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鈴木な太郎君は薔薇の都で戦乙女と輪舞曲を踊れるか?  作者: へたれのゆめ
月曜日 目覚ましの音は閻魔の高笑い
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二十二時限目 何?横暴だと?どの辺りがだ?



 「ぬお? じゅげ…ぶ?」


 「キミは相変わらず面白い掛け声で起きるよネー」


 妙に痺れの残る腕を抱えて上半身を起こす。今は夜なのかアリアハムがお出迎えしてくれた。逆に、いの一番に挨拶してくれるメイドさんがいないと言う事でもあるのだが……


 「えーと、おはよう? 所でアルは?」


 そう聞いた僕の問いに「ム、」と顔を顰めるアリアハム、何故に?


 「寝起き一番に私の顔見るのがそんなに嫌?」


 「はい?」


 何でそんな落ちになるのかさっぱり解らないが、弁明その他をする前に「まあ、別にいいけどネ」とか言って話を終わらせるアリアハム。なんだろう、ゲームで言うところの選択肢好感度マイナス一って所か? 


 「アルなら、シエラにヴァルキュリーの基礎教育してるヨ。本当は専門学校に直接行かせるのが良いんだけど……まさかこの段階で産まれるとは思ってなくてネ」


 ならば行かせればいいのでは? とも思ったが、基本的に入界門を出ていない者の持ち物は地上に持って行けないらしい。持ち物の辺りでムッとしたが、自軍の兵は戦士の所有物として扱われるとか。ちょっと理解できない所だ。


 その辺りでもアリアハムが意味ありげな微笑みをしたが、別の話で切られてしまった。


 「まあ、どの道シエラはホイホイと学校にやれない理由があるからネ、最初の刷り込みが終わったらちゃんと行かせるヨ。ソモソモ学校の修了証が無いとヴァルキュリーは迷宮に潜れないから、どんなにワガママ言った所でいかせにゃならんのだけれど、ネ」


 「理由?」


 義務的な教育にはきちんと通わせると言うので安心したが、シエラに何か問題でもあるのだろうか? 強すぎるとか? でもそれだと刷り込みの意味が解らないし……


 「まさか即席な儀式で障害が残ったりとか?」


 あの有り合わせでの儀式だ、有り得ない事じゃない。


 が、その不安は一抹の物で終わってくれた。


 「カカカ、そんなんじゃないって。あの子は中々利発そうな性格してたヨ? 問題はあの子の血筋サ」


 「血筋?」


 産まれたばかりで利発そうって……もう話せたりするんだろうか? まあ、外見年齢だけなら十二~三歳くらいには見えるが……血筋とな?


 「スズキーは、アルからヴァルキュリーの血筋について聞いたことあル?」


 血筋っすか。


 「無い……と思うけど、確かフルネームは聞いたことあるよ。確か……アルシリア・S・28だったっけ?」


 「うん、多分最初の宣誓の時に名乗ったんだろうネ。それ以外の説明は…受けて無いみたいだネ?」


 アリアハムは一瞬考える素振りを見せる。よくよく見れば、こう言った仕草の端々にアルと似通った物があった。


 「そだネ、いい機会だからこれを機に話しておこっか。コレをアルに言わせるのはちょっと気が引けるシ」





 アリアハムの話では、ヴァルキュリーにはG~Sまでのランクと二十八の血筋があると言う事だった。


 だが、名前のミドル部分についているランクは本人の物では無く、そのヴァルキュリーの親の最終的なランクである、と言う所に注意なのだそうだ。


 つまり例を挙げると、


 アルシリア・S・28 = アルシリアはSランクのヴァルキュリーの子であり、二十八番目の血筋に連なるものである。


 シエラ・C・1 = シエラはCランクのヴァルキュリーの子であり、一番目の血筋に連なるものである。


 と言う事らしい。


 そしてここからが大切な事なのだが、この血筋にはそれぞれ特性があると言う事だった。


 1~5は高性能万能型で、非常に高い能力が見込める血筋である。


 6は魔法特化型で、魔法系全般が全血筋の中で飛び抜けて高い。


 7は物理特化型で、肉弾戦系全般が全血筋の中で飛び抜けて高い。


 8は治癒系特化型で、その分野においては神にも匹敵しうる。


 9,10は劣化版万能型で、1~5には及ばないが、高い能力が見込める。


 それ以降は数字が大きくなって行くにつれて性能で言えば劣ってくると言う事だった。



 「? じゃあ、シエラが一番強い血筋で、アルが一番弱い血筋って事?」


 「まあ、卓上の理論と言うか統計的なデータと言うか……平均的に見た場合の強さで言えば、ネ」


 アリアハムは苦笑気味にそう言い放った。どこか悲しげな、と言うか皮肉っぽい笑顔であったが。


 「ふーん? でも、アルの母さんはその統計には引っ掛からなかったんでしょ? だってSって事は一番高いランクって事なんだし」


 まあ、時間を掛ければ誰でも取れる程度の事だったなら別だけど。とか思ったが、輝き始めたアリアハムの顔がそうでは無い事を物が立っていた。


 「当り前さ、ラギアス様……アルのお母さんネ? あの方は本当に強かったんだから。二十八の血筋でSランクに至ったヴァルキュリーなんて、歴代でも十人居たかってくらいなのに、彼女はその中でも群を抜いていた。何しろ彼女が居た当時、どんなに控えめな表現をしたって、全ヴァルキュリーの中でも五指に入る強さだって言われてたんだから」


 口調は静かな方だったが、その顔は大好きなヒーローの事を語る少年の様な目をしていた。きっと本人とも交流があったのだろう、昔を思い出すような雰囲気が、そのことに信憑性が有ると言う事を物語っていた。


 何だか段階的に熱のこもった演説になりつつあったので、今日の所は説明を再開してもらう事にする。


 「え? あ、ゴメン。え~と? 何の話だったかナ?」


 「そう言われると何処に戻った物かとも思うけど……じゃあ、何でシエラを学校にやる前に知識の刷り込みをしなくちゃならないのかについて、とか?」


 「おお、ソコソコ」とか言って説明を開始するアリアハム。妙におどけているが、不思議と腹が立たないのがこの人の話術だったりする。カリスマの類かも知れない。


 「えっとねー、十番以内の血筋の奴らは何と言うか……派閥の様な物を作ってたりするんだネー。「我々は神の血族である~」とか何とか?」


 「神の?」


 何だそりゃ? あれですか? よくある選民主義者とか? それでなきゃ主教?


 「うん、神の血族云々は本当らしいヨ? たしか、十一番まではそれぞれ神の遺骸を使って作った擬似的な神様だったって言うし。まあ、十一番目は失敗しちゃって、それ以降は強い力を持ったヴァルキュリーの遺骸で試行錯誤を重ねたらしいんだけど……時間が経つにつれて、どんどんヴァルキュリーの神格が無くなって行ったから、二十八番目で研究は終了したって言うけど。ただ……」


 「ただ?」


 呼吸を一つ置いて、紅茶を一口飲むアリアハム。ストローでなければきっと絵に成ったに違いない。


 「ラギアス様の件もあるし、十番台なら結構いい成績を残すヴァルキュリーも居るから、そこまであてにはならないんダ。何だかんだ言ったって、結局はどの血筋も十一人の神様の血を継いでるからネ」


 「なるほど」


 つまりは、種族的な優勢を主張する集団か、何処の世界にもあるんだね、そういうの。


 「……つまり、学校って言うのは勧誘の絶好の場所って訳だ?」


 学校って事は、保護者が一緒に通う訳じゃないんだろう。と言う事は、産まれたばかりの幼気な子供たちを洗脳するにはもってこいな場所だ。誘拐まではしないだろうが、そう言った先公が居た場合は容易いだろう。


 「スズキー、あんたってニブチンなくせしてそう言う事は頭回るよネ?」


 ……ソレは肯定の言葉として受け取っておくけど……何故それを? そのお言葉は普段から香住に頂いている言葉なんだが……僕その事話したっけ? え? 何故そこでため息ですかアリアハムさん?


 「……まあ、そう言った派閥の生徒が混じってるってだけの話サ。基本的に淡々と座学を行うだけだし、金さえ払えば何度でも通えるからネ。勧誘専用の人員が生徒に混じってたりするから、そう言ったヤツの口車に我らがシエラ嬢が乗って行かないように、常識ってのを先に、ネ? 幸い素直ないい子だし、そんなにかからないと思うケド」


 「なるほど」


 何だか流されたようだから良いけど、僕ここで空気読まない事とかしたかな? 心当たりは……いくつかあるような?


 「と、この話は終わりだ。ソロソロ戻ってくる頃だからネ、それからスズキー?」


 「はい?」


 時間でも決めてたのか、話を切り上げるアリアハム。しかも何だか似合わない真面目な顔をしている。


 「説明こそしたケド、アルには余りその話ししないでネ? ……お願い」


 「え、り、了解?」


 最後のフレーズだけお姉さん化したアリアハムの雰囲気に圧されて頷く。


 「んふ、アリガト。スズキーはやっぱりいい子だネ」


 ……何だか解らないけど、多分家族内の踏み込んだ訳があるんだろう。


 話を世間話に切り替え、お茶を準備する。どうせアルが帰ってきたら入れてもらうため、一杯分だけ。


 だって、この役目取るとアルがむくれるんだもん。






 「つまり……こう?」


 「ちがうチガウ、こうしてこう!」


 「え? 言ってる事ちが……ああ、こう?」


 「お、一気によくなったネ。ソウソウ、それが基本」


 「なるほど、取りあえずはこれの反復で良いの?」


 「うん、スキル手に入れたら詳しい事解ると思うヨ? それまでは練習だネ」



 アリアハムのそろそろが適当だったので、あの後三十分ほど話してから今の行動に移って一時間。やっとの事で鎖投げの基本が解った。


 あの時(僕の拘束暴行未遂事件)鎖を投げて来た相手はアリアハムだと分かっていたので、時間が合えば教えてもらおうと思っていたから丁度良かったのだ。


 思った以上に難しかったが、基本だけは(投擲のスキル補正付きで)何とかなった。あの途中で曲がる投げ方とか訳わからん。


 「……流石にソロソロ……オ?」


 アリアハムが何度目かの声を上げた時、水場の方から物音がした。どうやら戻ってきたようだ。


 ……そう言えば、僕はシエラに直接会うのは初めてだ。アリアハムはいい子だと何度も言っていたが……


  ドン!


 「マスター!!」


 「ほひ?」


 ドアが蹴り破られるような音に振り返ってみると、目の前にはこちらに飛んで来る飛翔物……丁度マットパペットと同じくらいの速さで飛んで来るそれを、反射的に叩き落とそうとして止まる。


  ド! ガシャーン!


 最初に叩き落とそうとして行動を改めた分、受け止める体制に入るのが遅れ、結果一緒に倒れてしまう事になってしまった。ちなみに回避などは論外で。


 「アラマー」


 「づう……」


 「初めましてマスター! 本日からお世話になりますシエラ・C・1ともうします! マスター配下の軍ではざんていだいいいちいのしゅたいちょう(暫定第一位の主隊長)を務めさせていただきます! いご末永くお仕えさせt……」


 「シエラ! 体を清めずに居室に入らないようにと何度言えば……ってマスター!? シエラ!! 貴女は何をしているのですか!!」


 ……なにこれ? カオス?




 その後、アルによるお説教が三十分ほどあり、改めて自己紹介と宣誓(涙目の)と言う物を受ける。


 「いご末永く、おづかえじたぐ…ぐす…もうじあげまず」


 椅子に座る僕の前に跪いて口上を並べるシエラ。初めてここでアルが並べた宣誓を思い出すけど、鼻をすすりながら涙声で言い続けられるのもちょっとどうかと思う。まあ、無事に終わったみたいだから良いけど。


 「うん、こちらからも宜しくね? さ、難しい話は終わりだ。こっちおいで?」


 三十分間の正座の後に片足を立てた宣誓なんてしたからか、シエラの足元はガクガクと震えていた。産まれたての小鹿なんてピッタリな言葉ではないだろうか?


 そんな彼女の脇を抱えて持ち上げ、自分の股の間に座らせる。小さいからか、広くないその部分にピッタリと収まるシエラは、何処かポカーンとした顔でこちらを見上げていた。


 ヒヨコならこの体制になると頭に顎を乗せられるのだが、残念ながらこの子はちょっと背が足りないようだ、頭の高さが僕の胸ほどしかない。なので、僕はソファーの背もたれに体重を預け、シエラの綺麗な髪を手櫛で軽く梳く。サラッサラなその感触が病み付きになりそうだった。


 「んふふ」


 シエラも嫌では無いらしく、僕の行動に身を任せてくれている。くそう、可愛いなこん畜生。


 「……ぼそ(このタラシ、ロリコン)」


 「マスター、マスターは少々シエラに甘くは無いですか?」


 む、


 「そんなこと無いよ? なんたってシエラは産まれてから何日も経ってないんだから、あれはよく出来たんじゃないかな? それに、飛びついてきたのだって、寝坊して会えなかった僕に早く会いたかったからだろう? ほら、シエラはいい子じゃないか」


 よしよしと少し乱暴に頭を撫でてやると、「きゅ~」と言いながら笑顔になるシエラ。ああ、癒される。


 「む~」


 「……ぼそ(ロリコン、ヘンタイ)」


 ぬ、また視線が冷たくなってきた、と言うかアリアハムが何かつぶやいてるが聞こえない……一応言っておくが僕はロリコンじゃない。シスコンの気はあるけど。


 まあ、言わないけどね!


 「んふふ、」


 シエラがいきなり笑い出した、聞いてるだけで幸せになるような笑い声は、僕の兄貴心を刺激する。ああ、ヒヨコは元気かな?


 「どうしたんだい?」


 「マスターは、やっぱり優しい人でした! マスターが寝ていた二日間は、アル様やアリア様から、マスターがどんなにいいマスターかって、いっぱい聞いてて、ずっとお会いしたかったんです! マスター、これからずっと一緒に居て下さいね!」


  くら……


 何この子、笑顔が眩しすぎる。コレは危険物だ、絶対に一人じゃ歩かせられない……


 あの学校の全校生徒が来ていると言う事は、A組の縁井やC組の久保田が居るって事だ。普段からロリコン紳士を自称しているようなヘンタイ共にはぜってー会わせねぇ、崇めたりしやがったら三回コロス。


 「? マスター?」


 「え? いや、シエラが可愛すぎて困ってたんだ。シエラ? どこかに一人で行く時は絶対に誰かいに言うんだよ? 心配しちゃうからね」


 「約束できるかい?」と聞けば、即首を縦に振る。本当にいい子だなぁ。


 ……それにしても。


 「二人の口から、ねぇ?」


 普段の仕返し(主にアリアハム)と、少しわざとらしく言いながら二人の方を向くと、どちらも微妙に視線をそらしていた。


 さて、どうしてくれようか? 取りあえず……


 「シエラ? 二人は僕の事なんて言ってたの?」


 「え? えっとですね……」


 アルとアリアハムがシエラを更って行ってオハナシ(・・・・)を開始するまでは、五分と掛からなかった。




 しかし、困ったな? さっきの話だと、僕はまた二日ほど寝ていたようだ。……アレから二週間、つまり十四日が期限だったんだから……


 最初の工程で五日半、それから一騒動あった後に二日睡眠、ボス戦準備をして迷宮探査で約一日、ボス戦とシエラの羽化に二日半、そしてあの話と再びの睡眠に二日……つまり十三日は経過していると言う事か。


 実際には前後しているだろうし、初日は寝ないで迷宮にとんぼ返りしたから、恐らくはあと一日と半分……八階層の状態から見るに、場合によっては直に出なければ間に合わない計算になる。


 三人の話もそろそろ終わる頃だし、準備位はしておこう。


 そう思って、僕はボス戦その他のアイテムを倉庫に仕舞う作業に移った。

 

 ちなみに、アイテムの数からしてカシアアントの討伐数は最低千体になっていた事が解った。


 ……罠士最強じゃね? このせいで悪徳の肯定者取ったみたいだけど。




 また収納数が足りなくなって来たので、新しく三つほど倉庫を増やしておいた。何故かは知らないが、アイテムボックスを開いてみると五千万ヤルクが格納されていたのだ。モンスターはお金を落とさないから、多分ボスドロップなんだろうけど……こんな大金と言う事はニセ風神雷神かな?


 「ム? 金の匂いガ……」


 しまい終わった所で、丁度良く三人が戻ってきた。ぐったりしているシエラには申し訳なさが湧いてくるが、アルのお叱りを遮ってしまった分と言う事で許してほしい。


 「お帰り、帰ってきていきなりだけど、アリアハムに聞きたいことが……」



 結果、ここからはさして時間は掛からないと言う事だったので、この日は買い出しとお茶会をするのみで終わりにして、また川の字で寝る事になった。

















 「しかし、王権持ちの配下を手に入れた覚醒の戦士…か、本当にあの人を見ているみたい。貴方はどんな生き様を私に見せてくれるのかしら……ね?」



 シエラ覚醒


 ……なに? ただでさえ少ない登場キャラが性格被ってるだと? 戯け! 作者はかわいい妹キャラが大好きなのだ!!


 ……あー、おほん。一応次回で月曜日編は終了予定です。


 一応作者用の主人公の現行能力表ものせようかなーとか思ってますが、あまり期待しないように。


 それでは、またしても駄文失礼しました。次回もまた一つ覗いてやってください。

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