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鈴木な太郎君は薔薇の都で戦乙女と輪舞曲を踊れるか?  作者: へたれのゆめ
火曜日 諦め二割絶望三割世界への呪詛五割半
32/38

五時限目 ジャワゲンジン

 


「落ち着けギル。そんなに騒いだって彼女が消えて無くなる訳じゃない、ここは理性的に話し合う所ではないか?」


 珍しく、珍しくサンタが人をたしなめてる。思わず二回言ってしまうくらいには驚きの現象だ。主に他の人に物事の解決を擦り付ける節のあるこいつがこんな行動を取る事など、今までに何回有ったか……ん? いや、意外とあるか?


「しかし主殿、コレは忌々しき事態です。日ごろから主達が褒め称え、待ちわびていた者が、よもやこの様な出来損ないの一族の末端を当てつけられている者とは……主殿、悪い事は申しません、彼の者はここで切り捨てるべきです、これから待つ戦場は、荷物を背負って戦えるほど軟な場所ではございません!」


「……」


「それに…」


「申し訳ありませんが」


 そこで、聞き覚えのある声が聞こえた。この数か月で一番聞いていた声だ。


「確かに私は28の出です、セカンドネームに恥じぬほどの使い手と言う訳でも無い。しかし、それと我がマスターの非力さが直接…」


「貴様になど聞いていない! 立場を弁えろ下等民族が!!」


 ……


「貴様のような劣等種は知らんだろうがな、代々優秀な才能を持つ戦士ほど優秀な付人が振り分けられる決まりとなっているのだ。それも主殿や香住殿、日与里殿のようなヴァルハラ史においても類を見ない様な逸材には、神の直系たる十の血族より、選りすぐりの猛者が使わされるが当然。それをあのような何処の生まれとも知れぬ成り上がりの、それも大した名声もない娘が当てられた戦士など、誰が信用できようか!」


 ……


「そもそも、末の一族たる28番が栄誉ある付人になる事すら許せん。貴様らの様な力なき一族は、精々城の清掃でもしていろと言うのだ! 身の程を知れ!!」


  パシン


  プチン


 あ、頭の中でどっか切れた音が聞こえた。ふははは、これはもうダメだ。アイツ血祭。誰かは知らないけど俺の(・・)アルに手を出した罪は重いぜい。……さて、泥王は何処に仕舞ったか? 確か三本ほど買っていたはず…


「ギル」


 そう思って新調した黒いローブのフードに手を突っ込んだ(フードを含めてあちこちに亜空間倉庫加工済みポケットが付いたオーダーメイドの品。アリアハムに頼んで発注してもらった。一式で三千万したが満足の行く一品に仕上がったと思う)辺りで、痺れるような低音が響いた。


「主殿! やっと私の話を聞いていただ…」


「ギル」


 男……ギルと言ったか? の声は、飼い主に構ってもらえた犬のそれだったが、サンタの声音はとてもそんな優しい物では無かった。


「ギル」


 三度言葉を発すれば、流石に頭に血の上ったギル氏でも理解できたのだろう。パッと聞けば、それは少し元気のない声に聞こえるだろう。しかしこの男の場合、こんな声を出す時は決まって深く落胆している時だ。


「あ、主殿……しかし!」


「ギル」


 ギル氏も、そんなサンタの心情に気付いたか、狼狽を隠せないようにしてサンタに言い依るが、四度目の発言でそれも意味のなさない行動だと気付いたのだろう。数秒を空けてソファーに崩れるように座った音が聞こえた。


 ふむ、こいつはいけ好かないが、この短い間に良くサンタの事を理解できているようだ。主殿と言っている事から恐らくサンタの付人か何かだろうが……まあ、これ以上何も無ければ血祭だけは勘弁してやろう。


「ふう。……太郎、憤りは解る。俺の付人が過ぎた事をした。しかし、取りあえずその物騒なのを仕舞ってから入って来てくれないか? それから噴き出すような殺気も抑えてくれ、シエラが怯えている」


 む、


  ぎい……


「……仕舞ってからと言っただろう」


「なに、僕がどれだけ憤っていたかの証明だよ」


「持っていてくれ」と言ってから泥王をサンタに投げ渡し、少し片方の頬を赤くしながらも直立不動のアルに歩み寄る。


「お疲れ様、準備は出来た?」


「はい、万事滞りなく。ただ、今は神殿が混んでいるとの事だったので、圧縮の儀は数日から一週間ほどかかるとの事でした」


 それ位なら問題は無い。どうせこれからの事で準備もあるし、アリアハムから余剰魔力を溜める道具も買った。力量的にも余裕があるようだし、そこまで急務と言うほどでもない。


「解った、アルはホントに頼りになるよ。これからも宜しくね?」


「身に余るお言葉です」


 まあ、肯定の言葉と受け取っておくよ。で?


「サンタ、そっちの葬儀顔の人とこっちのお姉さんは紹介してもらえるのかな?」


 ぽつんとソファーに腰かけているギル氏と、もう一人テーブルを挟んで向かいに座っているお姉さんを目線で刺しながら聞いてみる。お姉さんの方はニコリと笑いながら手を振っており、その胸元にはちょっと涙目のシエラの後頭部が埋まっていた(・・・・・・)




「レイミナス・A・6と申します。現在は香住の付人をしていまして、魔術を修めております。太郎様の事は主よりよく伺っておりまして、早く会いたいと思っておりまし…」


「ブッ、ちょ、レイ!? 何言っちゃってんのこの子は!」


 我関せずとお茶を飲んでいた香住がいきなり口の中の物を噴き出して立ち上がる。はて、はたして今の会話に何か驚く場面はあっただろうか?


 香住が部屋の角にレイミナスさんを引っ張って行くのを横目に、ふと僕の耳に蚊の鳴き声のような小さな声が聞こえた。


「ギルジラード・A・7」


「ん?」


 声をした方を向くと、主であるサンタに一礼して去って行くギルの後姿。こいつは第一印象が悪いからギルで良いとして、今日の所はサンタに免じて特別に許してやろう。まさかこれ以上初日で波風を立てたくは無い。


 ……次は無いが。


「……説明は必要か?」


「興味ない。こういう事は予想できなくもなかったから、今後続かなければそれでいい」


 まあ、まさかサンタの付人に言われるとは思ってもいなかったけどね。とは言わないが花。多分サンタには伝わっているだろうけど。


「マスター」


 そうしている間に、レイミナスさんに解放されたシエラがトテトテとこちらによって来て腰にしがみ付く。その顔はまだ不安そうだった。


「ん? どうしたんだい?」


「……もう、怒って無い?」


 ちらりとサンタが持ちっぱなしにしている泥王を見てから言うその姿は、まるで親の機嫌を伺う子供の様だった。まあ、そのままこの子は子供で、一応僕は親なわけだが。


「怒って無いよ? さっきまではすごく怒ってたけどね。でも、彼もこれから一緒に行動していく訳だから、何時までも怒っている訳にはいかない。彼がこちらの実力を疑うのなら、こっちが力を示せば良い話なんだからね。シエラも、余り彼の事を責めないで上げてね?」


 多少以上偏見が入っていたとは言え、彼も(サンタ)の身を案じただけなんだから。とは言わないでおく。


「……でも、私あの人キライ」


「それは同感だな」


 君も、これから僕の事を主と慕い続けてくれるなら、きっと解る時が来るかもしれないから。


 何となく、願望の様な予感を胸に秘めながら、出来るだけ優しく彼女の頭を撫でてみた。


 取り敢えず……


「サンタ、それ返せ。シエラが怯えてる」


「いや、出したのはお前だろうに」




 その後、レイミナスさんの詳しい自己紹介とアルからの報告を聞きながらマッタリとお茶に興じる。ハーブティーだが、これがとても美味しかった。どうも裏の大樹からとれる花弁を使っているらしく、ほんの少し桜に似た香りがする。


「シエラさん? もう一杯いかがですか?」


「欲しいです!」


 シエラはまだ茶の苦みが苦手らしく、飲んでいるのはホットミルクだ。保護者としては、食事前に腹の膨れる物は飲んで欲しくないのだが……まあ、育ち盛りだから問題ないだろう。地下に居た時も、あんなに不味い栄養食を瞬く間に二詰み平らげたほどだし。


 ……それにしても、レイミナスさん……レイで良いと言う事だからレイさん……彼女は、すごかった。何が凄いって胸が凄い。


 身近な存在だと、冬野のおばさんことキリコさんや、最近急成長中の香住なんかが大きい方だか、何だか次元が違う。サイズなんて知識が無いから解らないが、とにかく大きい。


「Lだよ?」


「な、なに……いや、いい。何でもない、気にするな」


 香住よ、いきなりアルファベットを言われても……えーと、十二段階目? ……予想が出来ない。キリコさんがHとか言ってたような……


「ちなみに私はDなんだけど?」


「だから何がっ!? っ!」


 しまった、つい突っ込みを……ええい、ニヤつくなこの痴女が!!


 ……とは言えないのが我らが女性優位の家訓なのが辛い。


「んふふ、どうしたのこのムッツリ君? 何だか失礼な事を考えてた顔してるけど……いいのかな? おっぱいに関するあれやこれのお話なら幾らでも出来るけど……」


「ごめんなさいすいません申し訳ありませんでしたもうしません絶対しません香住さんマジ神ッスこれからも誠心誠意尽くしますダカラソレダケハゴカンベンヲ」


 ……ええ、それはもう恥も外見も有りませんとも。あれらの(くろれきし)を解放されたらもう……僕の善良な精神とかその辺はズタボロのボロ雑巾に……


「くふふ、それでいいのだよ。乙女の肌はそれだけの価値があるのだからね?」


 ぐおぉぉ!? ちょ、おま!?


「アル様? お姉さまはもうD級の戦士なのですか? それにLって……そんな階級有りましたっけ?」


「……いえ、コレはそう言った話ではありません。貴女ももう少し成長すれば自ずとわかります」


 ……今だけは、アルの優しさが痛かった。



「……もう良いか? 夕飯が出来たんだが」


 その声に振り返ってみれば、今来たかのように部屋の入り口に立つ幼馴染……知ってるぞ? お前はこの話題に入った直後位にはそこに居たって事を。この裏切り者めが!!


 同じく幼馴染に弱みを握られている者同士、助け合いの精神だけは大切にしてきたと言うのに……まあ、だからこそタイミングを見て助けてくれたのだろうが……何だか釈然としないのはなぜだろうか?


「お? ごはん? やり~。なになに? 今日は冬野夫婦の共同制作ですかい?」


「ぐへへ~」と下非た笑顔の似合う美女……シュールだ。


「残念ながら、今日はアキューバ老の当番日だ」


 ……アキューバ? また新しい名詞が出て来たな。残るキャストはヒヨコの付人ぐらいしか思い浮かばないが……はて、老とな?


 理不尽なブーイングを連発している幼馴染の背に、また何かしら手強そうな人物を夢想した。




「……なんでじーさんがここに?」


 食堂に入った僕の第一声。ハッキリ言ってこれ以上声に出せるほど僕の心はサプライズに強くは無い。


 正確な事を言えば、目の前には喫茶店《烏龍》のマスターこと鈴木志郎氏が立っていた。着こなした給仕服といい皆には見えていない、僕の目についた物に似ているモノクルといい……銀髪に近い白髪のオーツバックに、刻まれた皴の一つひとつまで、覚えている限り十数年は歳を食っていない妖怪じーさんが目の前にいた。ちなみに僕の実の祖父でもある。


「ふむ、太郎様までそう申されますと、やはり私は志郎殿に似ているのですね。いやはや、世の中には中々に奇なる縁がある物ですな」


 ……はい? 何だか状況が……こらヒヨコ、そこで笑っていないで状況を説明しなさい。


「えへへ、やっぱりタロちゃんも間違えた。これで皆間違えましたね? 良かった~、私だけ間違ったら、もうおじいちゃんに顔見せられない所でしたよ」


 ……よし、良いだろう、この人はじーさんとは別人と言う事だな? OKおーけー。世界に似た人は三人いるって言うし、きっと異世界に居てもおかしくないだろう。じーさんはクウォーターって話で、顔の彫も深いから、こっちの人に似ているのが居たって不思議じゃない。だから、どっかに本人とは違う部分があるはずだ。どっかに、どっかに……


「って、解るかー!! 何処を如何見たってじーさんじゃねーか!? なにか? 召喚の時たまたま近くを散歩してたとかそんなノリですか? そんでもって皆で俺を騙そうって腹ですか? そうなんですかー!!」


 こんな給仕服を着こなせる爺がこの世にそんなにいてたまるか、しかもそっくりさんどうしで同じくとか有り得ないから。こんの爺! 茶目っ気は裏メニューのとんでも料理くらいにしとけや!!


「……太郎? タロー? 裏返ってるよ(・・・・・・)?」


「……えーっと、ホントに、じーさんじゃない?」


 危ない。また変わる所だったようだ。


「はい。じじいなのは変わりませんが、私はアキューバ・D・8と申します。今回はヒヨリさんの付人として従事しておりますので、ギルドを組むのでしたら何なりとお申し付けください」


「は、はい。よろしくお願いします?」


 ……何だか、調子狂うな。




 飯も食って、食後のお茶を飲みながらこれからの話をする事になった。何だかあの後にアルが驚いた顔をしていたり、卓上に上がった料理の量にさらに驚いたり、シエラが少し怯えて香住の隣の席に座ってしまったりといろいろあったが、今は今後の事だ。……別に寂しく何て無いんだからね! ……グスン。



「取りあえず、タローも出て来た所で先進まない? 本職の罠士もいる事だし、今なら軽く前線区まで行けると思うんだけど?」


 とは香住。どうもこいつ等、実力は破滅的にあるのに、罠が目立ち始めた辺りで手も足も出なくなり、戦闘力以外が壊滅的にない事に気付いたらしい。


 その後から急いで罠士とかのスキルを求めたが、適正が在ったのはサンタのみで、それも微々たるもの。しかも本人がめんどくさがってまったく上達しないと言うのだから使えず、だからと言って新しい仲間として他の生徒を誘うのも気が引け(誘いは幾らでもあったらしいが)、だったら一番似合いそうな僕が出て来るまで待とうではないかと結論を出したとか。ふざけろ。


「いや、まずは圧縮からではないか? アルさんの話では、神殿は暫く使えないとかと言う話だったぞ? だったら、もうしばらく修練に励んでからでもいいと思うのだが?」


 とはサンタ。こいつらが行き詰ってから始めた事は、まず修練だったらしい。レベルは三十後半あたりだったらしいが、それぞれの特性に合った階層やインスタントダンジョンでお得意の無双をしている内に、あっという間に成長限界まで行ったとか。


「タロちゃんは出て来たばかりですし、もう少し今のままゆっくりしても良いんじゃないですか? 急ぐこともないって、キューじいも言ってましたし」


 とはヒヨコ。うん、良い子だ。こういう労りの精神が大切だと思うんだ、うん。


 各付人たちはそれぞれの主の意見を支持するらしく、自然と視線はまだ意見を出していないメンバーに向けられる。つまり僕なわけだけど。


「……まあ、なんだな? どの意見も良いと思うんだけど、取りあえず地上の迷宮の難易度を知りたいな? 取り敢えず皆が潜った階層を、探索がてらゆっくりと潜るって言うのはどうだろう?」


 出来るだけ間を取った意見を出してみる。結構皆我が強いから、こうして間を取らないとたまに強情になったりするので、そこはかとなく自分の意見が入る位の提案が通りやすい。ちなみに僕の案を入れないと約二名が拗ねる。


 アルの方をチラリと見ると、問題ないのか小さく頷いてくれた。どうやらこちらも主従の意見がまとまったようだ。


  …………


「?」


 その一瞬、また視線を感じた。実は帰ってきてからも何度か薄い気配の視線を感じる。探ってみても家の周りには人の気配がしないため、おそらくはこの中の誰かのだろうが、視線を戻すと同時に視線も無くなるので探しようがない。


「……まあ、妥当かな? 確かに太郎はこっちになれてないと思うし、互いの力量を見るのも大事だろうしね。私はそれでいいよ?」


 以外にも最初に意見を変えたのは香住だった。何時もは冗談本気含めて、一番最後までごねるんだが。


 他の面々も不思議に思ったのか、少し首をひねりながら僕の意見に賛成してくれ、取りあえず明日一番に南の迷宮と言う場所に行くことになった。




 その後、ギルが早々に退出して(食事は皆で食べた。アルの主従観は無視して同じテーブルで食べた。幽鬼の様なギルと元気よくかきこむシエラも例外なく一緒に食べた。なんたって我が家の決まりは皆で食事する事を義務付けている。例外はほぼ無い)、残ったメンバーで親睦を深めた。


 このワイワイとした雰囲気が懐かしく、終始頬が緩みっぱなしだったが、やっと帰ってこられたと思うと仕方ないと思う。アルやシエラ、何故がアリアハムまで混ざっていたが、取りあえず皆と仲良くしてくれそうで一安心したと言うのも大きい。ギルは……まあ、時間だな。後は努力。



 さて、明日から頑張らないとな!!











「…………なんだよ」


 どうもまた忙しい時期に入って来ました。ゆっくりと投稿していますが、ストックらしきものもそろそろ切れるので、その内またぱったりと更新が途絶えるかも……


 書きたいことはいくらでもひり出てくるのに、まとめたり筋道立てたりが壊滅的過ぎて穴にもぐりたい(泣)


 

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