四時限目 ペキンゲンジン
「……」
取りあえず生徒会(協会よりこっちの方がよく使われているらしい)での面会が終わり、頼まれたお使いを指定された店で済ませ(香住の名を出したら割引きになった。……流石だな)、さていざ家に帰ろうと思った所で、ふと人の視線を強く感じた。
「?」
まだ夕方と言う事もあり、周りはごった返すと言うほどでもないが、結構な人が往来している。そのため特に変では無いのだが……
んー、サンタ達に用事かな? 仲間になろうとか? 有り得なくは無いな。何と言っても規格外な奴らだし、もう結構有名になっててもおかしくない。
そこで、よく金魚のフンの如く一緒に居た僕に声を掛けようとしているのだろう。実を言えばこういう事はこっちに来る前にもよくあった。ラブレターを渡してくれとかならまだ良い方で、時には「僕の事を良く言っておいてくれよ」と馴れ馴れしく言って来たりとか、「ねえねえ、冬野クンってなにか好きな食べ物とか在るのかなぁ?」とハート目で訪ねてきたりとか……とにかく人の事を伝言板とかアイツ等専用のウ○キとかとしか見ていない言動が多かった。酷い時には「おい、香住を明日の九時に有山遊園地に連れて来いよ。ほら、駄賃はやるからさ」とか言ってユキチさんを掴ませようとした奴もいたりして……はっきり言えば迷惑な事この上ない。
まあ、大抵の奴が後日何かしらの返答を貰っては涙しているのだが(特に最後の奴とか一週間学校に来られなくなったって聞いたし)、一行に減って行かないのはアイツらのカリスマ故か……まあ、とにかく。
「逃げるのが得策だね」
そう思って次の路地を曲がって裏路地に出る。こう言った所は、フラフラと曲がっていれば簡単に巻けるし、その内目的地に着けるものだ。
「んー」
しつこいな。
あれから三十分は経ち、もうそろそろ街を抜けるころになっても、相手は中々あきらめなかった。普通はこの辺まで来たら巻けるんだけど……もしかしたら本業かも知れない。
前にヒヨコと香住のストーカーとかに付けられた時は物の十分もあれば巻けたんだけど……この現実離れした世界でその辺と比べるのも間違ってる気がするし、巻けないのも納得した方が良いのだろうか?
っと、現実放棄は置いといて……取りあえず会ってみるか。このまま家まで付いて来られても何だか嫌だし、話し合いで解決できることもある。勿論、解決できない事も多々あるが、やらないよりはやってみた方が良いに決まっている。まあ、巻けたらやらないの一択だが。
僕は曲がった路地の上、植木の置いてある窓枠に三角跳びの要領で登ってからしがみ付き、隠密スキル技、抜き足を発動。約五メートル下に入ってくる追跡者の姿を確認した。
銀色の髪を短く切った女性で、おそらく僕より少し年上くらいだと思う。上から見ているだけで良くは見えないが、少々慌てて辺りを見回している。
「……」
その姿が、何処か迷子の子供に見えなくもなく、本当は見つからなければ逃げてしまおうと思っていた心がちょっと動いた。
ストン
「お姉さん? 誰かお探しですか?」
少し反動を付けてから女性の後ろに降りられるように跳躍し、無事に目的の場所に着地する。少し着地音が鳴るが、その音に被せるように強めの発音をしながら着地する事で上手くごまかし、あたかも移動なんかしていないように見せかける……昔は面白いように兄妹がはまってくれた悪戯だ。……今は全く驚いてくれなくなってしまったが。
慣れていない女性は、瞬間やや姿勢を低くして構えを取った。恐らく戦場での咄嗟の癖か何かなのだろう。と言う事はこの人も戦士かヴァルキュリーか……おそらく銀髪だからヴァルキュリーだろう。なんかアリアハムがそんな事を言っていた気がする。
「……!?」
無言で状況を確認していた女性が驚いたように逡巡し、次の瞬間には構えを解いて姿勢も戻した。
「……流石はアルシリアの戦士、と言った所か。声を掛けられるまで気が付かなかった」
女性は身に着けた若草色の麻製スカートをひるがえし、振り向いてから次の言葉をつなぐ。
「私はリリネット・A・1 ……アルシリアの盟友であり、貴殿に預けられた涙を流したヴァルキュリーだ」
リリネットさんに話を聞くと、今回の顛末をすらすらと話してくれた。どうも嘘と言う訳でも無いようなので、真面目に聞いてみると……
今日、彼女の主からの使いを終わらせた後に、たまたま色々と準備に奔走していたアルに遭遇したらしい。
そこで、早々と彼女の託した涙が羽化した事を聞いた。
マナー的に、余りマスター同士の繋がりのないヴァルキュリーが、他のマスターを尋ねる事は忌避されているため、その場は喜びと感謝を伝える事のみで済ませたが、時が経つにつれて、段々と心配になってきた。
そして心配が心配を呼び、産まれた子が暴行でも受けているのでは? と言う辺りでついに我慢できなくなり、マスターに適当な事を言って飛び出して来たらしい。
後は、手続きの為に城に来るのを待ってから、ずっと後を付けていたらしい。
「……で、今に至ると?」
「ああ」
短く返し、こちらを睨みつけるリリネットさん。どうもこの人も『アルの主人』に敵対心を持っているらしく、不安を抑えられなくなった口らしい。……アルの前のマスターさん、何やったんだろうか?
「……しかし、それは私の考えすぎだったようだ」
「はい?」
中々に予想外の事を連続で言ってくるヴァルキュリーを見ると、その口元には薄い苦笑いが浮かんでいて、直に歪められた。
「アルの前の主人は、それはそれは醜悪な人間だった。見た目がどうこうでは無く、その内から滲み出る瘴気の様な魔力は、後に影響を受けるアルシリアや配下の兵たちに同情心すら持った程だ。……しかし、貴殿は違う」
リリネットさんは一つ頭を下げると、一段階真剣身を増した声で続ける。
「貴殿の様な清んだ魔力の持ち主が、邪な行動を取るわけが無い。私は、貴殿を大きく誤解し、侮辱していたようだ。この責は、深く償わなければならない。この身は我が主人に捧げた物だが、その誇りのためにも、何なりと償いを示してほしい」
「……えーと?」
何だかぽけっと聞いてる内に、身に覚えのある展開になってきた。え? なにこれデジャブ?
「なんなりと…」
「今度」
これ以上は言わせると碌な事にならない。経験的にそう感じたからか、咄嗟にそう切り出す僕の口。……七割白くなっている思考回路を破棄して、反射的に飛び出した言葉に場をゆだねる。
「今度、シエラ……羽化した子の名前です。シエラと遊んでやってください。子供は母親と遊ぶのが一番です」
咄嗟に出た割にはいい言葉が飛び出した。うん、母親との記憶はとても大切な物だ。ハッキリ言って、僕の人格設定には二人の母親の記憶は不可欠だっただろう。
「……は?」
何だか間抜けな(失礼なようだが、他に形容が思い浮かばない)顔で首を傾げるリリネットさんは、少しだけ年齢が下がって見えて、同い年の少女の様に見えた。
その後、渋るリリネットさんを説得してから別れ(最終的にとても楽しみにしている風だった)、夕飯の支度には支障が出そうな時間になってから家路につく。今日の分は食材が足りてるとの事なので余り心配はしていないが、遅くなったのは謝るべきだろうか?
そう考えながら玄関を抜けて居間に……
「ふざけるのも大概にしろ!!」
「・・・・・、・・。・・・・・? ・・・」
「しかし!!」
聞き覚えの無い男の怒号と、聞き覚えのある男のたしなめる声が聞こえてきた。位置は奇しくも今から向かう居間の中……
サンタ? 面倒事は良いんだけど、せめて明日からにとか出来ない?
ちょっと短め?
ちなみに香澄は、市場を歩くとタダで紙袋がパンパンになるタイプの主人公補正




