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鈴木な太郎君は薔薇の都で戦乙女と輪舞曲を踊れるか?  作者: へたれのゆめ
火曜日 諦め二割絶望三割世界への呪詛五割半
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昼休み3 第二体育館裏 夜路肢苦


「おえ?」


 やっとの思いで鉛針の群れから逃げおおせ、腹いせという訳ではないが、ここにある一番高い酒をくすねようと食堂に近づくと、中から約二名分の声が聞こえた。


 おやおやと思い中を覗くと、そこには自分の顧客が一名と、有ろう事か自分の妹分が密着しながら話をしていた。


 ……いや、少々のご幣を正すのなら、その光景は年頃の女子が和気藹々とお話に興じていると言うよりは、蛇に巻き付かれているカエルもかくやという光景ではあったあが……


「なんだ、アルもちゃんと友達作ってんのネ」


 アレの友人と呼べる人なんて、両手の指に届くほどいるかも怪しいため、流石に三百にもなってそれはあんまりだと思っていた矢先なので、素直に嬉しい所だ。


「うんウン、良きかな良きかナ」


 というわけで、祝い酒と言うことで三番目くらいにいい酒をくすね、部屋に戻る。


 今日はいい酒が飲めそうだ。






「あ゛―、ぢかれだー」


  ギシギシ


 頭に巻いた布を取り払い、ベッドへ身を投げる。


  ギリッ


 やや硬めの素材だったが、脇の木の椅子に座るよりはまだマシだ。準備運動なしで久々に動き回ったため、体にやや引きつった痛みが走るが、まあ、たまの運動としては妥当だろう。


  ギュリギュリ


 手に持ったワインの栓を噛んで引き抜き、そのままあおる。


  パフッ!


 うん、やっぱりゼルダの百年超えは良い。まろやかな風味がクセになる。


 しかしながら……


「あの程度で怒るとか、まだまだ未熟だよネー。しかもあんなに大盤振る舞いして……入界門出たばっかで費用一万超の戦闘とか、ホントに常識知らないワー」


  ギチチチ…


 卸している身としては儲かるからいいが、このままだと少しばかり先が心配だ。商人とは目先の利益より先の利益を見なければならない。彼にはもう少し効率と冷静さを持って欲しいものだが、まあ、新人の戦士にそんなことを言っても詮無きことだろう。


  グ……ギリ


 むしろ彼の成績と能力だけをみれば、至らない所など霞んでしまうほどの魅力がある。


「冷静さも、キミに比べればまあ、ある方カナ?」


「グ、くうぅ」


 半分ほど中身の無くなった瓶を脇に置いて、枕を抱えて立ち上がる。


「ぎ、ざま」


 そのまま部屋の真ん中に転がしてあるイモムシに近づき、その顔を覗き込むようにして腹の上に座る。


「なんだ、もうそんな反抗的な声上げられるの? 7は魔法系のレジストが苦手なものなんだケド……キミは中々どうして、よく耐えるネ?」


 そう言って、酒瓶に熱を持って行かれた手を彼の頬に這わせると、瞬間電気が走ったように暴れまわるイモムシ。どうやら刺激が強すぎたらしい。


「そんなに暴れちゃって、全くワンパクだネ? さ、そんなに固く目を閉じていると疲れるでしょ? こっちを見てみなさい?」


 そのまま、先ほどよりも優しく。ゆっくりと彼の体温を奪うように頬を撫で続ける。その度に体を痙攣させる本人は、しかし何を言うでもなく、こちらすら見ようともしないでただ耐えていた。


 口には猿轡を噛ませているため、先程からくぐもった罵声のような物は漏れるが。目に関しては特に何をするという事はしていない。不服なのならば、こちらを睨みつけることは簡単だ。


「ぐ、ヴヴ! ゴグガガ!!」


「まったく、そんなにヨダレを撒き散らしてだらしがない。仕方ないな~、ちょっと待ちなさい」


 指を一つ鳴らして猿轡を切る。解けばよかったが、流石によだれでベトベトになった布切れを触りたくはないので、用のないものは捨てるに限る。


 瞬間、聞くに耐えない罵倒が無数に放たれるが、耳を塞いで却下。相変わらず目を開けてはくれないため、相手は聴く者のいない寒々しいセリフを永遠と吐き続ける。


 約二十分は喚いただろうか? 流石に言うことが尽きたのか、荒い息で深呼吸をはじめるイモムシ。あまり呼吸に気を使っていなかったのだろう、こちらの顔にかかるほどの唾を雨と吐き出し、先ほどより口の周りのよだれがひどい。よほど苦しいのか、涙までうっすらと浮かんでいる。正直ドン引きだ。


「……終わった? 全く、声量と肺活量とボキャブラだけは立派だネ? でも不思議、イイ男に必要な条件が結構あるのに、君にはあんまり魅力を感じないナ?」


「黙れ! 薄汚い淫売がっ!! 貴様が触れていると思うと吐き気がするわっ!! さっさとこの縄を解け! そして私に謝罪しろ! おのれおのれ、このような行いをしてただで済むと思うな! 首をはねてやる! 臓物を引きずり出してやる! 戦士から金を毟ることしか出来ぬ手を切り飛ばしてやる! そこをどけ! 離れろ! おのれーーー!!」


 さらに火に油を注いだようで、相手はイモムシもそこまではするまいと思える身の動きで体をよじる。なんだか腰のクビレが引き締まりそうな運動をこなしながら、そっとため息をつく。


「キミもネー? 一応序列的にはいい方の成績なんだから、もう少し慎みとかそういうの持てないのかナ? 意外と知られてないけど、淫魔にとってのそういう罵りって、意外と他の種族に対して使うのよりもコタエルんだヨ?」


 それに、あんな見境なしに暴飲暴食する連中と一緒にしないで欲しい。高位の淫魔は決して世間一般に言われているような寝込みを襲うようなことはしない、むしろこうと決めた相手以外の性は吸わないものだ。まあ、こうと決めた相手が多くてハーレム築いてる奴も多いんだけど。割と似たような習性を持ってる吸血族張りに。


「知るかッ!!」


 もう何を言っても聞かなそうなイモムシに若干辟易しつつ、本日七度目になる教育(・・)を行うことにする。




「……ギルジラード? こちらをごらん」


 微弱な魔力を、相手の頭に添えた手の平から直接脳に送り、固く固く閉じられているまぶたを強制的に開けさせる。


 やや痙攣しながら開いた瞳は、ゆれながらも確かにこちらの眼をしっかりと見ていた。


 淫魔が元来持つ、愛しのパートナー(おしょくじ)を誘う眼を。











「今度こそ、私の玩具(どれい)になってくれるかしら?」










 その夜、防音の結界を重ね貼りした部屋に、二十七回の男の悲鳴が響き渡った。



 次から進みます。

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