二時限目 クロマニョンジン
気になる所を聞いてみると、天賦の才と言うのは三人とも初めから持っていたらしい。効果で言えば、その項目に当てはまるスキルと行動に多大な補正が加えられるとか。
流石と言っていいのかやっぱりと言って良いのか……まあ、こいつ等だしな?
その他で共通しているのは幸運(偽)だが、これはどうも僕が幸運スキルを取った後辺りから自然に取れたらしい。アリアハムの話では、近しい魂の持ち主がどうたらこうたらしてパスがどうのこうのしたらしいが、起きた事としては僕の運を分割して三人にも宿ったらしい。そのため、本当はもっと上位のスキルが僕に宿るはずだったのが、一時的にランクダウンしているのだとか……んー、運関係のスキルはもういらないな。
後は冬野兄弟のなんか凄そうな称号とかのセットだが、アレは二人が入界門から出て来た後にあったイベント関係で手に入れたらしい。
サンタ曰く、変な爺さんに目を付けられた。
ヒヨコ曰く、親友が出来ましたっ!!
らしい。きっとこいつ等の事だから、どこぞの名のある神とかその辺に違いない。実際僕と香住もロキに会ってるし、それでこの二人に何もなかった訳がない。断言できる。
後はまあ、凄そうなスキルが満載な上に熟練度も高いと来た。しかもこいつ等、まだ魂の圧縮を一度もしていないらしい。つまり平均レベル三十の中で六十後半って……ホントにこいつ等の規格外ぶりが窺える。
そしてこいつ等のステータスに有る星マーク。そこだけ異様にステータスが低い気がして聞いてみると、どうもステータス表の仕様として、値が一万を超えると星マークに返還されるらしい。返還されると、そのステータスの格(?)のような物が上がり、一つ増えるだけで圧倒的な力の差が出るのだとか。
……まあ、この位は予想の範囲内だけどね。かえって百レベルを超えて無いだけまだ何とか付いて行けそうだ。……多分? きっと……おそらく?
「んー、取りあえずスズキーがこれ以上へこまない内に、この話はお開きにしようネ?」
失礼な、へこんでなんて無いぞ? 当然の事をされて納得してるだけだ。特に悔しくは無い……はず。
「そうだね。じゃあ……っと、そう言えば太郎はまだ会長に挨拶に行ってないんだったっけ?」
「挨拶?」
なんだ挨拶って、何か挨拶に行かないといけない所とかあるのか?
「ヴァルハラ領第909区画、主城アゼトライヘイム城二階第八会議室」
紙に書かれた文字を読み返しながら一人歩く。
時のころは日が真上から少し下がり始めた頃だが、気温はそこまで高くは無かった。空気に湿り気が少ないから、もしかしたら春か秋の頃なのかもしれない。向こうはもう蒸し暑い夏ごろだろうから、何だか得をした気分になれる秋晴れの昼下がりだ。
歩く街並みは……中世辺りの外国の風景と言う感じだ。ヨーロッパあたりなのかどうかは知らないが、石造りと木造が半々と言った感じに並ぶ街は、どこかの観光名所と言われれば納得してしまいそうな雰囲気だった。
舗装された歩道と、二台の車がすれ違えるだけの車道が整備された町並みは、そのまま地球に持って行っても怪しまれることは無いだろう。
……まあ、角や羽の生えた人が往来を行き来し、露店を構え、店の中で算盤(のような丸い木枠)を弾いている光景を飲み込めるかどうかと言う辺りで意見が分かれるだろうが。
うん、それはさておき。
今向かっているのは、この街アゼトライヘイムの丁度真ん中にあると言う城だ。
ちなみにさっき目が覚めた家はこの街の外れにあり、裏に超級の巨木が立っていた。その枝には満開の桜……のような花が咲いていて、とても綺麗だったとだけ言っておこう。下に積まれた花弁の山には目を瞑って。
まあ、外れにある家からでも見える所に在る城なのだから迷うと言う事は無いと思うが、城に拠るまでにいくつか用事をこなさなければならないので、ヒヨコが正規の工程を書いたメモをくれた。ほんとにいい子だ。
と言う訳で、きっちりと聞いておいたお菓子屋によってお土産を買うべく、少し早足で工程を終わらせることにする。まあ、半分くらいは城に行かないといけないから、街で行う事なんて本当に二個位なんだけどね。
「……ん? おおきたか。呼び出してすまなかったね」
城に比較的近い場所に在るカフェに入り、ここに呼び出した相手を探すが、今この店に居るのは銀髪のイケメンさんだけだった。
あの人は銀髪じゃないし……早く来過ぎたかな? と思った矢先、行き成り声を掛けられた。え?
「ん? どうしたいんだい? …ああ、この格好ね。一応これでも神様だからね、お忍びってやつさ」
軽く片目を瞑って顔に手をかざすイケメン。チラリと手の影から覗く顔と一部の髪の色は、まぎれもなく僕から九割の力を取り上げた人物だった。
「……どうも」
「結論から言えば君のその勲章を外す事は出来ない。何しろそれは僕が発行した勲章じゃないからね。しかもここの管轄の神の物でも無いから、すぐに外すことも出来ない。すまないが……」
「良いですよ、まどろっこしい説明は。なんとなく分かってましたから。それに何とかなりそうな目途もつきましたし……勿論いつかは解いてくれるんですよね?」
「当然だよ」と言いながら優雅にカップを傾けるロキさん。似合いすぎていて衝動的に張っ倒したくなってくる。……行かんいかん、何だか後ろから「やってみるか?」とでも言いたげな目線を感じる。平常心だ僕。
「? どうかしたかい?」
「何でもないですどうぞ進めてください特に何時頃外せるのか辺りとか気になったりしたりしちゃったりします」
む、動揺を隠すためにまくし立ててみたけど……最後ちょっと変だったような?
「クス。 そうだねぇ? 彼は出不精だから。何とかアプローチは取ってみるけど……期待できるほど早くは無いと思うね。まあ、その内何とかなると思うよ」
「……期待しないで待ってた方が?」
「良いだろうねぇ」とか言いながら再び優雅にカップを傾けるロキさん。……そろそろ「ヤッっちまうなら幾らでも方法が……」と言う目線を受け入れたくなって来るから、そろそろ誠意ある言動をお願いします。
「さて、時に太郎君? ここのお茶はどうかね? 一応僕のお気に入りの店なんだけど?」
何故かイケメンと一緒にアフタヌーンティーを楽しむ羽目になって約三十分。他愛もない世間話で、思いのほか有意義な時間を過ごせてほっとしていた所なんだけど……うーん?
「美味しいと思いますよ? 香りも良いし。僕の知っているのとは少し風味が異なってると思いますけど、それを差し引いたってとても上質な葉を使ってると分かります。ただ……」
うーん……言っても良い物か? 何だかニコニコしながら「ただ?」と問いかけてくる目の前の人が少し……いや、とても怖い。
しかし、立場的にコレを指摘しないのも……いや、しかしな~?
「そらそら、何がただなんだい? 特に怒る気は無いから言ってみなよ?」
「……少し、香りに対して味が物足りない気がします。見た限り、マスターの淹れ方に特に問題は無いように思うので不思議だったんですが……あの淹れ方にしては微妙に温度が低かったような?」
最初に口に付けた時の温度が、大体の適温より少し低めに感じたのだが、カップの柄はしっかりと温まっていたため、恐らくカップが冷えていたせいでは無いと思う。聞こえていた(店内は僕とロキの貸切状態だったので、何となく耳に付いた)沸騰の音から見ても、ポットに注いだお湯も適温だったはずだ。だとすると……
「……ロキ、君なにかした? 正確には蒸らし中のポットの中を冷やしたとか?」
まあ、お茶の種類にもよりけりだけd
バダン!!
「御名答だ、坊主」
答えた瞬間にロキが満足そうに微笑み……横から蹴り倒された。
「このアホが俺の淹れた茶におかしなことしてる時には如何してやろうかと思ったが……坊主、中々に行ける口じゃねぇか?」
さっきまでロキの顔が在った位置に人の腰が見えて、その後に順を追って上に目線を上げて行く。
……でけぇ。
目測三メートルと少しと言った所か? 褐色の肌に、天を引き裂かんばかりに固められた漆黒のモヒカンヘアーが輝くお方で、目線だけでモンスターを薙ぎ倒せそうな鋭い目を持っていらっしゃる。それに合わせる様に、隆々と盛り上がった筋肉、筋肉を(大事な事……と言うか率直な第一印象なので二回言ってみた)お持ちなので……詰まる所物凄く怖い。どこぞのリアクション芸人でも泣いて許しを請いそうなくらいには迫力がある。
……と言うか、ブーツの面積が踏みつけているロキの顔より余裕で大きいのは突っ込まない方が良いのか? 良いよね? 流石にここまで大きいボケ(?)は僕のキャパシティを一切合財超えてるよ?
「え~と? どうも?」
「そう畏まるなって」
そう言いながら大男は隣のテーブルから椅子を引っ張ってきて僕の正面に座る。正確には先ほどまでロキが居た辺り。
「ぬがぁー! ちょ、す、スルト君? 何だか僕の足首が何かしらの攻撃ヌォ~!?」
……僕の視界にはバタバタと地面を叩く手しか見えないが……恐らくテーブルの影では彼の巨体に潰された足首と苦悶の表情が在るのだろう。目の前でニヤニヤしている彼の手前、助けようとは思えないが。
「坊主名前は?」
グリン 「ゲぁ~!?」
「……太郎と申します」
「ほう、中々に良い響きだな。俺はスルト、しがない街角茶店のマスターだ」
「よろしくな?」と言う意味の握手には勿論応じた。
ギギギ… 「ギブッギブッ! あ゛、あ゛……ギョアーーー!!」
……アレは絶対にやだ。
その後も良いように椅子の向きを変え角度を変え……好き放題にロキを虐めながら世間話やら何やら(何話したっけ? 聞かれるまま全て話した気がする。だって悲鳴……)を話してから席を立ち、ようやくすすり泣くのを止めたロキが席に戻る直前にもう一度蹴りを入れてから、今度はさっきよりも白くて見るからに上等そうな茶器を置いて行った。
「こいつは家の一番良いのだ。値段はさっきのやつの五倍くらいだが……なに、どうせコレ持ちだから気にすんな」
と言う言葉を残して立ち去って行った。
「さて、何処まで話したかな?」
丁度蒸らし時間を表す砂時計が落ちるころにムクリと起き上ってきてからカップを手に取った(スルトさんが戻って来る気配が無かったので、僭越ながら僕が注がせてもらった)
彼は、何事もなかったようにそれを傾け、何事もなかったように話し始めた。
……一種のコントだったのか? だったら突っ込んだ方が……でもこの微かな血の匂いは? ……危険だ、黙っておこう。
ツッコミは自称しているが、それに命を懸けないのは僕のポリシーだ。少なくとも過去三回は命を懸けた後の教訓でもある。
「えと、ちょっとお茶の話になったので、マスターが気を効かせてくれて新しいお茶を出してくれた所です」
「ああ、そうだったね。ここのマスターは態度と図体はデカいが、気は効くし腕も舌も鼻も良いからどの茶も美味いんだ。夜に出す酒も一級品ばかりだよ? 今度来てみると良い。さて本題に入るが……」
お世辞……では無いような気がする。確かにこの質なら僕も通いたいし、店内の敗退的な雰囲気も結構好きだ。うん、今度皆も誘って来よう。
こうして話は見事に反らされ、僕たちは平和的に本題を話し合ってから店を出る事が出来た。
その後まだ時間が在ったので、先に菓子屋を巡って美味しそうなのを適当に買いあさり、ポーチに仕舞って歩く。コレは中身の状態が入れた時と変わらないから便利だ。
ついでに頼まれた大量の食料品なども買おうと思ったが、流石にそこまでの時間は無かったのであきらめ、城に乗り込むことにした。
城の入り口は跳ね橋……とかは無く、ただデン! と大きな門が高い塀にくっついてるだけだった。しかも開けっ放しの状態で蔓科の植物がびっしりと張り付いてるんですが……これ、城として良いんですかね? 見張りとか全くいないし。
見上げれば、向こうの世界ではまず見ないような巨大な城がそびえ立っている。しかも見学用に整備されたような感じでは無く、今も現役で使われているような人の気配のする城だ。正確には裏庭から響く剣戟の音とか大小様々な怒声とか……
「……うん、中入ろ」
遅れちゃ不味いしね。
「あのボッタクリ喫茶め、何が五倍だ。普通に二十倍くらいは行ってるぞ?」
※作者は紅茶の入れ方なんてほぼ知りません。ああ? っと思っても生暖かく見守っていてください。




