてもいいとのことだったので、結局昨日と同じようにやや長い道のりを歩いて移動し、街へと入っていったのだった。



「んー」


 街の中は相変わらずカオスな感じで、羽とか角とかが生えてる人間が往来していた。その中にちらほらと黒髪が見えているので、そいつらが今回の召喚された人達なんだろう。顔立ちも、ほかの人たちに比べると大分浅い掘りになっていて、何より僕たちと同年代だ。


「どったの太郎?」


 ややお上りさん的に顔を巡らせていると、香住が後ろ歩きになりながら話しかけてくる。振り返る時に、一つにまとめたポニーテールが大きく揺れて、やや馬のしっぽっぽい。じゃじゃ馬、そう頭に単語が浮かんだ。


  プチ


「……たろー? なんだか今唐突に殺意が湧いたんだけど?」


「うん、一瞬死んだと思った。えっと、なんだか視線を感じると思って」


 僕にではなく、その他三人に。いや、ここで言うと僕がその他に分類されるんだろう。何かと目を引く美男美女のグループだしね、


  ――おい、スクエアだ――


  ――香住ちゃんかわいいな――


  ――いや、俺は日与里ちゃんの方が――


  ――きゃー、サンタ君よ――


 ……うん、こっちに来ても中々に通常運転な連中だ。そんでもって、


  ――あ? なんだアイツ――


  ――スクエアに引っ付いて、また四人目気取りか?――


  ――知らねえのか? アイツ、あっちでもあの三人に引っ付いてた奴だよ――


  ――出てきたのか、ハン、相変わらず無能なことで――


  ――おいおい、まさか噂のスクエア最後の一人ってアイツになるのか?――


  ――んな訳あるか、あいつは超が付く凡人だぜ? 流石にこっちではな――


 うん、こっちも中々に通常運転だ。向こうと変わらない反応に懐かしさすら感じる。


「んー? ああ、んふふ。ねえ太郎? なんだったらここでスクエアの結団式やっちゃう? スクエアはこの四人のみのギルドである~、とか」


 ……香住サン?


「やめろ、確実に三日以内に闇討ちされる」


 なんだったら今日でも有り得そうだけど。


「やんなくたって一週間以内には来るって。それに、もし来ても私が太郎を守ってあげるから大丈夫」


 豊満と言っていい胸を張って言い放つ香住。それはとても心強い言葉なのだが、相変わらず男としての矜持とか欠片も気にしないやつだ。まあ、この女に限って男に守ってもらう、か弱い何たらとは全く縁を感じないんだが……


「姉さん、今日はやめておきましょう。予定もありますし、大々的にするよりは、今度のギルド長会議で公言した方が混乱も少ないと思います」


 そう、こう言う配慮が欲しいんだ。ちょっとは見習って欲しい。


「ぶー、面白そうなのに」


「わざわざ面倒事を増やす事もないだろう。それに重要なのは、周りが太郎をスクエアのメンバーだと知ることではなく、俺たちが太郎を仲間として迎え入れるということだ。あえて教えて回る必要はない」


 サンタが最もらしい意見を言う。しかしながら、クールに見えて、実のところは面倒が増えるのを嫌がっているだけという真実があるのだが、何も知らなければやっぱりクールにしか見えないこの男。事勿れ主義という言葉を信奉すらしているとはいつの言葉だったか。そのため、愉快犯の傾向のある香住とはしばしば対立する。


 まあ、最終決定権は女性陣にあるので、こう言う時はサンタと僕で良識派のヒヨコを本気で援護するのだが。それでも勝率が四割を切って、厄介事に首を突っ込むのが通例だ。


 今回はなんとか回避できそうだが……


「冬野ー!」


 と、思っている最中。まさにその瞬間に声がかかり、通りの向こうから笑顔で手を振る男が一人走ってくる。


 本日の厄介ごとの原因である。




「なんだよっ、話が違うじゃねえかよっ!」


 到着したそいつは、どうやらスクエア加入希望者だったらしい。


 なんでも、この超が付く高スペック集団には前々からあちらこちらから声が掛かっていたらしく、合併から加入志望まで、様々な誘いがあったらしい。


 合併の話はとりあえずギルド長会議(月一で城の生徒会本部で行われる、各ギルドの代表者が集まる寄り合いのようなもの)で、生徒会長が手出し無用のお触れを出したため落ち着いたが、個人の加入の希望者は全く減らなかったらしい。


 そこで面倒になったサンタが、


「戦力的には全く不自由していない。必要だとしたら罠師だが、それもスキル熟練度が百以下のやつは必要ない」


 と言う宣言をしてしまったらしい。


 当時の罠師の最高熟練度が七十前後だったため、それは結構な無茶振りだったのだが、ならば百を超えれば入れると罠師に転向するものが続出。しかし、熟練度を上げるために来る日もくる日も罠解除に明け暮れると言う作業に耐えられる者は少なく、また加入したがるような単独の戦士が単身罠師を極めるのにも無理があったため、自然消滅的にスクエアに加入しようとする者は少なくなっていったそうだ。


 だが、どこでもそういった作業の得意なやつはいるようで、ちまちまゆっくりとスキルを磨き続けた戦士が少数いたようだ。目の前の彼は、おそらくは一番初めに熟練度百を超えて再度加入申し込みに来た、という所なのだろう。


 が、


「特に違うところはない。必要だとしたら罠師だとは言ったが、必ず必要とは言っていないし、そいつが来たら必ず受け入れるとも言っていない。それに、熟練度が百を超えていれば、少なくとも今の最前区では一人居れば十分だ」


「だから俺が!」


「既に一人候補が来ている。優先度で言えば、先着順と言うのが筋だろう」


 そう言ってこちらを見る二人。サンタはもう面倒でたまらないという顔で、加入志望者は血走った目を大きく開けて。もはやホラーの域である。


「んだてめーは? どこ高だよ? つーかこの前の全体集会じゃ見かけなかった顔だなおい? その前も、その前も見た覚えはねえぞ?」


「え、と。全体集会とかよくわからないけど、一昨日まで入界門にいたから、昨日会ってなかったら会ってないと思う」


 学校にいた時には見たことのない顔だ。やや柄が悪そうな雰囲気で、髪の毛も金髪。深野高校は髪染め禁止だから、こちらに来てから染めていない限りは恐らくほかの学校の生徒だったんだろう。


「一昨日ぃー? はっ、なんだ出遅れ組か」


 相手はわざとらしく大声で笑い、近くの人たちの注目を集めた。まあ、それは建前で、コソコソ見て陰口を言っていた連中を誘い出すのが目的なのだろう。大義名分を立てて数の利を得ようとするのは、とても有効な戦法だ。


 ……まあ、それを行って萎縮するのは、この中では僕かひよこくらいな物で、状況的に有効なのは僕だけだったりする。こういう時のひよこは、そのへんの男なんかよりずっと肝が座るのだ。


「召喚からどんだけ時間がたったと思ってんだ? てめえみてえなクズ共が、俺たち早出組に楯突こうってか? それによお、ホントにてめえ熟練度百あんのかよ? ちょっとステータス見してみ?」


 「そうだそうだ」と言う周りの賛同の声を背景に、段々と調子付いてくる相手。


 しかし……それは困る。僕のステータスはちょっと見せられない物が何個かあるんだ。しかしここで拒否するのは……サンタ、ヘルプ!


 目線でサンタに助けを求める。こういう時こそ、長年のコンビネーションが光る。命を掛けた場面(女性陣との家庭内戦争、またの名を自衛戦線)で磨かれたアイコンタクトを送ると、ひどく億劫そうに口を開くサンタ。


「……既にこちらで確認している。こいつの罠師熟練度は百五十一だ、恐らく今現在最も罠師スキルの高い人物だろう。その面から見ても、優先度はこっちにある」


「んな!?」


 目を見開く相手とざわつく野次馬。


 これには流石に絶句したようだった。他ならぬサンタの言葉だし、信用は出来るんだろう、が……うつむいた相手の前髪が目元を隠しているあたりから、危険な香りとでも言うのだろうか? 悪い予感を感じさせている。


 こういう時の予感は外れないのは、恐らく普段の贅沢な幸運の代償だろう。


 なぜか腰の剣に向かっている相手の手を見ながら、諦めにも近いため息を小さく、しかし心では盛大に漏らすのだった。




 とまあ、戦士がもめた時にどうするのか、なんてのは昔からお決まりな物で。相手の方から、


「どっちも必要な条件を満たしてるのなら、ここはより優れている方を選ぶべきだ」


 という進言があった。なぜ罠師の優劣ではなく戦闘方面の優劣を競おうなんて話になるのかはよくわからないが、周りの野次馬から飛んだ意見に、


「四人しか居ないなら、戦闘の出来ない奴はお荷物だ」


 というものがあった。


 正論だ。確かに間違っていない。その気もない。


 こっちの世界ではお荷物にならない、僕はそう誓ったのだ。


 だから、僕の方から断る理由は無くなった。


 相手も僕に戦力で劣るとは全く思っていないようで、こちらが了承すると、嘲るような勝利を確信するような、なんとも悪党面で宣誓を行った。



 そして話は冒頭に戻る。



「おい、今からでも辞退するなら聞いてやるぜ? 怖くなったら地面に頭をこすりつけろや」


「あー、いや、いいや。なんかもう恥ずかしい宣言しちゃったし、正々堂々とやろうよ」


 そう言って、袖の下から愛用の槍を取り出す。この装備はあちこちに亜空間倉庫があってとても便利だ。


「チッ、亜空間倉庫なんざ釣り合わないもん持ちやがって。もう冬野達からタカったのかよ? これだから意地汚ねえ遅出組は」


 そう言って相手も剣を抜いて構える。


 ……高いからね、コレ。この装備だって随分したし、僕が自分で買ったんだけど……まあ、普通あの場所で買えるものでもないから仕方ない。


 とりあえず相手が正眼の位置に構えたので、こちらもオーソドックスに腰の高さで構える。やや普段よりも姿勢を低くし、今から突進しますよと言っているような形になるが、別にそれでもいい。なんなら警戒してくれた方が、開始直後に即死亡という目に合わなくて良い。


 相手の力量がひと目でわかるほど、僕は武道に精通しているわけではない。これが香住とかサンタなら、相手の構え方とかでどれだけの腕をもってるとかわかるんだろうけど、残念ながら僕は凡人。勝てる方法よりも負けない方法を優先するのは仕方のないことだ。


 でも、あまり期待はできそうになかった。何しろ相手がヤル気満々の素晴らしい笑顔で(やや黄ばんだ犬歯が片側のみ覗く感じの)剣を構えてるんだ、きっと突っ込んでくる。


 ……やだなぁ。


「それでは」


 その一言で野次馬の雑然が消える。サンタの声には、それだけの重みがあった。


 ……まあ、どことなくやる気のなさがにじみ出る声だけど。


「始め」


「堕ちろっ!」


 サンタの宣言と同時に結界が輝き、相手がこちらに突っ込んでくる。


 そして、落ちた。









「うえぇ、いったそ〜」


 割と膨らんでしまったので、少し中途半端ですが切ります。


 消息不明期間が長くてすいません。

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